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三度目の勝負 前編

「メロ。いい? これから私たちであの男をぶちのめすわよ」


 学院の敷地内の端のほうにある少し広めの空き地。そこから少し離れた茂みの中でレアは隣にいるメロにそう言った。


 マケナは現在レベッカに雑用を頼まれているらしく空き地で何やら作業をしている。


 すると、メロはレアの発言に対して少々怪訝な表情をする。


「ぶちのめすって……。今更かもしれないですけど僕たちマケナさんにお願いしに行くんですよね?」


「あの男を納得させるには私たちの力を見せるのが手っ取り早いのよ」


「でも僕たちすでに二回負けているんですけど……」


 メロはいつになく不安そうに声を発する。


 しかし、レアは自信満々な表情のまま空き地にいるマケナを見つめていた。


「そうね。でもだからってこのまま永遠に勝てないとは限らない。負けた原因を考えていけばいつかはあの男にも届くはずよ」


「……いつになく冷静ですね。姉さんが頭を使うって何かあったんですか?」


「どういう意味よ」


 メロの発言にレアはぎろりと視線をメロに向ける。


 しかし、すぐに表情を柔らかくさせて空き地へと顔を向けた。


「まあいいわ。それで、メロはあの男に勝ついい作戦はある?」


「作戦……ってほどじゃないですけど。以前の戦いで僕マケナさんに言われたんですよ。『本気を出してたら結果が変わってたかもしれない』って」


「は? 本気を出してたら? 出してたに決まってるじゃない」


 目を細めて露骨に嫌な表情を浮かべるレア。


 マケナの嫌味と受け取ったのだろうが、メロの気まずそうな顔を見てレアはすぐに口を開いた。


「まさかあんた手加減したの?」


「いや……さすがに危ないなと」


 目の前で睨みつけてくるレアにメロは視線を左右に泳がせながら話す。


「呆れた。実戦じゃないとはいえ本気でやらないと意味ないじゃない」


「姉さんは本気を出し過ぎな気が……」


「……」


 メロの小声の反論にレアは不機嫌そうにするが、それ以上は特にメロには言及をしなかった。


「それで、具体的に何か案は無い? こういうのは私よりもメロのほうが向いているでしょ。裏で色々考えたりよくやってるじゃない」


「いやな言い方ですね」


 メロは少し卑屈な様子で「ハハ」と笑う。


「まあまずはお互いの『レジェンダリースキル』の事を思い出してみましょう。姉さんはどういったスキルでしたっけ?」


 『レジェンダリースキル』。それは勇者のみが持つ特別なスキルだ。


 大抵は普通のスキルと比べて破格の効果を持っているものが多い。


 別に忘れているわけではないのだが、メロは確認の意味を込めてレアに尋ねる。


「私は『神々の泉』。すべての基礎魔法を習得可能で、さらに魔力が無限っていうおまけつきね」


 ぺらぺらとスキルについて話すレアだったが、メロはそのあまりの強力さに思わず笑みをこぼした。


「改めて聞くとやっぱりチートですね。世の魔導士が間違いなく嫉妬するレベルのスキルですよ」


「それでメロは? ここはあんたも話すのが筋でしょ?」


「僕は『最弱の一撃』です。魔法の威力上限の解放かつ、姉さんの無限ほどではないですけど膨大な魔力を持っています」


 お互いに『レジェンダリースキル』の確認をし、二人は「うーん」と唸り声をあげたまま動かなくなる。


 二人の間に共通の疑問が思い浮かぶ。


「「どうして勝てないんだ?」」


 これほどの才能に恵まれ何故たった一人に勝てないのだろうか。


 そして、またしても二人の間で共通の答えが思い浮かばれる。


「やっぱり経験の差か」


「そうですね。僕らには圧倒的に足りてない」


 二人は今も空き地で作業をしているマケナに視線を戻す。


「結局あの人に挑み続けるしかないみたいね」


「そうですね。ーーでもはなから負ける気で挑むつもりは無いです」


 そう話すメロはなにやら考えているのか顎に手をあてて何かをぼそぼそとつぶやいていた。


「何? 作戦でもあるの?」


「マケナさんを逃がさず戦いに持ち込む方法はあります。でもそのあと勝てるかは僕らの実力次第です。姉さんはあの人に勝てるビジョンはありますか?」


「うーん……どうだろう。色々と考えてきたけどどれも通用するかは自信ない」


 いまだ実力の底が知れないマケナにレアは不安を隠せない。


 しかし、それはいままでのような慢心が消えた証拠かもしれない。


「分からないことは一つずつ試すしかない。姉さん言ってましたよね? 『負けた原因を考えていけばあの男にもいつかたどり着く』って」


「そうね。とりあえずやるしかない。とりあえずもう行きましょうか」


 そして、二人はついに目の前の空地へと足を踏み入れた。


 林を抜け、レアはゆっくりとマケナのもとへと近づいていく。


 一見隙だらけに見えるマケナの背中だが、レアは不意打ちを仕掛ける気配はない。


 あくまで正々堂々と、そういった気持ちがレアの表情から読み取れる。


「ちょっと、顔貸してくれない?」


「……はぁ。またか」


 振り返り際にマケナは表情を一瞬でめんどくさそうに歪ませる。


「悪いが仕事中なんだ。お遊びなら誰かほかのやつにしてくれ」


「今回はお遊びじゃない……って言ったら?」


 レアはにっこりと口角を上げてそう口にする。


「今回は……ね。少しは身の程を知ったらしいな。だが俺がお前らに大事な時間を割かなきゃいけない理由がどこにある?」


 そう話すとマケナは仕事を終えたらしく変える準備を整え始める。


「あれ? 私にはもう仕事は片付いたように見えるのだけど?」


「レベッカにこの辺りの土地の確認を頼まれたんだ。よく知らんが新たな建物を建てるらしい。とりあえずその仕事はもう終わってる。でもこれから他の用事があるんだ」


 マケナは荷物をまとめた小袋を担ぐとレアとメロに向きなおる。


「一応聞くけどどんな用事?」


「夕飯前にひと眠りするんだ」


「……」


 声を発さないが、レアは額をぴくぴくさせてなんとか怒りを抑え込んでいる。


 しかし、それも時間の問題らしい。レアは拳を握りしめてマケナの事を睨みつけ始めた。


 すると背後にいたメロがレアの前に出て何気なくその怒りを押さえつける。


「姉さん。ここは僕に任せて」


「……お願い」


 なんとか我慢するとレアは一歩後ろに下がりメロの斜め後ろに立つ。


「なんだ? 今度は弟のほうと話さなきゃいけないのか?」


「別に僕らもお話ししに来たわけじゃないですよ。戦いをしに来たんです」


「さっきの話を聞いてなかったか? 俺は……」


 イライラした様子で話すマケナにメロは強引に割り込んで口を挟んだ。


「逃げたいなら逃げればいい」


「っ!? ーーどういうつもりだ?」


 ギラっと瞳を光らせるマケナだが、メロは一切引く様子は見せない。


 それどころかメロは畳みかけるようにさらに言葉を続けた。


「これは僕らからのあなたへの決闘の申し込みです。それを断るということはあなたが負けを認めるということですよ?」


「そんな安い挑発に俺が……」


「『才能に足を引っ張られている』僕らに負けでいいならどうぞ行ってください」


 もはやわざととしか思えないタイミングでメロはマケナの言葉に自らの挑発を重ねていく。


 マケナの言うようにわかりやすい挑発ではある。


 誰がこんなものに乗るのかとレアは不安そうな様子を見せるが、その不安はすぐに打ち消される。


「やってやるわ!! お前らボコボコニしてやる!! 今更謝っても遅いからな!!」


 子供の様に怒鳴り散らすマケナにレアは口を開けてあきれ顔になる。


「……ちょろい」


 そして、ついにレアとメロ対マケナの三度目の戦いが始まった。


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