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強者の理由

学院長室。そこでレアとレベッカは机を挟んで向かい合っていた。


「--それで? マケナはどうだ?」


 説教とは言っていたもののレベッカはそう切り出す。


 しかし、レアは特に驚く様子も見せずにゆっくりと口を開いた。


「正直あの人の強さの『理由』が分からない。人間離れした身体能力に咄嗟の判断力。あげくには魔法を蹴り飛ばす。滅茶苦茶すぎる」


「まあそりゃあそうだろうね。あいつの強さははっきり言って私たちと種類が違う」


 腕を組み何度もうなずくレベッカ。


「杖を持っているようにも見えなかった。学院長。あの人の魔法って一体?」


「うーん……」


 不思議そうに尋ねてくるレアに対してレベッカは顔をうつむかせて深く考え込む。


「言ってしまうとマケナは魔法はほとんど使えないんだよ」


「は? 使えない? でも実際私たちはあの男に散々……」


 圧倒的なスピード。魔法を蹴り飛ばすという普通ではない行動。直接魔法を行使するところはレアも見てはいないが、マケナのあの強さはやはり異常だった。


「別に全く使えないわけじゃない。お前ら勇者に比べればちっぽけだが、マケナにだって一応だが魔力はある。その少ない魔力を駆使してあいつはあの強さを手に入れたんだ」


「……」


 レベッカの話にレアは思わず黙り込んだ。


 魔力量では圧倒的に自分が勝っている。それなのにあの実力差はなんなのだろうか。


「私も詳しくは知らんが、マケナのあの強さは決して才能だとかではない。実際昔のあいつはこの学院で最も弱かった。あいつは努力で力を手に入れたんだよ」


「努力……」


 レアは思わず『努力』という言葉を反芻していた。


 小さいころから英才教育を施され、自分はずっと『努力』をしてきた……はずだった。


 レアの頭に浮かぶのは以前学院長室でマケナに言われた言葉。


「才能に足を引っ張られている」


「別にお前ら双子を悪く言うわけじゃないが、マケナがそう言ったのは私もよくわかる。なんというかお前らは戦い方が雑なんだよ。『工夫』が感じられない」


「『工夫』……か」


 才能があるせいで力押しですべてが上手くいってしまう。それはここ最近でレアが感じていたことだった。


 レアは勇者としてあまりのふがいなさに思わず歯噛みする。


「ーー学院長。一生のお願い。私に戦い方を教えてほしいの」


 レアはレベッカに深く頭を下げてそう言った。


 レベッカは突然のレアのその行動に思わず身を引いてしまう。


「おいやめろ! レアらしくもない!」


「調子がいいのは分かってる! でも私は『勇者』として強くならなければいけない! そのためには学院長が必要なの!」


 決して頭を上げようとしないレアにレベッカは眉を寄せて困り顔になる。


「教育係ならマケナがいるじゃないか。私が一番適役だと思ってあいつを呼んだんだ。頭を下げるならマケナにしろ」


 「やれやれ」と言いながらレベッカは手を左右に振る。


 しかし、レアはそれでも引き下がらない。


「魔導士ランキング三位の学院長にお願いしてるんだ。強くなるなら学院長のようなより強い人がいい」


「……」


 レアの言葉にレベッカは何も言わずに黙り込む。


 諦めないレアにかける言葉を考えているのかと思いきや、レベッカの表情はどういうわけかキョトンとしている。


「レア。もしかしたらお前何か勘違いしていないか?」


「勘違い?」


 雰囲気が変わったことに気が付いたレアは顔を上げてレベッカを見つめた。


「マケナは私よりも強いぞ」


「……え?」


 レアの表情が氷のように固まる。


「私の知る限り最強の魔導士がマケナだ。世間にはあまり認知されてないけどな」


「いやいやいやいや! 学院長よりも強い? それってあの男が魔導士ランキング……」


「あいつはランキング圏外だ。魔導士としては少々異質な存在だからな。それにあいつ自身表面上のランキングには興味が無い」


「何それ……ますます意味が分からないんですけどあの男」


 魔導士として圧倒的実力を誇るレベッカにここまで言わせるあのマケナという男。


 レアの中でマケナへの興味が次第に大きくなっていく。


「でもあの人私たちに指導してくれる気配が無い……」


 面倒くさがられているというよりも嫌われている気がするレアは目を細めて気の抜けた表情を浮かべた。


 それに対してレベッカは小さくうなずいて「うんうん」とうなずく。


「マケナは面倒くさい奴だからな。認められるには強くなるしかない」


「強くなるために指導をお願いするのにそのために強くならなきゃいけないって……。なんかやたらと遠回りしてる気分」


 そこまで話してレアとレベッカは同時にため息を吐く。


「やっぱり学院長に教えてもらったほうが……」


 レアは期待を込めた視線をレベッカに向ける。


「無理無理。私の闇魔法は私にしか使えない『独自魔法』だからな。教育係としてはあまり適してない。それにそんな面倒くさいこと私がするわけないだろ」


「学院長……」


「私は結構忙しいんだよ」


 ジト目で見つめてくるレアに対してもレベッカは特に動揺は見せない。


「--まあ強くなるための方法はいろいろある。教えてもらうよりももっといい方法があるかもな」


「?」


 突然の意味深な発言にレアは首を傾げることしかできない。


「『学ぶ』って言うことは自主的にもできるってことだよ。あとは自分で考えな」


 それだけ言うとレベッカはレアの背中を強く押して出ていくように促す。


 レアは特に抵抗することもなくトボトボと学院長室から外へと出ていった。


 背後でドアを勢いよく閉められレアは廊下で一人立ち尽くす。


「自主的に……か。なんとなくわかったかも」


 レアはポツリとそれだけつぶやくとすぐに廊下をあるきだした。


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