ひねくれ教育係と出会い 後編
「おいレベッカ! 俺がこいつらの教育係だなんて聞いてないぞ!」
先ほどまでの落ち着いた雰囲気はかけらもなく、マケナは声を荒げてレベッカを睨みつける。
どうやらマケナ自身もこのことは聞かされていなかったらしく、レアとメロも何が何だかわからないといった様子で困惑していた。
ただ一人、その問題の発言をしたレベッカのみが澄ました表情でたたずんでいた。
「だって言ってないもの。マケナが知らないのも当然のことよ」
「ふざけんな! 急に呼び出されたかと思ったらそんなめんどくさそうなこと……!」
マケナはひときわ強くレベッカを睨みつけたあと、その視線を隣にいる双子の勇者にずらしていく。
レアはその殺気すら感じる鋭い視線に一瞬身を震わせたが、すぐに首を左右に振ってマケナを睨み返す。
「な……何よ! なんか文句でもある?」
「文句? さっきも言ったけどな、俺のお前らの評価はせいぜい十五点ってところなんだよ。褒める部分よりも文句を言いたいところのほうが多いくらいだ」
「っ!?」
マケナの言葉にレアは即座に怒りをあらわにした。腰に下げてある杖に素早く右手を持っていく。
しかし、マケナは特に慌てた様子も見せずいたって落ち着いた態度で口を開いた。
「それだ。自分の感情を制御できてない。もしこれが実戦だったならお前のそれは弱点でしかない」
「--あ……あれ? ない! 杖が!」
いつもなら杖が下げてある場所には何もなかった。レアは視線を腰に向けて確認するも、やはりそこには杖など見当たらない。
「探してるものはこれか?」
レアがマケナの声に顔を上げると、どういうわけかマケナから差し出された手にはレアの杖が握られていた。レアは驚愕のあまり表情を歪ませる。
「ど……どうして」
「どうしてもなにも俺は普通にお前よりも早く腰からこれを抜き取っただけだ。無防備にも隙だらけだったからな」
それだけ言うとマケナは手に持っていた杖をレアに向かって放り投げた。
レアは最早戦意を喪失しているらしく、杖を手にしてもそれを構える気配はない。カタカタと身を震わせているだけだ。
「--あと後ろのお前。それは撃つのか?」
「な!?」
レアの背後。マケナの死角に入るように隠れていたメロはひそかに杖を構えていた。杖の先端にはすでに魔力が充填されており、風属性らしき緑色の球体が出来上がっている。
「撃つのは一向にかまわない」
それだけ言うとマケナはうつむいているレアをそっと横にどかした。
それによりマケナとメロの間に障害は何もなくなる。
「だが、当てられるのか? それを俺に?」
メロの瞳は動揺のあまり大きく見開かれた。しかし、構えたその杖は銅像のようにかたまってしまい動かない。
「やめておけメロ。どうせ当たらない。それに後片付けが大変になる」
レベッカはメロの腕に手を添えると、優しく杖を下ろさせる。
「大人げないぞマケナ。こいつらはまだ子供だ。お前だってこのくらいの時は今よりずっと未熟だっただろう?」
「実力がどうこうじゃない。将来性の話だ」
レアとメロを順番に見ていくマケナ。その瞳は氷のように冷たく感情が無い。
「『才能が足を引っ張っている』。はっきり言うが俺はこういうやつが嫌いなんだよ」
そう言い残すと、マケナはレベッカに軽く手を振り室外に向かって歩き出した。
「マケナ! これからどうするんだ? 仕事もないんだろ?」
レベッカの声にマケナはその足を止めて固まる。
「教育係の件は気が向いたらでいい。ひとまず私の手伝いでもしないか?」
「……」
マケナはレベッカの提案にじっと考え込む。しかし、数秒してすぐにマケナは口を開いた。
「しょうがねえ」
そう言い残すとマケナは今度こそ学院長室から出ていってしまった。
それを見送ったレベッカはどういうわけか満足げな表情を浮かべている。
「さあ! これから面白くなりそうだね」
レベッカは今もじっとしているレアとメロを見つめそう口にした。