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ひねくれ教育係と出会い 前編

 とある預言者が『魔王が復活する』と言ってからはや数年。世界は驚くほど平和な日常を謳歌している。


「あんたら。いくら勇者だからって怠けすぎ。教師たちからの苦情が滅茶苦茶来てるわ」


 そう呆れ顔で口にするのは学院長のレベッカだった。

 レベッカは机越しに並んでいる双子の姉弟をいつになくきつく睨みつける。


 しかし、怒られているとうの本人たちはどこか気の抜けた表情だ。

 姉のレアはどこか納得のいっていない様子で、対して弟のメロはレベッカの話など聞いていないのか窓の外をのんきに眺めている。


「……だって、あの授業の内容もう知ってるから」


 勇者として育てられたレアとメロは他の生徒たちとは比べ物にならないほどに英才教育を施されてきた。その結果二人はその年齢に見合わないほどの実力を身に着けたのだ。

 

 しかし、それと同時に二人の胸の中には決して小さくはない傲慢が生まれてしまった。


「そうだとしても授業中に堂々と寝るって……」


 頭を抱えるレベッカ。それを見て、メロは特に気にもしない様子で口を開く。


「僕は寝てませんよ。いたって真面目に授業を受けています」


「ちょっとメロ! あんただって授業が退屈って言ってたじゃない!」


 突然の弟の裏切りにレアは声を荒げる。その瞳にはわかりやすく恨めしいと思う感情が込められていた。


 しかし、メロはいつものように何の反応も示さない。


「メロが真面目にしているのは知っている。苦情のすべてはレアに対するものだからな」


 レベッカの言葉にレアは思わず「うっ……」と声を漏らす。


「私がメロも呼び出したのは、メロからレアに言い聞かせてほしいからさ。この生意気な勇者は他の誰が言っても聞かないだろう」


 そう言ってレベッカは雑にレアの事を指さす。すると、メロは珍しく面倒くさそうな反応を示した。


 ため息を小さくついてメロはレアに向きなおる。


「姉さん。もう少しうまくやるようにしてください。そうしないと今回みたいに僕にも面倒ごとが回ってき来るんですから」


 メロのその言葉にレアとレベッカは即座に表情を歪ませた。


「……メロ。姉に対して少し態度がデカすぎるんじゃない?」

 

 見るからに怒りを顔に浮かべ始めるレア。口元がぴくぴくと震えていた。


 レベッカは二人の様子を見て「またか」と言わんばかりに嘆息する。


「僕は思ったことを言っただけです。何か間違ったことを言ったのなら教えてください」


「あんたはいつもそうやって他人を見下したような態度をとって。いい加減姉としてしつけてあげないとダメかしらね」

 

 腰に下げてある木製の杖に手を添えるレア。杖は片手で振り回せるほどに小ぶりで、レアと同じものがメロの腰にも下げてあった。


 メロはレアの動きを見て同じように自らの腰に手を添える。


「……姉さんが動いたら僕も迷わず攻撃します」


「ーーそれは先手を譲っても負けないって言うこと?」


 レアは今にも噴火しそうな様子でそう口にする。


 しかし、メロはそんなレアの様子など気にもしない様子で小さくうなずく。


 それを見たレアはついに我慢の限界が来たらしく、即座に杖を抜いて正面に構えた。


「吹き飛……!?」


「動くな!!」


 レアとすでに杖を構えていたメロは突然のその怒号に動きを止めて固まってしまう。しかし、二人が動きを止めたのはその声が原因ではなかった。


 膨大な魔力の反応。それが部屋の奥にいるレベッカの黒鉄の杖から発せられていた。


「それ以上好き勝手するならこのまま撃つ。死にたくなければそのまま大人しく杖をしまえ」


 レベッカのその言葉に二人は文句を言う様子もなく素直に従った。


 レアはさっきまでの怒りが嘘かのように縮こまっている。メロは一見いつもと同じように見えるが、その顔色は信じられないほどに真っ青になってしまっている。


 二人がようやく大人しくなりレベッカは大きく息を吐く。そして、その重くなった口をだるそうに開こうとする。


「お前らーー」


「十五点ってところだな」


 レベッカの言葉を遮り、見知らぬ男がそう口にした。


 レアとメロは突然現れたその男に驚愕の表情を浮かべる。男はレアとメロのすぐ後ろにあるソファーに腰を掛け、優雅にコーヒーを口にしていたのだ。今までその存在にかけらも気が付かなかったことに二人は驚くことしかできない。


 しかし、二人とは違いレベッカは特に驚く様子は見せない。それどころかどこか嬉しそうに口を真横に伸ばしている。


「待ってたぞマケナ」


「……」


 マケナというその男はレベッカの呼びかけに一度だけ顔を向けると、特に何も言わずに再度コーヒーを口に運んだ。


 レベッカは特に嫌な表情を見せる様子はなく、レアとメロの横を通ってマケナの元まで歩み寄っていく。


「久しぶりだな。相変わらずのようで何よりだ」


 そう言うとレベッカはマケナの飲んでいるコーヒーをササっと奪い取る。

 

「あっ! ちょっ……!」


 マケナは突然のことに慌てた様子で情けない声を上げる。


「あまっ! --相変わらずかっこつけたがりなのは変わらないな。わざわざ見せつけるような登場したりしてさ……」


「うるせぇ! 俺の勝手だろ!」

 

 あきれた様子のレベッカに対してマケナは赤面しながらもなんとか反論する。

 

 --それからレベッカとマケナは慣れた様子で話しをしていた。


 しかし、レアとメロはいい加減置いてけぼりな感覚に嫌気がさしたらしく、レベッカとマケナの間に半ば無理やりに割り込んだ。


「ちょっと学院長! いい加減説明してください!」


「そうですよ。この人は一体誰なんですか?」


 突然の二人の詰問にレベッカは忘れてたかのように「あぁ……」と声を漏らす。そして、何気ない様子で次の言葉を続けた。


「この男マケナはお前ら勇者の指導係だ」


 一瞬の静寂。


「「「え!?」」」

 

 双子の勇者、さらにマケナの驚きの声が室内に響き渡った。

 

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