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婚約はどうなるのか

 


「………………は困ります、ロスキアート侯爵」


「しかしこちらも…………」


「……それは私も……」



 玄関にたどり着くと、父とハイハルト様が言い争っているのが聞こえてきました。

 父が抵抗しておりますが、ついに……言われてしまったのでしょう。

 落胆した気持ちを抑えながら声をかけました。


「お待たせいたしました、ご機嫌麗しゅうハイハルト様」


「リ……」


 バッとこちらを見たハイハルト様は、いつもよりゆるく上げた髪に白いシャツ、紺色のベスト、薄い紫色のネクタイを締めており、少しだけ驚いた顔でこちらを見ている姿すら凛々しく見えました。


「ハイハルト様?」


「あ、いや……ワンピース、とてもよく似合っている」


「ありがとうございます」


 私は髪をハーフアップにし、淡い水色のワンピースに檸檬色のヒールを合わせた格好をしております。

 今までの服装からは程遠いため、似合っているという言葉に少しほっといたしました。


「………………」


「………………」


「あー2人とも、出かけないのかな?」


 黙って立っていた私たちにお父様が声をかけました。まさか、このまま出かけるのでしょうか。

 婚約破棄の話をしていたはずではと、声をかけようかと思った時、ハイハルト様が手を差し出して下さいました。


「リ…………リリアンローズ、行こうか」


「は、はい。ハイハルト様」



 そういえば、こうやって手を差し出して下るのはいつぶりでしょうか。神託が降りてからというものいつも私の方から腕を組みに行っていたような気がします。とても勇敢な行動だったなと思い出します。


「……リリアンローズ?」


「はっ。も、申し訳ありません」


 先に馬車に乗ったハイハルト様がまた手を出して私をエスコートして下さいました。


 ぼーっとしてしまうなんて、最後のデートかもしれませんのに勿体ない。今日は1秒足りとも漏らさずにハイハルト様を見ていよう、その決意と共に馬車に乗り込みました。



 ※ ※ ※



 馬車に乗ってから向かいに座るリリアンローズからずっと視線を感じていた。

 今日の彼女のワンピースは彼女らしくてとても似合っている上に私の瞳の色と同じ色をしている時点で顔の緩みをどう隠したら良いのか分からず必死に装っていた。

 更に、どのタイミングで『リリィ』と呼ぼうかと考えていたために、そんなに見られるととても恥ずかしい。

 考えている間だけ外を見ていようと思っていたが、これではいつまでも呼べそうにない。


「はぁ…………」


 私がため息をついてリリアンローズを見ると彼女は少しびくっとして不安そうな顔をした。それにちょっとムッとした私は席を立つ。


「ひっ」


 ストンと隣に座ると彼女は狼に狙われる兎のように震えた。


 私はムッとした表情のまま彼女の方に少し寄る。


「…………」


「…………」


 それでも視線を逸らさない彼女をじっと見つめ返すが、やはり視線を逸らすことをしない。


「………………」


 ゆっくりと手を伸ばして彼女の頬に触れる。

 泣きそうな顔の彼女に、どうやって声をかけて良いか分からない。

 知らない。こんな愛おしいと思う気持ちを。


「リリィ」


 口からそう洩れた瞬間、大きく開かれた瞳から涙が伝った。

 その涙を指で掬いながら彼女の顔を引き寄せおでこにキスをする。


「ひゃっ」


 後ろに飛び退いた彼女の手を掴んだ。

 顔がにやけているがもう、どうでもいい。


「ハ、ハイハルト様!」


「ハルト様って呼んでくれないの?」


「え、いえ、ですが」


「リリィ」


 顔を真っ赤にして狼狽える彼女をいじめている様に感じるが、ここは呼んでもらわないと困る。

 ずっと誰にも呼ばせたくなかったんだ、その名は。


 俯いてしまった彼女をのぞきこむ。


「リリィ?」


「で、でも、先程お父様と婚約を破棄するお話をなさっていたのでは」


「は?」


「その、この馬車に乗る前に」


「………………」


 また額にシワがよっている気がする。何故この雰囲気の中で婚約破棄なんていう恐ろしい単語をだすのだろうか、彼女は。



「リリィ、あれはロスキアート侯爵が……」


「お、お父様から?」


「違う、ロスキアート侯爵が、その、結婚を、延ばそうとするから……」


「え?」


「そもそも、私が婿に入るのだから早く勉強をさせてほしいと言うと、家族の時間を取りたいからまだ当分来ないでくれと……」


「そ、それは大変申し訳ございませんでした」


 ご両親の方が長く、辛いリリアンローズを見てきたのは知っているし、結婚したら2人きりの時間がたくさんやってくるだろう。という言い分も分かる。

 早く一緒に過ごしたい、結婚させてくれ!という私の言い分も分かってもらえた。

 今お互いに『分かるが譲れない』冷戦状態だ。


 …………馬車で迎えに来てデートするのも悪くないだろうという言葉には少し、心揺れたが。



「ですが、私のどこが、そんなに良いのか私には分かりません。本当に私で良いのですか?」


「………………」


 また、気持ちが落ち込むことを言ってくる彼女を恨めしい目で見つめる。


「ハイハルト様?」


「どこが良いか、ね」


 なるほど、やはり言葉にしないと伝わらないのだね。


「はい」


「それなら、全部言った方がいいかな?」


「ぜ、全部?」


「そんなに聞きたいなら全て答えてあげなくてはね?幸い今日はたくさん時間があるんだ」


 この後も公園に向かってすぐベンチにでも座ろうか、と言う。


「そんな、それは困ります!」


「そうかな?困るかな?」


「え、ええ!」


 赤い顔でコクコクと頷く彼女との距離をまた詰めた。


「では、名前を」


「はい?」


「名前を呼んで?」


 分かるよね?という意味合いを込めて首をかしげる。


「ハイハルト様……」


「それじゃないでしょう」


「……ハ」


「ハ?」


「…………ハルト様」


「よくできました」


 そう言いながら彼女を膝の上に乗せた。

 公園で彼女のどこを好きなのかを話すつもりなのは一先ず内緒だ。


 真っ赤になる彼女抱きしめながら、やはり結婚を早くするためにはどうしたら良いか真剣に考えたのだった。



お読みいただきありがとうございます。


ハイハルトはリリアンが頑張っている姿が大好物です。

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