新しい環境で
私が元に戻ってから数日間は慌ただしく過ぎて行きました。
世話を続けてくれていた侍女に謝罪とお礼をし、部屋に綺麗な花を届けてくれていた庭師に感謝し、部屋にあるゴテゴテとした宝石や洋服をほぼ全て売り払い、私の好みのドレスなどを数着購入するなど、『悪役令嬢』として生きてきた生活をリリアンローズとしての生活に変える為の活動でございます。
侍女などは、『冷たい言葉の中でも気を使ってくれていたのは知っておりました』と皆が言ってくれ、庭師は『花を見つめる時だけは元のリリアンローズ様に戻ると鼻が高かった』と自慢げに話してくれました。
私はずっと泣きっぱなしになってしまい、侍女に怒られたのは内緒です。
それにしても、神からのお告げがあった最低限の洋服や宝石を、購入しておりましたが、それらを売っただけで屋敷を購入できると聞いた時は、何故これらを買い続けても家が傾かなかったのか不思議でたまりません。
お父様が頑張ってくださっていたとも聞きましたが、それはそれは苦労をかけてしまってという事でしょう。
一生頭が上がりそうにありません。
そこからまた数日後の今日。
ハイハルト・ロイスベーク様と会う日でございます。
「………………」
「お嬢様、顔色があまり良くありませんね」
「緊張して、眠れなかったのよ。はぁ……どうしましょう。会ってすぐに婚約破棄と言われたりしたら。そもそも、なぜお父様達は婚約を破棄なさらなかったの」
「それは……」
「違うわね、何故ロイスベーク侯爵家から破棄されなかったのかしら。こんな悪評高い令嬢なんて結婚相手に相応しくないもの……」
今日何度目か分からないため息をつきます。
あの日、ナイフで刺された後からの記憶が曖昧なため、どのようにして帰ってきたかも分かりません。
その後に夢を見ていた様な気はしますが、あの状況で気を失うなんて迷惑以外の何物でもないのですから。
「あんなに大きな喧嘩をしたのだから、周りも婚約破棄されているだろうと予想しているに違いないわ」
何をどう考えても婚約破棄の未来しか見えません。
しかも、お会いする場所は王宮近くにある公園。婚約破棄後、直ちに婚約破棄状を貰いに行けることでしょう。
「やはり、今日は熱が出たことにして……」
「いけません、お嬢様。もし見舞いに来られたらどうするのです?そもそももう迎えが来てしまいます」
「そうね、諦めるしかないのね……」
「お嬢様、婚約破棄の考えから離れて考えられては?ハイハルト様も今のお嬢様のことならすぐに好きになってくださいますよ」
侍女の言葉が心に染みます。
「そうね……」
――――――コンコンコンコン
「お嬢様、ハイハルト様がお見えになりました」
「はい、今行きます」
どうか、穏便に帰宅できるように祈りながら、私は立ち上がり、ハイハルト様が待つ馬車まで足を進めたのでした。
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