新しい朝
「おはよう、リリアンローズ」
目がさめると両親の顔がありました。二人とも不安そうな顔をしてこちらを見ています。
「おはよう……ございます」
まだぼんやりとする頭の中で、何が起きているのかを理解しようとしましたが、上手くいきません。
「まだぼんやりしているようだね」
「無理もないですわ、あなた。リリアン今日はゆっくり休んでていいわ。やっと解放されたのですからね」
――――――解放。
その言葉に記憶が蘇りました。
慌てて起き上がり、ハイハルト様に刺された胸を触ります。
(何もない)
包帯で巻かれてもなく、ガーゼなどが付けられている気配もありません。
そう言えば、光り輝いた後からナイフは消えていたような気がします。
「夢なのでしょうか」
私が呟くと両親が笑います。
「違うよ、リリアン。これは夢ではない」
「リリアン、あなたはやっと、劇から覚めたのよ」
二人の言葉に、神からの忠告はありません。
「…………」
そこには、いつもと同じ、優しい笑みを浮かべた父と母がおりました。
徐々に、私が私の言葉で発しても良いのだということが分かります。
一度深呼吸をしました。私の言葉で、そう思いながら口を開きます。
「……お父様、お母様」
私の呼びかけに二人が笑顔で答えます。
「ああ」
「なぁに?」
「…………ぁ、」
自らの意思で発しても、私の瞳で見つめても、警告の音は聞こえません。
胸が感動で締め付けられました。上手く息ができません。涙が溢れて止まらないのです。
「お、お父様……お母様ぁ……!」
お母様が涙を流しながらも私を抱きしめてくれました。
「お母様、ごめんなさい、ごめんなさい、お母様のこと、大好きなの、愛しているわ」
「何を謝ることがあるの、リリアン、私の愛しい子」
お父様も、私の頭を優しく撫でてくれています。
「お父様も、ごめんなさい……はしたない事をしていたわ、ドレスや、宝石もたくさん買って……」
「大丈夫だよ、可愛いリリアンの小さなわがまま位でロスキアート侯爵家は潰れやしない」
こんな日が来るとは思っておりませんでした。
でも、お父様とお母様はそうではなかったのでしょう。
二人とも、変わらずに愛してくれていた事は、
私と共に耐えてきてくれた事は、
死を覚悟した日、親不孝だと思った位では到底釣り合わないと感じて止みません。
これからはしっかりと自分の考えで、両親にたくさんの奉公をしなければと心に誓いました。
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