彼女の母と婚約者
「リリアンローズはもう寝ているわ、夜ならと言ったけれど本当に来るなんて、リリアンの婿になるのに大丈夫なのかしら」
「申し訳ございません、急ぎ、聞きたいことがございました。ロスキアート侯爵夫人」
ロスキアート侯爵からは許可は得ていた。今夜は2人にしか分からない会話をする、その場にいても意味がない。そう言って辞退そうだ。
ロスキアート侯爵が記憶できなかった神託の話しは侯爵夫人が文字に起こしても書いた先から消えていった。これは、神が許した知るべき人間しか知ることが出来ない内容なのである。
「昔に教えた神託についてね」
「はい、先日思い出した次第です」
「そう……」
夫人は少し嬉しそうに微笑んだ。まだ、希望はある。
ワイングラスに注がれた赤ワインをチラリとみた後、ハイハルトへ視線を流した。
「昔、聖女様のお孫さんに会ったことがあるのですわ。とても美しい方で、急に訪ねた私に対してもとても優しくしてくれて……」
「……………………」
「神託の話しも、快く話してくださったの」
神託という言葉にハイハルトは目を少し震わせた。言葉の一句まで零さない意気込みが伺える。
「昔貴方に話した内容は、それについて少しだけ変えて話したのですわ。何故だか分かる?」
「いえ、……」
「ごめんなさい、元の文章も知らないのに意地悪をしたわ。本来はね『神託を受けた者は、周りに神託を受けて行動していると知られてはいけない。其の者に合った神託を降ろすのが神の仕事であり、合うものを降ろせない者は神ではない』こういう文書」
「神ではない……」
「でも、私はこういった」
神託を受けた者は、周りに神託を受けて行動していると知られてはいけない。
ただ、神も、其の者に合った神託を降ろすことがほとんどであり、そうでないものは神以外が下ろしている可能性も否めない。
「……これは……人間が、神のように神託をおろしているように感じます」
「そうね、神ではないだと、その“神”に対してかかる可能性もあるけれど、神以外と断定して伝えたのよ」
「…………」
ハイハルトは目を伏せた。そして、考えを自分に訴える。つまり、つまりは
「誰かの私欲でリリアンローズが変わってしまったというのですか」
その言葉に夫人はとても不機嫌そうに扇を開いた
「あら、リリアンが変わったですって?あの子は何も変わっていないわ」
ハイハルトは一度顔を上げて夫人を見ると、悔しそうな顔で再度俯く。
「…………笑顔しか、思い出せないのです」
「どういうこと」
「彼女が、どんな対応をしてくれたか、どんな花が好きだったのか、……私を本心で好いてくれているのか、思い出せないのです」
ハイハルトが膝に置いた手を握りしめる。ハイハルト自身ではなく、婚約者から嫌われたくないと思っているだけなのかもしれない。そう思う時があるからだ。
夫人は扇をパチンと閉じた。
「……あら、でも、貴族なんて本来そんなものだわ」
「え…………」
「貴方はあの子の事好きかしら?」
「今は……分かりません。分からなくなりました」
そう、と言いながら夫人が席を立つ。話しはこれで終わりだと言うように。
「ああ、そうだわ」
にっこりと微笑みながら夫人は
神託はね、終わりがあるのよ、あの無駄な劇を早く終わらせて欲しいわね、と言った。
お読みいただきありがとうございます




