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母は悲しみから光を見る

リリアンローズの母さま

 

 ー急な申し出で申し訳ありません。神託について至急お聞きしたいことがございます。

 ご予定はそちらにお任せ致しますので、早いタイミングでお会いしたく思います。

 ハイハルト・ロイスベーク ー



 いつもよのうな丁寧な文字ではなく、僅かに焦りが見える文字。文面も簡潔だが早くしろという気持ちがありありと伺える。




 (わたくし)の愛しの娘、リリアンローズの婚約者、ハイハルト・ロイスベーク。




 初めから嫌な予感はあった、彼本人からではないにしても、何かが起きる、そんな予感は。



 リリアンローズが5歳の時、同年代が集められたあのガーデンパーティ。

 あの会場で彼は、娘の事をいたく気に入り、

 それから毎週のように我が家に来ては、お嫁さんは君が良いんだ!と宣言し帰るという事を繰り返した。



 本来は、微笑ましい光景だろう。



 でも、正直、とても嫌だった。

 違う、彼が嫌という訳ではない。

 将来麗しい姿になる事は予想できていたし、魔力も感じられ、素晴らしい青年になる事は分かっていた。


 ただ。娘に何か起きるようなそんな予感がとても嫌だったのだ。



 その当時の娘は、落ち着いた色を好み、花壇に咲いた花を愛するようなそれは慎ましやかな少女だった。


 あの少年が来ると分かると、慌てて洋服をお気に入りの物に着替え、どこか変なところはないかしらとずっと侍女に聞くような子だったのだ。




 変わってしまったのは、ハイハルト・ロイスベークとの婚約を認めた日だった。



 その日、娘は本当に嬉しそうにはしゃぎ、そして、信じられないほどの高熱を出して倒れた。


 熱は1週間以上も続き、娘がベットから起き上がれたのは1ヶ月を過ぎた日。



 そう、その日から娘は別人の、まるで悪女のような人柄を“演じる”ようになってしまった。



 演じているなんて、(わたくし)も旦那様も、いえ、侍女や庭師までもが分かっていた。



 酷い事を言う彼女の苦しそうな顔は、本当は抱きしめてあげたかった。




 でも、神託は気がついてはいけない。


 それは昔からの言い伝えだった。



 熱でうなされていた時に聞こえた、あの子の、声

 “神さま、できません”と繰り返していたあれは、きっと、神託に対して出来ませんと訴えていたのでしょうと。



 だからこそ、屋敷の皆は気づかないフリをした。




 驚いたことに、娘の目が覚めてからというもの。ハイハルト・ロイスベークの訪問が止まった。


 何故止まったのかは分からなかったが、何かの力が働いたのは間違いが無い。確信めいた物が其処にはあった。

 熱でうなされていた間は来ていたのだから、きっとその後に何かがあったのだろう。



 旦那様がロイスベーク侯爵に尋ねると、娘と同じ様に熱に倒れたのだと言う。


「だが……急に頭を抑えて唸り出したと思ったら“リリィとの婚約は、絶対に破棄しないで”と言って倒れたんだ、何かあったのか」


 とも、言っていたと。




 (わたくし)は憤慨した。

 神ならば、人の人生を踏みにじっていいのかと。

 いや、だめだ。許されるものか、リリアンローズ(あの子)は、あの子達は、幸せになるために生まれてきた無垢な子供たちだろう。



 それなのに、



「……なぜあの子たちなの」





 それから、世界中から神託についての本を集め読みふける毎日が続いた。

 旦那様も娘が辛くならないように資金をより稼げるように働いた。

 侍女や、庭師も、民に広がる噂をできる限り集めて来てくれた。





 そこで、出会った。



 昔、神託が降った聖女の孫と。



 

お読みいただきありがとうございます。

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