第7話 喪失
「メリアさん、あの男…ドレイクでしたっけ、アイツって婚約者なんですよね?仲悪すぎませんか」
物凄く可愛いメリアさんを堪能した後、ふと気になり聞いてみる。ルル姉さんもいつの間にか居なくなっていた。婚約者だからって仲が良好っていうのもおかしいけど、誰がどうみても異常なほど嫌悪していた
「アイツの言葉は薄っぺらすぎて信用できぬ…美しい者は皆、自分の物とかほざいておる愚か者じゃ……妾という存在は見ておらぬ」
怒り…そしてどことなく淋しそうな表情でメリアさんは呟いた。許せない…純粋な心を弄ぶような事をして…
「ユーカ、そんな顔をするな…せっかくの可愛い顔が台無しだぞ?」
「あ、ごめんなさい…」
「まぁ怒った顔もまた素敵だがな」
「もぅ…メリアさんっ!」
悪戯っぽく笑い、メリアさんは言う。私の顔がサッと熱を帯びた
「はっはっは、さっき妾を弄ったお返しじゃ。だがお主は妾が今まで見てきた者達の誰より美しく可憐だ」
真剣な表情で私を真っ直ぐ見据えて囁いた。気障ったらしいとは思ったけど、でも嫌じゃなかった……きっと本心で言っているから…そして何より“私”をちゃんと見ているからだろう…
「あぅ…良くそんな恥ずかしげもなく言えますね…」
「勿論、お主を愛しておるからの」
そう言いきり、自信たっぷりの笑顔を見せる……敵わないなぁ
「嬉しいけど、言われなれてないので…まだ恥ずかしいです」
「そうなのか?見る目が無いな、お主の世界の者達は…」
「あはは…まぁ私の容姿って何処にでもいるようなタイプですから」
まぁ勇輝には可愛いって言われたことはあるけど…今は言わない方が良いよね、ライバル視してるし
「さて、しんみりした話は終わりじゃ……ユーカよ、お主の事も話してくれないか?」
「へ?私の事…ですか?」
「うむ…妾もお主の事を知りたい、そしてもっと好きになりたいからの」
ニカッと清々しく笑うメリアさん。その姿にちょっとドキッとした…同姓さえ見惚れてしまう眩しい笑顔。どうして私なんかを選んだんだろ
「分かりました…でも1つ聞いても良いですか?」
「む?構わんぞ、何を聞きたい?」
「私を選んだ理由が聞きたいです」
「ふむ、ユーカを選んだ理由か……そうさの…一目惚れかの」
「へ…?」
「だから…一目惚れじゃよ!お主を拾ったあの時から、心を奪われたのじゃ!」
真っ赤になってヤケクソ気味に彼女は叫んだ。うわぁ…どうしよう、私まで恥ずかしくなってきた。まさかそんな直球な理由なんて…
「あ、えっと…その… 」
「ふふ、真っ赤だぞ、ユーカ」
「メリアさんこそ、真っ赤じゃないですかぁ…」
お互いに一目で分かるほど真っ赤になっていた。それがなんだかおかしくて
「ふふ…っ」
「ははは…っ」
気付けばどちらからとなく微笑み合っていた…どことなく心が暖かくなるのを感じた
「さて、質問には答えたぞ?お主の話を…」
「魔王様!敵襲です!」
慌てたように兵士の1人が部屋に入ってきた
「…ふぅ、何と間の悪い……。ユーカ、決して外には出るなよ?」
「待ってください、私も…」
「此処にいろ。それともお主は同族を殺せるか…?」
「…ぁ」
魔族の城に攻め入る…即ち人間が来ているということだ。私に人殺しが出来るはずが無い
「ごめんなさい……」
「なに、謝ることはない。それが普通だからの…すぐ戻る、話の続きはそれからじゃ」
そう言いメリアさんは私の頭を撫でて兵士と共に出ていった。何をやってるんだろ私……
「哀れだね、僕だったら彼女の為に同族だって殺せるよぉ…?」
「ドレイク……っ!?」
「ふふ…君は本当に足手まといだねぇ。戦うことが出来ないなんて…やっぱり君はメリーの側に居る資格なんて無い、僕が相応しい場所に送ってやるよ!」
槍を構え、突撃する。紙一重で回避するも切っ先が頬掠め、血が滴る。く…速い
「シルバ、ノワ…!」
不利なのを悟り、2匹を呼ぶも気配が無いどころか現れる様子がない…なんで…!?
「ふふ…特殊な結界を張ってるからね。いくら魔狼に神狼といえど容易に破ることは出来ない……そして君は丸腰、僕に嬲られるだけの哀れな獲物さ!」
「ち…なめるなぁ!」
ガキイィン!
腰から抜いた2本のダガーで迫り来る槍をギリギリ受け止める
「へぇ…戦闘は魔獣任せだと思ってたんだけどね…だけど…!」
「ぐぅっ…!?」
放たれた蹴りが横腹に突き刺さり、吹き飛ばされ壁に叩き付けられる
「く…うぅ…」
「弱い…弱すぎるよ…!君みたいのがメリーの側に居るなんざ有り得ないんだよ!」
「あぐっ…!?」
持ち上げられギリギリと首を締め付けられる。く…苦し…意識が…っ
「安心しなよ、殺しはしない……まぁ死んだ方がマシって思うだろうけどね…」
不気味な笑みを浮かべ、言い放つドレイクの言葉を最後に意識は闇に刈り取られた……
「ふう…漸く片付いたな」
全く弱いくせに数だけは多いからの…。まぁそれだけが長所が無いからどうとでもなるが…
「まおー様、早く城内に戻って!ユーカお姉ちゃんが危ない…嫌な匂いがする!」
「何だと…!?」
「急いで!取り返し付かなくなるから!」
メルルが切羽詰まった様子で捲し立てる。ただ事ではないと悟り、急いで城内へと戻る。ユーカ…!
“魔王!”
「シルバ、ユーカはどこに!」
“おそらくお主の部屋におる、結界が張ってあって我等だけでは……!”
「く…退いてろ…はぁぁぁっ!!」
ありったけの魔力を拳に込め、結界にぶち当てる。扉が吹き飛ぶがそんなものはどうでもいい
「ドレイク!貴様、ユーカに何をした!?」
「おや、メリー…僕の結界を破るなんて流石だね」
そこには気を失ったユーカを担いで転移の準備をしていたドレイクの姿があった
「ユーカを何処に連れていく気だ!?」
「あはは、怒った顔も素敵だねぇメリー。この小娘を相応しい場所に送ってくるから待っててね…まぁ本当は殺したいとこなんだけど……じゃあね、また会いに来るよ」
そう言葉を残し、ドレイクは去っていった
「くそ…待て!!ドレイクぅぅ!!」
行き場の無い怒号が虚しく部屋中に響いた………