第6話 魔王の過去2
魔王の過去が明かされます。そして此処から暫くシリアス展開続きます
「妾は生まれたときから、人より魔力が多くてな…。皆の役に立てばと思って魔物退治や作物を育てるのに魔法を行使したりと、とにかく一生懸命だった。村の皆は聖女だの神の使いだのと囃し立ててな。妾も悪い気はしなかった…あぁルルティアは幼馴染でな。その頃から一緒だった」
そっか…だからあんなに仲が良いのか。ずっと不思議だったんだよなぁ…ルル姉さんだけメリアさんを名前呼びしてたの
「だが事件は起きた。妾も慢心していたのだろうな……魔物が村を襲撃したのだ。妾が結界を張っていたからそんな事はあり得なかった……だが少しの綻びがあってな、そこから魔物が入ってきた」
「その時、メリアさんは何をしていたんですか?」
「妾は……呆然と立ち尽くしていたよ。自信があった分、ショックが大きくてな。それで漸く鎮圧した時には村人から糾弾されたよ…悪魔め、お前が魔物を呼び寄せたとな」
寂しげな顔をしてメリアさんは言う。そんなのあんまりじゃないか…皆の為と思ってメリアさんは頑張ってたのに…
「ルルティアは最後まで庇ってくれた。妾がやって来たことを忘れたのかとな……だが、村人達は一切聞き入れなかった。それどころか魔女に加担する不届き者という事で妾の前で処刑された…」
「何で!可笑しいじゃないですか!メリアさんは何も悪くないのに…!どうして…!」
「怒りを覚えてくれるのか…やはりお主は優しいの……話を続けて良いか?」
「あ、ごめんなさい…良いですよ」
つい熱くなってしまって話を遮ってしまった…反省しなきゃ
「うむ……。ルルティアが死んだ後、両親にも拒絶されたよ。お前なぞ娘ではないと」
「そんな……っ」
「味方だと思っていた両親に拒絶され、絶望して…自棄になった妾はその村を滅ぼしたよ。こんな奴ら守る価値など無いとな」
何の感情の籠っていない声でメリアさんは語った…やっぱり怖い…でもしっかり聞かなきゃ…受け止めるって誓ったんだから
「だがな。我に返れば一人ぼっち、すがる相手も慰めてくれる相手も居ない……じゃから」
「あの男が言ってたような事をしていたんですか?」
そう聞くとメリアさんは首を横に振った。あれ…でもさっきは事実だって……
「大体あやつの言うとおりだ。だが勝手に拐ったり、捨てたりもしてはいない」
「え、どういうことですか?」
「妾はそんな節操なしではないわ。ちゃんと交際を申し込んで受け入れてくれてからじゃ…まぁ魔法を行使したのを見られて化け物やらなにやらと言われたがな。お主と会うまで全員がそう言って妾を突き放していったよ………ただ、側に居て欲しかっただけなのにな………どうじゃ?滑稽すぎて笑えるだろ?」
そう言い悲しそうに微笑むメリアさん。笑える筈がない、悲しくて辛くて…胸が締め付けられる。何より“異端”という点では私と似ていた
「メリアさん…」
「ユーカ…?」
気がつけば私はメリアさんを思い切り抱き締めていた。私は此処にいる…何処にも行かないという思いを込めて
「…私はずっと側に居ます、愛情だって…メリアさんが求めるものとは違うかもしれないけど…沢山、沢山あげます…だから…だから…そんな悲しい顔しないで…っ」
「ユーカ…少し甘えても…良いか?」
「はい、私で良ければ…」
そう返事をすると私の胸に顔を埋め、声を押し殺して泣き出した……ずっと我慢していたんだ、きっと四天王の皆にも話せなかったんだろうな
「今はいっぱい甘えてください。私が側に居ますから…」
「すぅ…すぅ…」
「寝ちゃった…どうしよ」
何だか静かになったのを不思議に思い、覗き込んでみると幸せそうな顔ですやすやと眠っていた
「聞きたいこと1つあったんだけどなぁ……」
ルル姉さんが殺されたって確かに言っていた。じゃああの“ルルティア”は何者なんだろうか
「その疑問はオレから答えるよ」
「ルル姉さん、いつの間に…」
音もなく入ってきたルル姉さんがそこに居た。吃驚した…
「ついさっき。アイツの過去はどうだった?」
「思っていたより重いですね……それとちょっと私に似てるかなぁって」
「そうか……お前も異端扱いされたんだっけか…似たもん同士、惹かれ合ったんだな。さて気になる事ってのは死んだ筈のオレが何故此処にいるか、だろ?」
「はい。何となく察しは付いてるんですけどね。禁術の類いではないかなと」
「正解、オレの魂を冥界から呼び寄せて体に定着させた。その代償としてアイツの魂は闇に染まって魔族になったってわけだ」
「はぁ…重すぎるよぉ」
こんなに暗い話だとは思わなかった……前言撤回、私なんかよりずっと辛い目に遭っていたなんて
「しっかし相当お前に気を許してるな、メリアのヤツ」
「へ…?」
「コイツがこんなに無防備に眠るなんてオレと一緒の時くらいだぜ?それほどメリアにとってユーカは特別って事なんだろうな…あー、何か悔しいなぁー」
そう言ってぷにぷにとメリアさんの頬を突っつきながら呟く。
「んんっ…んぅ?ユーカに…ルルティア?」
「もう、何で起こしちゃうんですか…もうちょっと寝顔を見ていたかったのに…」
「わりぃ、起きるとは思わなくて…」
「んー…何故ユーカに抱き締められているのだ?」
寝ぼけているのか、ボーッとしたまま私達を見つめていた…ああもぅ無理…!
「メリアさん……可愛い…っ!」
「ほわぁっ!?ゆ、ユーカ!?何じゃ急に…!?」
緩めていた腕に力を入れ、ギューッと抱き締める。メリアさんがアワアワしている気がするけど気にしない…ていうかそんな事されたら余計に可愛いだけですよ…っ
「もぅ。狡いですよ、こんな姿を隠してるなんて!なんて愛らしいんですか!」
「ユーカ…取り敢えず離してくれ…少々苦しい…っ」
「はっ!?すみません、つい……私、可愛いものを見ると我を忘れちゃうんです…」
「ぬぅ…全く殺されるかと思ったわい……可愛いか、久方ぶりに言われたのぉ」
「そうだな…美しいとか、勇ましいとかなら良く言われるけどな」
「魔王たるもの常に厳格であれ…それが先代の教えだからの……ふふ、じゃが悪い気はしないのぉ」
少し頬を染めてはにかむ彼女は魔王ではなく年相応(少なくとも見た目は)の少女の姿そのものだった
「やっぱり可愛いですー!」
「ふにゃっ…!?ユーカ、離せ…こらルルティア、お前も笑ってないで何とかせーい!!」
暫くの間、めったに見れないメリアさんの姿を堪能するのだった…