第3話 買い物とアクシデント
書きたいことを綴っていたらいつもより長くなってしまいました。
「いらっしゃいませー!あら、メリアさん。今回はどんな服をお求めで?」
お店に入ると常連なのか、店員さんが近寄ってくる。綺麗な人だなー……何かメリアさんの傍には女の人が多い気がする
「ふむ、今回は妾では無い。この子の服を買いに着た。何か良いものは無いかの」
「あら、あらあら!凄く可愛いですね、この子!」
「そうじゃろ?捨てられていたのを妾が拾ったのじゃ」
はい、その通りでございます。拾われたというか知らぬ間に連れてこられた、っていうのが正しいんだけど
「あら、勿体無い事するのね…貴女、お名前は?」
「間宮優花です。優しい花で優花って言います」
「ユーカ……貴女、もしかして勇者様一行の魔獣使いユーカ様!?」
私の名前を聞き、キラキラと目を輝かせ私に詰め寄る。王都から随分離れてる場所なのにな……噂って凄いなぁ
「はい……追放されましたけどね」
「え……大怪我負って、自ら前線から退いたんじゃ……」
彼奴等、良くもまぁぬけぬけと…自分達で寄ってたかって追放したくせに
「職業の能力のせいでスパイと疑われて……まぁ、未練は無いですよ。そのおかげでメリアさんに出会えたんですから」
「ユーカ…お前は何処まで良い子なんじゃあー!」
「ふにゃあっ!?メリアさん…苦しい…っ」
私に抱き付き、グリグリと胸を押し付ける。ぐぇ…窒息する……っ
「メリアさーん、離してあげないとその子、死んじゃいますよー?」
「はっ…いかんいかん。あまりに可愛いことを言うものだから我を忘れてしまった。すまないユーカ」
「いえ…何とか生きてるんで…大丈夫です……」
「さて、気を取り直して服を探しましょうか……んー、何が良いかしら」
そう言い服を物色し始める店員さん。………物凄く悩んでる
「これなんてどうですか?」
暫くして戻ってきた店員さんが手にしていたのは、余計な装飾の無い、真っ白なワンピース。
「ふむ、少し地味ではないか?」
「何を仰いますか、素材がこんなに美しいんですよ!無駄に飾る必要はありません!」
あう…容姿を褒められるのは嬉しいけど、そんな堂々と言われると照れる…
「むぅ…そうかの。ユーカはどうじゃ?」
「ふぇっ?あ、えっと…可愛くて素敵です。でも1つ注文付けるなら、青系の色で同じのって無いですか?」
「青系ね、ちょっと待ってて……えっと、あった!これなんかどう?」
「ありがとうございます。メリアさん、私はこれが良いです」
持ってきてくれた空色のワンピースを差し出す
「もう少し派手なのでも良い気がするが…まぁユーカが良いというなら…よし、早速試着してみるか」
「じゃあ私もお手伝いしますよ」
「へ?あの…ちょっと…」
「さぁ行くぞ、ユーカ」
「ちょ…待っ…私の意見はー!?」
訴え虚しく2人に引き摺られ試着室へ連れて行かれた……それから1時間、取っ替え引っ替え服を代えられ、着せ替え人形のような状態だった……
「つ、疲れた…」
「…つい熱中してしまったわ。お主が可愛過ぎるのが悪い」
先程の店の近くの公園のベンチでーぐったりとして呟く。しれっとした顔でメリアさんは言う
「知ってますか?そういうの責任転嫁って言うんですよ?しかも着せたの全部買っちゃうし」
「どれもこれも似合っていたからな。ならば全部買わぬ訳にはいかぬだろ」
「はぁ…」
まぁ気に入ったのは何着かあったけど……メイド服とかも着せられたけど、まさか買ってないよね?
「さて、次はどうする……とは言っても少々買い過ぎたのぉ」
「そんなに急がなくても良いですよ?……楽しかったんでそれだけで充分です」
「そうか?」
「はい…旅してた頃はこんな風に買い物なんて出来ませんでしたから」
魔王を倒し、世界を救う。そればっかりで何だか焦っていた……でも今はゆったりと時間が流れている。まぁそれを共有しているのが倒すべき相手だった魔王だというのだから不思議なものだ
「ふむ……そうか、よし!ちょっと待っておれ!」
「へ…あ、ちょっと……行っちゃった」
声を掛ける間もなく近くの雑貨屋へと入っていた。どうしたんだろ急に……
「嬢ちゃん、1人?暇ならどっか行かない?」
そんな声に振り向くと、チャラい感じの男達数人が私を囲んでいた……はぁ、こういう輩って何処にでも居るんだなぁ
「結構です。待ち人が居るので」
「良いじゃん、ちょっとくらい。俺達と居た方が楽しいよー?」
「触らないで下さい!離して!」
手を掴まれ、強引に連れて行こうとする男達。振りほどこうともがくも、相手の方が力が強く逃げ出せない
「別に変なことするわけじゃないからさぁー」
「そうそう……まぁ帰れるか分からないけどね!」
下品な笑みを浮かべる男達。うぅ…誰か…助けて…メリアさん…!
「貴様等、妾の連れに何をしておる…!」
連れて行かれそうになった時、聞きたかった人の怒号が響いた
「メリアさん…っ!」
「あ、誰だ?もしかして待ち人ってこいつか…へぇ」
視線を移し、男達は値踏みするような目で見つめる。コイツら…何処まで最低なの…
「上玉じゃねーか…おい姉ちゃん、この嬢ちゃんに怪我させたくなかったら俺達と来てもら……ぐはっ!?」
「ぐえっ!?」
「コイツ、速っ……ごはっ!?」
「大丈夫か?ユーカ」
「え、はい」
優しい声にハッとなる。気が付くとメリアさんの腕の中に居た。周りの男達は蹲って動かなくなっていた。凄い…
「済まなかった、危険だと言ったのは妾の方だったのにな」
「いえ、こうして助けてくれたので良いです。ちょっと怖かったですけど…」
「ユーカ……」
「ち、この…アマぁ!」
倒れていた男の1人がナイフを取り出し、此方へと向かってくる
「メリアさん…!」
「はぁ……魂喰い」
慌てる様子もなく冷静に呟き、呼び出した大鎌を男の首筋に突き立てる
「このまま去るというなら命は取らぬ……さっさと失せろ」
「ひ、ひいぃぃ!?」
地の底から響くような声を出し、睨み付ける。男達は蜘蛛の子散らすように逃げていった……この威圧感、やっぱりこの人は魔王だ。あ…体が震えてる
「…怖いか?」
そんな私の様子を悟ったのか、困ったような笑みを浮かべ私に問う…本音を言ってしまえば怖い…でも
「怖くない…って言ったら嘘になります」
「そうか……」
「でも、それ以上にその……格好良かったです。だから…そんな悲しそうな顔をしないで下さい、ね?」
「ユーカ……ありがとうな」
柔らかな表情で私を愛しそうに見つめ、頭を撫でてくれた。ちょっと恥ずかしいけど暖かい温もりを感じた
「そういえば、何しに行ってたんですか?」
「ぬ?おぉ、そうじゃった。これをお主にやろう」
そう言い小さな紙袋を渡される。開けてみると金色の髪飾りが入っていた
「旅をしている間、年頃の娘がしている事も出来なかったのかと思ってな。それと妾と出会った記念の品にな」
「メリアさん…ありがとうございます……大事にしますね」
「うむ……さて、帰るとするか」
「はい…あの、手を繋いで良いですか?」
「勿論じゃ、拒む理由など無い」
そう言って私の手を大きくて暖かな手で包んでくれた。さっきの冷たさなど微塵も感じられない…どっちが本当の顔なんだろう、なんて考えるのはきっと間違い。どちらもメリアさんなのだから…だからもっとこの人の事を知りたい。私は強くそう思うのだった
因みに城に戻った後にルル姉さんやメルルにせがまれ、ファッションショーもどきが再開されたのだった…勘弁して……