第2話 新たな日常
「ん、んぅ…ふわぁ…あー、朝かぁ…」
窓から射し込む光に目を覚ます。隣にはノワとシルバが丸まって眠っていた。2匹を撫でてベッドから降り、カーテンを開ける
「んー……良い天気。外で昼寝したら気持ち良いだろーなぁ……」
‘コンコン’
「誰だろ…はーい」
「おはよう、優花。夕べは良く眠れたか?」
「あ、魔王様。おはようごさいます」
扉を開けるとそこには昨日、私を娶ると宣言した魔王が立っていた
「ぬぅ…魔王様などと堅苦しい呼び方は止めよ。妾の事はメリア、若しくはメーちゃんと呼んでくれい!」
サムズアップしながら満面の笑みで言う。うーん軽いなぁ…本当にこの人は魔王なのだろうか
「ちゃんって歳じゃないだろーが」
「あ、ルルティアさん、おはようごさいます」
「おう、おはよう…なぁ、そのさん付け止めてくれねーか?ちょっと距離を感じる、最低1年は一緒に居るんだからよ」
そう言いルルティアさんは困ったように笑う。うーん…急に言われてもなぁ……どうしよう
「えっと……じゃあ、ルル…姉さん?」
「ぐふっ!?」
突然、吹き出し口元を抑えプルプルと震える、あれ何かまずかったかな?
「だ、大丈夫ですか!?」
「メリア…この1年、オレはお前を全力でサポートする。ユーカを絶対に娶れよ!あいつ、可愛すぎる!」
「おう、任せておけ!」
「……?」
「はぁ…中々来ねーと思ったら何してんだよ。さっさとしろ、飯が冷めるぞ」
訳も分からずキョトンとしていると、リーパーさんが呆れたように呟いた
「あ、リーパーさん。おはようごさいます」
「おう。お前もさっさと来いよ?」
「あ、はい!メリアさん、ルル姉さん、行きましょ?」
「あぁ、そうだな」
「うむ、そうしよう。リーパーの料理は旨いからの」
「へ……リーパーさんが?」
「何だよ…可笑しいか?」
「いえ、男の人が料理できるって何か素敵ですよね」
「…っ。褒めても何も出ねーぞ」
「そんなつもり無いですって。今度色々教えて下さいね」
「……気が向いたら」
「はい、是非!」
「照れてる」
「うむ、照れておるの」
「だー!うっせぇ!」
リーパーさんの叫び声が朝の魔王城に響き渡る……何だか平和だなぁ
「まおー様、遅ーい!危うく餓死するところだったよー!」
食堂に入るや否や、小さな女の子がメリアさんに飛び付く。あの子が四天王最後の1人《無邪気な殺戮者》メルル。子供に見えるが実力はかなりのもの、敵対していた時は本当に苦労した。無邪気ゆえに行動が読めないんだもん
「ん?あ、魔獣使いのおねーちゃんだ!」
「ほわぁっ!?あ、危ないよ…メルル」
そして何故か私はこの子に好かれている。獣人族らしいからそれも関係してるのかな、ていうかこれが原因でスパイとか疑われたのかも…そうだったらちょっと複雑
「えへへー、やっぱり良い匂いがするなぁ…おねーちゃんは」
ご機嫌な様子で私にすりすりと頬擦りするメルル。うーん…この子に悪気は無いんだよなぁ
「メルル、行儀が悪いぞ。座りなさい」
「むー、ベルベルの石頭ー、堅物」
「んなっ……」
「ふむ、一理あるのぉ…さて、頂くとするか」
「魔王様まで……」
メルルの言った石頭という言葉にメリアさんが同意、ベルクティオさんがガックリと膝を折って倒れる
「…良いんですか?」
「放っておけ、モグモグ…そのうち直るから…んくっ」
「はぁ…」
既に食事を始めていたルル姉さんが、口に物を含みながら喋る。ルル姉さん、行儀が悪いですよ…
「ふふ、ほらユーカ。冷めぬうちに頂くぞ?モタモタしておるとメルルが食べ尽くしてしまうからな」
「はい、じゃあ頂きます」
賑やかだな…本当に此処、魔王の根城なんだろうか、そんな疑問が生まれるのだった…あ、ご飯はとても美味しかったと追記しておく
「ユーカよ。街に出掛ける、付いて来い」
朝食が済み、部屋へ戻ろうとしたらメリアさんに呼び止められ、そう告げられる
「ほぇ?構いませんけど、何故ですか?」
「うむ、お主の服とか日用品とか、必要な物を買っておかねばならぬだろ?」
「そうですね………あ、お金が無い」
「気にするな。妾が用意する」
「そんな…悪いですよ」
「未来の花嫁となる相手への出費など痛くもない。ほら行くぞ」
「え、あ…ちょっと…!」
返事をする間もなく、私を抱えて歩き出す。城を出るまでずっと抱えられたままだった為、すれ違う人達に好奇の目で見られていた……うぅ恥ずかしい
「うわぁ……大きな街」
王都と同じくらい広い。1人だったら迷子になりそう…
「この近辺では一番栄えた街だからの。欲しいものは大抵、手に入るぞ…さぁ、まずは服からじゃな。人通りが多いからな…ほれ」
「…?」
「手、繋ぐぞ。はぐれてしまったら大変だからな…治安が良いとはいえ、ゴロツキは居るからな、お主は美しいから何をされるか分からん」
差し出された手を見つめていると、メリアさんはそう続けた。美しいって言われても……
「私って、そんなに綺麗ですか?」
「何を言うか、美しすぎて困るわ!その紅く大きな瞳、闇夜を思わせる艶やかな漆黒の髪、その魅惑の唇、これを美しいと言わず何と言う!?」
「わ、分かった…分かりましたから…止めてくださいっ…恥ずかしいですから…っ!」
天下の往来で何を言い出すんだこの人は…!あぁ…そんな生暖かい目で見つめないで…見知らぬ通行人の方々!
「ふむ、ならば良いが……あ、そうだ。街では貴族ということになっておるから合わせてくれな」
「あ、はい…じゃあ私は付き人という事で」
「婚約者ではダメかの?」
「まぁ…将来はどうなるか分かりませんが……メリアさんが良いなら構いません」
「うむ!ならば決まりじゃ!では行くとしよう。 まずは服からじゃな」
「はい。お願いします」
差し出された手を握り返し、歩き出す……誰かと買い物なんて久しぶりだな、少なくともこの世界に来てからは1度ども無かった気がする、ちょっと楽しみかも…そんな事を思いながら街並みへと向かうのだった