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第27話 悲劇

「はぁ…はぁ…」


「ユーカ、どうしても退いてくれないのか?」


「当たり前…っ、私が…1度言ったことを撤回しないって…知ってるでしょ?」


真っ直ぐ勇輝を見つめ語る。本当はこのまま倒れてしまいたい…手も足も殆ど言う事聞いてくれない状態まで疲弊している…でも


「ここから先へは…絶対に行かせない…っ!」


今ここで勇輝を食い止められなかったら、無理に出てきた意味がない…それに倒れるならあの人の…メリアさんの腕の中と決めている…!


「そうか……お前相手にはこれを使いたくなかったけど…どうしてもと言うならば…!」


そう言い、勇輝は今まで使っていた剣を腰に納め背負っていた大剣を抜き、構えると同時に凄まじい闘気が空間を支配する。まずい…聖剣を使うのはちょっと予想外…!


「行くぞ…うおぉぉっ!!」


雄叫びを上げ、刃を振り下ろす。間一髪で魔力を込めたダガーで受け止めるが大きく後退し膝を付く…なんて重い一撃…これが勇輝の本気…っ!


「はぁ…はぁ…まだまだ……っ!」


震えて、力の入らない足を酷使して立ち上がる。そんな様を悲痛な顔で見つめる勇輝


「何でだよ…どうして立ち上がる…!もう立っているのもやっとなのに…何で」


「無茶してるって…自覚はあるよ…っ。でもあの人の事を思うと…不思議と力が湧いてくるんだ…」


「愛する人を想う気持ちか…確かにそれは大きな力になる……だけど……」


言葉を切り、勇輝が突然視界から消える…くっ、何処に行ったの!?


「圧倒的な力の差を埋めるには…全然足りない……!」


「くっ…きゃあぁっ!?」


急に目の前に現れ、大剣が振り下ろされる。受け止めきれずに直撃、吹き飛ばされ壁に叩き付けられ、地に伏せる。あぁ…もう体が動かない…


「あ…かはっ…」


「俺は勇者だ…全ての平和を望む人達の想いを背負っている。俺はそれに答えなきゃならないんだ…」


視線を合わせず呟き、去ろうとする勇輝の足を掴み縋り付く


「ダメ…この先にはっ…絶対に行かせ…ない…っ」


「優花…そんなになるまで魔王の事を…あの人が羨ましいよ。お前にそんなに想われて…」


優しく、そして何処か淋しそうに呟き私の手を払う


「俺だって…お前の事、好きなんだよ。だから危険だと分かっていてお前を連れて来たんだ…側に居て欲しかったから」


ポツリポツリと勇輝は語る…そんな理由があったんだ……


「すまない、今言うべき言葉じゃないな…忘れてくれ。安心しろ悪いようにはしない、全て終わったら一緒に帰ろうな」


その言葉を最後に勇輝は去っていく。止めなきゃ…行かせちゃいけないのに…思いとは裏腹に体は動かず視界が霞む。ごめんなさい…メリアさん……っ








「そっか…そんな事があったんだ」


ユーカの元へ向かう途中、アタシが彼女を追放した後の事を聞いていた。魔王に拾われ、暮らしていたこと、魔族に誘拐されて危うく奴隷にされかけ、救出しに来たユーキ達と敵に嵌められ暴走したレグナを命懸けで止めたりしたこと。アタシが自分を見失ってなかったらこんなことにならなかったのかも…


“ミリィ、気にするな。お前の所為ではない”


「ううん、アタシの心が弱かったからユーカは危険な目にあったんだ…だからこれはアタシが背負わなきゃならない罪だよ…」


“だが……”


「でも吃驚だよね、まさか魔王のお嫁さんになってるなんてね。しかも女の人」


暗くなりかけたので、無理に話題を変える。何か言いたげなシルバを黙らせるように


“主は人を惹き付ける魅力があるからな、何処ぞのエルフの小娘と違って…キャイン!?シルバ、尻尾は止めろっ!”


“いちいち憎まれ口を叩かんと会話出来んのかお主は。少し黙っておれ”


嫌味を言おうとしたノワの尻尾をシルバが噛み付き、諌める。シュンと耳と尻尾が垂れ下がり目に見えて落ち込むノワ。良いのかなぁ…ん?


「シルバ!あれユーカじゃない!?」


回廊の出口付近で倒れている少女が目に入る。あの黒髪は間違いないユーカだ


“主!しっかりして下さい!主!”


すぐさまノワが駆け寄り、体を揺さぶり声を掛ける。大丈夫だろうか


「ん…んぅ…ノワ……?」


“主!良かった、ご無事で!”


「私……そうだっ…勇輝が…メリアさんの所に…行かなきゃ…っ」


「フラフラじゃないの。そんな状態で行ったって死にに行くようなもんじゃない!」


「それでも行かなくちゃ……って、ミリィ…!?」


引き止めようとしたアタシに気付き、驚愕に目を見開く。そりゃ驚くわよね…自分を追放したヤツが目の前にいるんだもの


「また私から…大切なものを奪うの!?私はただ大切な人と静かに暮らしたいだけなのに!」


そう叫び憎しみを籠めた瞳で此方を睨み付ける、あはは…自業自得とはいえ、結構キツいなぁ…


「ユーカ…信じて貰えなくても良い…でもアタシは危害を与えるつもりはないから」


「……分かった。でも少しでも不審な動きをしたら……」


「良いわ、殺すなりなんなりしなよ。抵抗はしないから」


“ミリィ…”


「気にしないでシルバ。これくらいは受けて当たり前だし。さて此処にユーキが居ないってなると魔王の元に居るって事?」


“ふむ、そうだな…我が主、急ぎましょう…手遅れになる前に”


「…止めないの?」


“止めても行くのでしょう?主はそういう方ですから”


「ごめんね、こういう性分だから…もう少し私の我が儘に付き合ってね」


そう言い、ユーカは2匹の頭を撫でる。シルバとノワは優しい瞳でユーカを見つめていた。良いな…ちょっと羨ましい


「ユーカ…アタシはあんたが羨ましいよ。信頼しあえる相手がいるんだもの…それを利用されたのかもねアタシ」


「ミリィ…それってどういう」


「ま、それは後から話すよ。まずはあんたの大切な魔王様と幼馴染みを止めましょ!」










「はぁ!」


「くぅ…っ!?」


「どうしたメリア、この程度か?」


「兄様相手では下手に攻められませんからね。それで何度負けたことか」


挑発するように問う兄様に返す。隙の無い相手に無闇に攻めては手痛い反撃を受けるだけ。だがいつまでも攻めあぐねているわけにも……ん?この気配は……


「ふん…鼠が一匹紛れたようだな」


兄様が攻撃の手を止め、部屋の入り口を見るように促す。いつぞやの勇者がそこに居た


「勇者か…お主が此処に居るということはやはり敗れてしまったか」


「殺してはいないけどな…魔王、1つ聞きたい。あんたが優花に戦えと命じたのか?」


「違う。あの子は自ら戦うと言っていた。例えお前と刃を交えることになろうともな…」


そう答えると勇者は諦めたような、それでいて何処か安堵したように溜め息を吐く


「やっぱりか、全くアイツは変わらないな…なぁ魔王、俺はあんたと戦う気は無い。無駄な争いはしたくない…」


「その言葉に偽りは無いとして…それを何故ユーカに伝えなかった?」


「自分の意思を貫こうとしているアイツは頑として退かないからな…」


思い出すように苦笑し勇者は語る。ふむ…確かに思い当たる節は幾つもあるのぉ…龍人の子を止めるときもそうだったな


「それに俺はあんたと優花が信頼しあっているのを見て、対立より対話することを選んだ…さっきだってあんたを護ろうとして必死だったよ。ボロボロになっても何度も立ち上がろうとして、這いつくばってまで俺を止めようとしていたよ」


ユーカ…そこまで妾の事を…嬉しいが無理したことは後で叱っておかねばならぬな


「そうか……兄様、もう一度だけ人間の心を信じてみてはくれませんか?確かに人間達は妾達を滅ぼそうとしている…だがこうして分かり合うことも…!?」


「魔王!危ない!」


叫び声と共に、勇者が妾を庇うように兄様の一撃を受け止める


「ほぅ…我の一撃を止めるとは。やるな人間、勇者の名は伊達では無いか」


「そりゃどうも…!」


刀を弾き、聖剣を振り下ろす。後ろに飛び、易々と回避し、兄様は体勢を立て直す


「兄様……何故分かってくれないのですか」


「甘い…甘いぞメリア。人間を滅ぼさねば我ら魔族に平和は訪れぬ!貴様の両親もそうだったであろう!化け物と、悪魔と罵られただろう!その恨みを忘れたか!」


「確かに…妾は人間に裏切られ、傷を負いました…でも憎しみは新たな争いを呼ぶ!兄様も分かっておられるでしょう!?」


「だからこそ人間を根絶やしにする!邪魔をするならばお前でも容赦はしない!」


そう叫び、兄様の魔力が上昇していく。まずい…あれが来る…っ!


「勇者、逃げろ!まともに喰らったら死ぬぞ!」


「もう遅い!恐怖せよ、ダークネスフィアー!!」


警告するのとほぼ同時に無数の魔力球が降り注ぐ。くそっ…!


「させるかぁぁ…っ!!」


ありったけの魔力を使い、シールドを張る。くぅぅっ…!?


「魔王…!」


「前に出るな!闇に呑まれるぞ…!?」


ピシッと乾いた音が鳴る。く…罅が…!?


「勇者…逃げ…っ!」


バキィィンッ!!


「しまっ…ぐぁぁぁっ!!」


抵抗虚しく、シールドが砕け散り魔力球が襲い掛かる。躱す事も出来ず直撃、鋭い痛みが駆け巡り、後方へと吹き飛ばされる


「ぐふ…っ」


「他愛もない…お前には覚悟が足りん」


妾を見下ろしながら兄様は言う。くそっ…体が…動かぬ…


「やらせない…っ!」


「雑魚は黙っていろ」


「ぐぁっ!?」


斬り掛かろうとした勇者を衝撃波で吹き飛ばし、あしらう


「せめてもの情けだ、苦しまず逝くが良い!!」


冷たい刃が妾の命を刈り取ろうと振り下ろされる……ここで終わるのか…ユーカ、不甲斐ない妾を許してくれ…


「駄目ええぇ!!」


目を閉じ、死を覚悟したその時、響き渡る悲鳴が聞こえ、直後に何かが落ちる音がした。目を開けると信じられない光景が飛び込む。見知った黒髪の少女が血を流して倒れていた


「ユーカ…っ?」


「げほっ…メリアさん…良かった…間に…合った……っ」


妾が無事なのを見て安心したように微笑み、そのまま意識を手放す


「ユーカ!ユーカ!おい、目を開けろ!ユーカぁ!」


彼女を抱き上げ、必死に呼び掛ける。だがユーカは目を覚まさなかった…あ、あぁ…っ!


「うわぁぁぁぁっ!!」


「む…!?」


「なんだ…この魔力量は…!」


「許さぬ…許さぬぞ!バフォメットォォォ!!」


雄叫びを上げ、目の前の敵へと突撃する…壊れてしまえ、何もかも…!



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