第20話 戦いの予兆
身内の結婚式に東京まで行ってバタバタして遅れてしまいました
本格的にシリアスに入ります
「人間が攻めてくる…?」
「あぁ、少なくとも2週間後には不死者の森に着くだろうね」
「2週間!?幾らなんでも早過ぎじゃないか!?」
王都に偵察へ行っていたシェイの報告を聞き、ルル姉さんが声をあげる。確かに普通なら早過ぎると思うだろう…でも
「ミリィの転移魔法…」
「ご名答だよ、ユーカ。あのハイエルフ、魔力の量だったらメリアと同等位かな。勇者一行、それと王国騎士団を転移させるには充分だ」
淡々とした口調でシェイは報告を続ける。確かに充分過ぎる…だけど
「彼女にそんな繊細な魔力操作が出来るとは思えないんだけど…」
私がまだパーティーに居た頃は攻撃、状態異常系の魔法以外はからっきしだった筈。転移魔法は使えたけど訳の分からない場所に飛ばされることが多かった。
「辛辣じゃのユーカ…」
「事実ですから。それに彼女は私を嵌めた主犯ですし」
「おおう、ユーカから邪悪なオーラが…」
あの時の痛み、一時も忘れたことはない…どう痛め付けてやろうか
「王国の魔術師達が制御と転移場所を指定してるから、後はそこに向かって飛ぶだけらしい。そうそう勇者が国王に和解は出来ないかって進言したらしいよ…却下されたみたいだけど」
「勇輝が…本当に?」
人一倍正義感が強いあの勇輝が…魔族との和解を進言したなんて…ちょっと驚きだ
「どうやら君と、あの竜人の子を助けるために戦うメリアを見て思うところがあったみたいだよ」
「そっか…ちょっと複雑だなぁ…」
勇輝が魔族…というより魔王であるメリアさんへの認識を改めてくれたのは嬉しい。でもやっぱり現状は何も変わっていない…寧ろその言葉が引き金で魔族領への侵攻が始まったのかもしれない。
そんな様子に気付いたメリアさんが、私を抱き寄せ、頭を撫でてくれた
「どうなっちゃうんでしょうね…これから」
「戦争は避けられぬだろうな…じゃが妾は諦めぬ…可能性が有るならばそれに賭けるよ…竜人の娘を助けるとき、それをお主に教えられた……」
「そう…ですね…諦めちゃったら何も出来ない…」
「やってみなくては分からぬ…だな」
互いに向き合い、微笑む。そして皆の方へ向き直り、口を開く
「皆の者。間もなく人間達が攻め入ってくるだろう、妾は戦は望まぬ…。勇者の捕縛を最優先じゃ、他の者は殺さず無力化せよ。…無茶を言っているのは承知しておる……だから無理に付き合わなくても良い」
「はぁ…お前の無理難題は今に始まった事じゃねーだろ?」
「全くだ、頼られてねーとは心外だ」
呆れたようにルル姉さんが呟き、リーパーさんもそれに続いた
「ルルティア、リーパー…」
「メルル達は仲間、まおー様とユーカおねーちゃんの悩みはメルル達の悩みだもん!」
「そうですとも…我等は一蓮托生、そう言ったのは貴女ですよ?魔王様」
メルルとベルクティオさんもそれに続く。全員が私達と同じ思いらしい
「お前達……全く難儀な奴等よのぉ…」
悪態を吐きながらも、嬉しそうに顔を綻ばせるメリアさん。
「ふふ、慕われてますね?メリアさん」
「あぁ、最高の同志達だよ…お前達の覚悟、しかと受け取った。妾に力を貸してくれ…!」
「「「「オォー!」」」」
(メリアさん、私も微力ながらも助勢します。例え勇輝と戦うことになっても……)
心の中で呟き、これから起こるであろう戦いに覚悟を決めるのだった………
「……」
「…考え事?」
転移魔法の準備が終わる間、武器の手入れをしているとレグナが心配そうに顔を覗き込み、声を掛けてきた
「そんな風に見えるか……ってレグナに嘘は通じないもんな」
「そういうこと…やっぱりユーカの事?」
「うん、それもあるけどさ。本当に魔族との和解は出来ないんだろうかって思ってさ」
「そんな事、議論するだけ無駄ですわ勇者様」
扉が開き、フレイアと甲冑に身を包んだ赤髪と銀髪の女性が部屋へと入ってきた
「魔族と分かり合うなど到底出来ません。彼等は目的の為ならば虐殺も平気で行う悪魔です。情けなど必要ありません。それに与する人間も例外ではありません」
「フレイア…それは優花の事を言ってるのか?」
「あの娘以外に誰が居まして?」
「ふざけんな!あいつは…!」
「どんな理由があろうと魔族側に居るならば我々の敵、そうでは無いのですか?」
「くっ……」
「副長、無礼だろう……部下が失礼した。私は王国騎士団団長エレナ・クォーツ、今回の魔王討伐で行動を共にすることとなりました。そして此方が」
「…アリス・レーベルト。噂の勇者がどんな人かと思えば只の腑抜けで拍子抜けよ」
「アリス!」
騎士団長…エレナがアリスを叱責するも、彼女は何処吹く風といった様子でいた
「勇者といえどユーキも人間、動揺することもある」
若干、苛ついたような声でレグナが反論する。
「ふん、割り切らないと後悔しますよ?」
「はぁ…すまない勇者殿。副長にも複雑な事情がありまして」
「いや構わないさ。誰だって何かしら心に抱えてもんさ…あと敬語は使わないでくれ。勇者って言っても俺はそんな大層な人間じゃないし」
実際敬語って苦手なんだよなぁ…なんかむず痒くなるし
「ですが……」
「それに同い年位みたいだし、気軽に話せた方がお互い楽だろ?」
「ぷ…あはは!同い年…くくっ」
「やはりそう見られるのですね……」
途端にアリスが笑い出し、ガックリと肩を落としあからさまに落ち込むエレナ……あれ?何か不味いこと言った?
「ユーキ…女性に年齢関係は御法度だぜ?年上に見られたり、下に見られるのが嫌がる人と色々だからな」
レックスが肩を叩き、呆れたように呟く。そうだったのか……
“そういう配慮が出来ないから鈍感って言われるんだよ?”
優花がこの場に居たらきっとそう言うだろうな。そんな事を思いながら慌てて弁解するのだった
「はぁ…結局戦争になっちゃうのかぁ……」
報告を終え、湯船に浸かり呟く。なんでいつも上手くいかないんだろう…
「あの子は戦いとは無縁の場所に居ると良いけど……」
今の自分の姿をベースにした少女を思う。あの子にはもう悲しい思いをして欲しくない…ボクが言える義理じゃないけど
「…あの子って誰の事?」
「ひゃあっ!?ゆ、ユーカ!いつの間に!?」
声の方を見るとユーカが隣に居た。全然気付かなかった…
「ごめん…盗み聞きするつもりは無かったんだけど、真剣に悩んでみたいだから…声掛けづらくて」
申し訳なさそうな顔でユーカは言う。まぁ油断してたボクも悪いんだし
「昔ね、ボクには人間の友達が居たんだ」
「…?」
「話、聞きたくないの?なら話さないけど」
「そんな事ない、聞きたい!」
うわ、凄い勢いで食い付いてきた…全く。そんな様子のユーカに呆れつつも話を再開する
「まだメリアと出会う前の話、その頃のボクは相当なひねくれ者で、人間、魔族関係なしに見境無く襲ってた。認めてほしかったのかもね、ボクという存在を…」
「シェイ…分かるよ、一人ぼっちって…淋しいもの」
同情でも気休めでもなく、ユーカは本心で話していた。この子も同じような目に遭ったことあるのかな
「ある日、ドジって大怪我負って死にかけた。その時に偶然通り掛かったのがその子。怖がることも、疎むこともしないでボクの手当てをしてくれた…大丈夫?痛くない?って、最初は警戒したよ、魔物だって言って、突き放そうともした、でも彼女は動じなかった」
懐かしむように一言一言を噛み締める。頑固で一途で、心優しい友達
「いつの間にかボクは心を開いて、色々あって友達になった、嬉しかったよ…何度も会いに行って一緒に悪戯したり、日が暮れるまで遊んだ。毎日が楽しくて仕方なかった………あのときまでは」
「あの時……?」
「うん…ボクは取り返しのつかない事をしてしまったんだ……あの日は満月だった。知ってるかい?満月は魔力が満ちる夜でもある……制御しきれない魔物は皆、理性を失い暴れだす。今は制御出来るけど、その当時はボクも例外じゃなかった…」
そして悲劇は起きた…あの時の肉を引き裂く感触が鮮明に甦る。恐怖や後悔、色々な感情が入り混じって体が震え出す
「シェイ…無理しないで辛いなら話さなくても良いよ…」
そんなボクの様子を見かね、ユーカがそっと抱き締める。優しく暖かな腕で…
「ユーカ…ごめん…ちょっとだけ胸、借りるよ……っ」
そう呟き、ボクはユーカの胸に顔を埋めて、すすり泣く。そんなボクを彼女は何も言わず抱き止めていてくれた
「ふぅ…ごめんね、ユーカ。迷惑かけた……」
ようやく落ち着いて、我に返りユーカに言う。誰かに弱いところ見せるなんていつ以来だろう
「大丈夫。気にしてないから。…その子の事、好き?」
「うん…勿論友達として…」
「そっか…頑張って仲直りしなきゃ、だね?私も手伝うからさ」
そう言ってユーカはニコリと笑う。優しい子だなぁ、メリアが惚れちゃうのも無理はないな
「ありがと……ユーカ」
そう言ってボクも微笑み返すのだった