第16話 幸福な時間1
デート回です。何時もより長めなので一端区切ります
「メリアさん、まだかなぁ…」
待ち合わせの公園でポツリと呟く。え…何で一緒に出てこなかったのかって?雰囲気っていうのは大事なんだよ。今日のお互いの服装も分からない。
因みに私は前に買って貰った空色のワンピースに白のショールといったちょっと清楚な感じをイメージしてみたけど…地味とか思われないかなぁ
「ユーカ!」
悶々と悩んでいると私を呼ぶ声が聞こえる。振り返るとメリアさんが手を振ってこちらに駆けて来る
「ふぅ…すまん、遅くなった」
「いえ、大して待ってませんから」
「そうか…む、その服は…あの時の」
「はい…えっと…どうでしょうか?」
顔を上げたメリアさんが私の服に気付き、ジッと見つめる。あう…気に入らなかったかな…?
「うむ…その…似合ってる……可愛いぞユーカ」
そう言い微笑みながら頭を撫でる。良かった
「…地味じゃ無いですか?」
「そんな事はない、そのくらい控え目の方がお主の美しさと愛らしさを良く引き立てているぞ」
「ありがとうごさいます…メリアさんも凄く似合ってます。大人の女性って感じがして素敵です」
白地のシャツにジャケットを羽織り、ジーンズと少々ラフな感じだけど似合ってしまうのだから困る。むぅ…周りの男の人がメリアさんを見てる……この人は私の…私だけのものなのに……っ!
「メリアさん、行きましょ」
「へ、あ…ちょ、ユーカ…!?」
初めて芽生えた感情に戸惑いつつ、メリアさんの手を引き、早足でその場を離れた
「ユーカ、急にどうしたのだ?何かしてしまったのか?」
「……」
先を歩くユーカに問い掛けるも、返ってくるのは沈黙ばかり……むぅ、まずい…まずいぞこれは……
「メリアさん…」
「む、なんじゃ?」
「ごめんなさい、私は怒ってる訳じゃないんです」
立ち止まり、此方を振り向き申し訳なさそうにユーカは言った。ふぅ…一先ず安心した……じゃが怒っていないと言うのなら何故?やはり分からぬ
「さっきの待ち合わせ場所の公園の人達、皆メリアさんに見惚れてたんです…それが嫌で嫌で仕方なくて…ごめんなさい」
そう言いユーカは頭を下げる。成る程…つまるところ
「嫉妬していたのか…?」
そう問うと静かに頷いた…はは、そう言うことだったのか…全く…
「お主はもぅ……本っ当に…可愛いのぉ」
頭を優しく撫でる。その反応が意外だったのかキョトンとした顔をするユーカ
「あ、あの…怒ってないんですか…?」
「嫉妬していた、ということは妾を好いているが故じゃろ?それが嬉しいのだよ…まぁそういう気持ちにさせてしまった妾にも落ち度があるのぉ、すまなかった」
「そ、そんな…頭を上げてくださいメリアさん…っ、私が勝手に嫉妬してただけで…」
「いや、これは完全に気付かなかった妾が悪い」
「それを言ったら私だって…その…無視してしまったから…その…だから私もごめんなさい…っ」
そう捲し立てユーカも頭を下げる。はたから見れば奇妙な光景なのが容易に想像できた
「ふふっ…」
「ははっ…」
顔を上げた妾達は何だか可笑しくて、気が付けば笑っていた
「さて、誤解も解けたところでデート再開じゃな、行きたいところはあるか?」
「えっと…じゃあ前に約束していた街の案内をお願いします。まだこの街の事、全然知らないので」
「うむ、分かった。ならば行こうか」
手を差し伸べるが、中々その手を取ろうとしない、どうしたのだろうか…?
「ユーカ…?」
「よし…っ」
気合いを入れるように呟き、妾の腕に抱き付いた。むぉっ…これは……っ
「こっちだと……迷惑ですか?」
そう言い上目遣いで彼女は言った
「あ、え…うむ…そ、そんな事はない…っ」
「そうですか…良かった…っ」
ホッとしたようにユーカは花が咲いたように微笑む。あー…妾、今ここで死んでも悔いはない…妾の理性、保つかのぉ……?
「あ…」
「ぬ?どうしたユーカ」
などと頭の悪いことを考えていると、ユーカがある一点を見つめて立ち止まっていた。視線を追うとクレープの屋台があった。懐かしいのぉ…まだやっていたのか
「食べるか?」
「はいっ!」
嬉しそうに返事をする。はぁー…幸せじゃあ…
「いらっしゃい!お、メリアちゃん、久し振り」
「うむ、久しいな。繁盛しておるか?」
「おう、おかげさんでな。メルルちゃん元気かい?」
「あぁ、元気が良すぎて困るよ」
「ははっ、たまにはおいでって伝えてくれな……ん?その子は?妹さんかい?可愛いね」
ユーカを見て店主は言う。妹という単語が気に入らなかったのか、ちょっと不服そうな顔をした
「いや、この子は妾の嫁じゃ。路頭に迷っていたのを拾ってな…まぁ、恥ずかしながら一目惚れしてしもうてな」
「はっはっは!相変わらず惚れっぽいなぁメリアちゃんは。真っ直ぐ良い瞳をしてる、その子ならもうメリアちゃんを裏切らないな…良かったな、素敵な子に出会えて」
「あぁ、妾は今とても幸せじゃよ。手放したくないほどにな」
「私もです。もう片時も離れたくないくらい愛してます」
「なっ…」
「あっはっは!お熱いねぇ!」
予想外の反応にしどろもどろになる。いつものお返しです、と言わんばかりにユーカは微笑んでいた…ぬぅ
「そ、そういえば、店主よ。ここの店のメニューは一通り食べたのだが、恋人のみが食べられる幻のミックスベリーがあると言っておったな?」
分が悪くなる前に話の流れを変えるように店主へ問う
「あー、それね。残念だな、今日はカップルが多くてな。完売だよ」
「なん…だと…」
「残念だったね、うちの人気メニューのイチゴとブルーベリーとかどうだい」
「そうさの…無いなら仕方ない。ユーカもそれで良いか?」
「あ、はい。構いませんよ」
「じゃあそれを1つずつ」
「あいよ。あぁ…金は要らんよ。良いもん見せて貰ったしな」
「なっ…」
「慌てるメリアちゃんを見るのなんて久し振りだしねぇ。嬢ちゃん、大事にしなよ?」
「勿論です」
「あ、あぅ…うぅ…」
「ははっ、言い切ったね。ほい、お待ちどうさん」
「い、行くぞユーカ…っ」
クレープを受け取ったユーカの手を引き、逃げるようにその場を離れる。その際、店主がニヤニヤしながら見送っていた…くっ、覚えておれ!
「メリアさん、クレープ落としちゃいますって」
ユーカの言葉に我に返り、歩を止め、手を離す
「あ…すまぬ」
「良いですよ、私もちょっとからかい過ぎちゃいましたね。さ、食べましょ?メリアさんはどっちが良いですか?」
「…良いのか?」
「はい、からかっちゃったお詫びに好きな方をどうぞ」
「うむ…ならイチゴを貰って良いか?」
「良いですよ、はいどうぞ」
目の前に差し出されたクレープを受け取り、一口齧る。生クリームの甘さとイチゴの酸味が口いっぱいに広がる
「美味しいですね」
「そうじゃな……ユーカ、クリームが付いてるぞ?」
「ふぇ…?あ、本当だ。それにしても残念でしたね、限定メニュー」
「うむ…全制覇は叶わぬか……ぬ?どうしたユーカ」
何かに気付いたような表情のユーカ、そして自分の食べていたクレープを差し出す
「メリアさん、自分の食べてから私のを食べてみて下さい」
「何故じゃ?」
「良いから。どうぞ」
良く分からんが…まぁ言う通りにしてみるか。自分のイチゴのを齧り、飲み込んでから、ユーカのを一口齧る
「……っ!成る程、そういうことか」
「そうです。恋人同士であれば食べさせあいは必ずするでしょうから…あ、私にも一口下さいね」
そう言い、妾のクレープにかぶり付き嬉しそうに顔を綻ばせる。というかこれは……っ
「…どうしました?」
「いや…その…間接キス…だなと…っ」
「あー、そうですね……恥ずかしいんですか?」
「お主は何故そこまで落ち着いているのじゃ…っ!」
「んー…とは言われても、昨夜にあんな激しいのされた方からすれば、何を今更って感じなんですが…というかメリアさんって…意外にヘタレですか?」
「う、五月蝿い…っ」
自分だけが意識しているのが恥ずかしくなり、残りを口に放り込む。もう何の味がしているかすら分からなかった
「あー、勿体無い」
「う、五月蝿い…っ」
「あーもぅ、メリアさん可愛い…!」
真っ赤になって俯く妾を我慢できないとばかりに抱き付くユーカ。ちょっと恥ずかしいが、嬉しさが勝り、彼女の背中に手を回し抱き返す。
暫く抱き合ったまま、お互いを見つめ合っていた……