第11話 邂逅
「ん…ふぁっ…あ、眠っちゃってたのか」
それだけ精神と身体に負担が掛かってたのだろうか。とはいえ……
「敵の領地で熟睡してたとか、随分肝が据わってるなぁ私」
苦笑しつつ起き上がり、周囲を見渡す。あれ…?見張りが居ない
「何処行ったんだろあの子。もうちょっと話がしたかったのに」
メリアさんの事とか……私の中にある感情の事とか。愛しい、好きだなんて思ってるけどそれが恋愛感情の事なのかは実のところ分からない。メリアさんに会えば分かるかもしれない、だから……
「こんな所、早く出なくちゃね。でもどうやって……ん?」
何かが光っているのが目に入り、見てみると鍵が落ちていた……何て言うか
「なんてご都合主義…まぁ良いや」
呆れつつもその鍵を拾い、鍵穴に差し込むとあっさりと牢屋の扉が開く。
「さてと……行きますか!」
牢屋を出て走り出す。取り敢えず動いてれば何処かに……!?
「わぷっ!?」
「ぬぉっ!?」
曲がり角を曲がった瞬間、柔らかい何かにぶつかる。まずい…敵だったらヤバイ
「……あ」
「ユーカ…?」
聞き覚えのある声に顔を上げる。そこには一番に会いたかった人の姿があった
「メリアさん…っ!」
嬉しくて彼女に思い切り抱きついた。メリアさんは優しく私を抱き止めてくれた
「ユーカ、良かった。無事だったか…!」
「はい…何とか。痛っ…!」
鞭打ちされた時の傷にメリアさんの手が触れ、思わず呻く。
「ユーカ、その傷は……それにこれは……っ」
その傷と頬に押された烙印を見つめ、怒りの滲んだ声で呟く
「あ、えっと……これは…」
「あの…クズ…妾の大切な者を傷物にしたな…っ!万死に値する!!」
「ひえぇ、まおー様がお怒りだよぉ…」
「あーあ、本気で切れてんなアレ。アイツ死んだな」
「ルル姉さん、メルル!」
怯えた様子のメルルと呆れたように呟くルル姉さん。2人も来てくれたんだ……
「よう、ユーカ。無事みたいだな……これ、一生消えないヤツだな……全くユーカの可愛い顔になんて事を……っ!」
うわぁ…ルル姉さんまでお怒りだぁ…これはちょっと予想外
「ふえぇ…ルールーまで怒ってるぅ…怖いよー、ユーカお姉ちゃーん」
涙目になって私に抱き付くメルル。不謹慎だけど可愛いと思ってしまった。
「すまん、お前がメリアにとって大切な奴だってもっと早く分かってれば止められたのに…」
私の姿をしたシェイプシフターが申し訳なさそうに呟く。この子がメリアさん達を連れて来たのかな?
「気にしないで、止めてくれただけで助かったよ。こうしてメリアさんとまた会えたもの」
「でもよ…」
「良いの、私が気にしてないから……!?」
今何か声が…龍の咆哮…まさか、あの子が……!
「ユーカ!何処へ行く!?ユーカ!」
メリアさんが引き留める声を振り切り、声の方へ駆け出す。勘が訴えかける…急げ、取り返しがつかなくなるって…!
「早まった真似はしちゃダメだよ、レグナ!」
ガキィン!!
「何…!?」
全身に纏った鱗で奴の一撃を止める。出来れば使いたくなかった……でもこいつを殺せるなら…私は…!
「お前だけは絶対に許さない…竜気…解放…!グゥ…ウァ…ガァァァッ!」
ユーカ、最後に…一目だけ会いたかった………
「レグナ…ダメだ!それだけは……っ」
「レグナぁぁ!!」
2人の止める声を聞いたのを最後に私の理性は絶たれた……
「何じゃこれは……あれは竜人か?」
「遅かった……っ」
咆哮の聞こえた方に辿り着くと、そこには理性を失い、ただ破壊と蹂躙を繰り返すレグナだった竜人が居た
「ぐぁ…!」
「ごはっ!?」
「勇輝!レックスさん!!」
「優花…?本当に優花なのか…!?」
「おぉ、ユーカちゃん久しぶり…って後ろの奴ら、四天王じゃねーか!」
レグナの攻撃に巻き込まれ、吹き飛んできた2人。幼なじみの勇輝と仲間のレックスさんだった
「それは…えっと…色々あって…」
「おい話は後にしろ!来るぞ…!!」
ルル姉さんが叫ぶと共に前に出てシールドを張る。その瞬間に物凄い速さで接近したレグナの爪がぶつかる。一瞬防いだものの、直ぐに紙切れ同然に切り裂かれる
「なっ…ぐぁぁっ!?」
シールドが粉々に砕け衝撃でルル姉さんが吹き飛ばされる。入れ替わるようにメルルがレグナへと向かう
「こんのぉー!!」
高く飛び上がり渾身の蹴りを放つが易々と止められる
「嘘!?止められた!?この…離せっ…!?」
「グオォォッ!!」
雄叫びを上げ、メルルを地面へと叩き付ける。2、3度バウンドし壁に激突する寸前、メリアさんが受け止める
「メルル!」
「まおー様…ごめっ…なさ…げほっ!」
「喋るでない、傷口に障るぞ……ユーカ、ルルティアとメルルを回収して離脱するぞ」
「嫌です、メリアさん…私はあの子を止めます」
「なっ!?バカを言うな…!暴走を始めた竜人が如何に危険か、分からぬわけでは無いだろ!?」
「だからって放ってなんか置けません!大切な友達を助ける理由なんて必要ない!」
寂しがり屋で意地っ張りで…人一倍誰かを傷付ける事を嫌うあの子を助けたい。ただそれだけだった
「はぁ…分かった。2人を城へ運んだら妾も戻る…無理はするなよユーカ」
「はい、戻ってくる頃には終わらせてみせます」
「ふ、流石は我が花嫁。言ってくれるの……じゃが無理はするなよ」
「分かってます。貴女を悲しませたりはしません…絶対に」
「約束だぞ…。おい勇者、ユーカに怪我を負わせてみろ…只では済まさぬぞ…」
勇輝の方を向き、低い声で言い捨て、メリアさんは2人を抱えて城へと戻った
「うぉ…こえーな、あの人」
「優花…アイツって…もしかして」
「それはレグナを止めてからゆっくり話そう。今はあの子を止めるのが先」
何かを言おうとした勇輝を遮り、私は前に出る。流石だなぁ…あの人の正体、気付いたんだ
「…分かった。色々聞きたいことはあるけど優先順位はこっちだな」
「さぁ、行くよ!2人とも!」
「「おう!」」
レグナ…今助けてあげるから……!