第9話 それぞれの思い
ヒュンッ、バチィン!バシィンッ!
「ぐっ…あぅっ…うぅっ…!」
鞭打つ音と、それに耐える少女の苦悶の声が牢屋に響く。先程から随分経つが少女は必死に耐えていた
「しぶといね…奴隷であることを認めれば楽になれるよ?」
「はっ…これくらいで根を上げたら…メリアさんにっ…笑われちゃうよ…あぐっ!?」
メリアの名前を口にした途端、目の色を変えて少女の顔面目掛け鞭を振るう。頬を掠め、血が一筋滴る。おいおい…奴隷として売るんだから顔は止めとけって
「人間風情が…メリーの名を口にするな!」
バチィン!バチィン!バシィンッ!
怒りに比例して鞭を振るう間隔も狭まる。そろそろ止めるか……
「おい、その辺にしなよ。この間も生意気だ、気に食わないって言って別な奴隷を殺しちまっただろ。そいつは商品なんだからやり過ぎんなよ」
「ち…まあ良い。後3日もあるんだ……ゆっくりとその身に刻み込んでやるよ。連れていけ、オーナーと話をして来る」
「はぁ…ったく、相変わらず人使いの荒いヤツだ……おい、生きてっか?」
ドレイクが出ていったのを見届けてから、磔にされている少女の戒めを解き、担ぎ上げながら声をかける
「あぅ、ヒリヒリする……メリアさん悲しむだろうなぁ。おまけにこんなものまで付けられたし…」
傷口と奴隷の印を一撫でして呟く。自分が傷つけられた事への憤りではなく、それによって他者が悲しむことを恐れる少女。つくづく変な奴だな…
「そういえばさ、貴方はどうしてメリアさんを知っているの?」
「あー、メリアとは友達なんだよ。何者でもないボクをちゃんと個人として見てくれた只一人の友達さ……お前こそメリアとはどういう関係なんだよ」
「あー、なんというか…婚約者っていうか、花嫁候補?」
………ゑ?こいつ、今何て言った?花嫁候補って
「……マジか?」
「うん、本当だよ。最初は私も吃驚したけどね。でも本気なんだ。私も何だかあの人の事を意識してるし、…笑顔も怒りの顔も泣き顔も……全部愛しいって思ってるから……やっぱり変かな?同性で好きだって言うのは」
苦笑しながら少女は言った。全く…人間ってつまんないところに拘るよなぁ
「あぁ、変だな…そんなつまらんことで悩んでることがな……よいしょっと」
牢屋に着き、ゆっくりと下ろし、少女の前にしゃがむ。
「好きなら堂々と胸張れよ、周りが何と言おうと構うな」
「そうだね…そうだよね。ありがと…」
そう言い目を瞑り少女は眠りについた。無理もないか…普通だったら気を失ってもおかしくないもんな
「さてと……ボクはやるべき事をしますか……」
牢屋を閉め、外へと出た。最愛の友の居城を目指して……
「この辺りか?レグナ」
「ん、間違いない…ユーカの気配する。」
「しっかし、竜人ってすごいねぇ…1㎞以内の気配すら感じられる事が出来るって…ふわぁ…眠い」
「じゃあなんで付いてきたんだよ、レックス」
呆れつつ、緑髪の男-レックス-に返しながら周囲を警戒する。レグナが優花の気配を感じたと言い、街外れの森へと来ていた……ミリィとフレイアには適当に誤魔化しておいた。用心のために
「パーティーのマドンナ、ユーカちゃんの為なら何処にでも行くよ!」
はぁ…全く、これがなければ頼りになる奴なんだけどなぁ…レグナの奴、何をムッとしてるんだ?
「…ミリィやフレイア、レグナも女だぞ?」
「あーダメダメ、レグナは人外の時点で論外。後の2人は、まぁ美人ではあるけどよ、なんか腹に抱えてるだろ絶対……ってレグナさん?なんで龍化してんの?ねぇ何する気!?」
「あの2人が信用なら無いって見抜いたのは流石、だけど私が論外は納得いかない…!」
うわ…レグナの奴めっちゃ怒ってんじゃねーか。あれ……もしかしてレックスの事
「 ちょ、待っ……ドラゴンブレスは死ぬってぇぇ!!」
「何やってんだよ……」
龍化したレグナは、ブレスを吐きながらレックスを追い回す。そんなカオスな状況に頭を抱えるのだった………
「はぁー…死ぬかと思った……」
「自業自得だろ…ほらレグナも機嫌直せって」
「ふん…」
あーあ、完全にへそ曲げてるよ。しゃあないな
「レックス、ちょっと偵察行ってくれ。何か見落としたものがあるかもしれない」
「了解……すまん」
頭を下げてから、レックスは走り去っていった。よし行ったな
「はぁ……ダメだな私」
「レグナ?」
「いつもこう、レックスの事なると冷静になれない…さっきだって論外って言われてついカッとなって…訳が分からないこの気持ち…」
しょんぼりとした様子で呟く。やっぱりそうか…
「そっか、それってさ…レックスの事が好きだからだよ。勿論、異性としてな」
「え………ふぇぇえっ!?」
一瞬キョトンとした後、言葉を理解し真っ赤になり慌てるレグナ。和むなー
「あ、あり得ない…あんな女たらし、誰が…っ」
「でも嫌ってはないんだろ?」
「うぅ…そうだけど…」
「じゃあ好きなんだよきっと」
「無いっ!絶対に無い……!」
力いっぱい否定するレグナ、そこまで来ると認めているようなもんなんだけどなぁ…
「そうか?まぁそういうことにしとく……っと、レックスが帰ってきたな」
「おーい、2人とも。あっちの方に怪しい洋館が……レグナ、顔真っ赤だけど…どうした?」
「な、なんでもないっ!」
「…?変な奴」
慌ててそっぽ向くレグナに首を傾げるレックス。自分に向けられる好意に対しては本当に鈍いな、アイツは
「まぁそっとしといてやってくれ。んで?何か見つけたのか?」
「あぁそうだ。あっちの方に寂れた洋館があってさ、人の気配がするんだよ。おそらくそこにユーカちゃんも……」
「そうか、よし行こう。案内してくれ」
「おう、こっちだ」
先行するレックスの後を追い、目的地へ向かった。
待ってろ優花、今行くからな…!