スキル
あ...やっちまった。これはまずい。
異世界LIFE2日目は最悪のスタートを切った。
俺は昨晩、部屋のドアに紙が貼りつけられていた。
差出人不明のその手紙には、朝5時に外で待っている、と書いてあった。
俺は寝起きには自信があったのでアラームをかけずに寝てしまった。
そして現在。朝の6時30分になろうかという時間。
俺は深い眠りについていたのか、とても良く眠ることが出来た。
だが、約束の時間をはるかに過ぎている。誰だか知らないが申し訳ない。
俺は一応見に行くことにし、着替えを済ませろ外に向かった。
広場には人の気配はなかった。まあこんなに待たされたら帰るよな、普通。
そんなことを思い、帰ろうかとした時だった。
「やっといらっしゃいましたね。かなり時間にルーズですよ。」
と、不満そうな声が聞こえてきた。
振り向くと、そこには俺より1、2歳くらい年下のような女の子と、俺と同じようなピクシーが話しながらこっちを向いていた。
「えっと...君が俺にこの手紙を?」
「そうです。ですが...ちゃんと見ました?5時って書きましたけれど。」
「そのことに関しましては深く謝罪をさせていただきます。」
なんで俺は年下の娘に頭を下げなきゃならないんだ。
そもそもそっちが勝手に呼び出したわけで、俺はここに来なくちゃ行けない義理などないはずだ。怒られる意味がわからない。
だが、そんなことを言っても話が進まないので俺は単刀直入に質問した。
「なぜ俺をここに呼び出したんだ?」
少女は俯くと小さな声で話し始めた。
「私は、ミカエラ=アルフェンド、職業はウィザードです。魔法使いの上位職です。」
ほほう。この人魔法使いなんだ。かっこいいな。
「私の家は代々僧侶をやってきたんです。でも私はヒーリングオーラが低く、あまり向いてないとのことで。射程はあるのでウィザードをしています.ですが...」
ですが?
「ですがそれを気に私の姉は私を家族扱いしなくなりました。魔法使いはどこかに行け、と言われて。」
それはそれは面倒なお姉さんですね。
「なので私は決めたのです。最強の魔法使いとなり、皆を驚かせる事を。ですが私1人ではクエストを攻略するのが厳しいのです。そこに、冒険者になったその日既に、ステータスがカンストしているソードマスターがいるとの噂を聞きました。」
えぇ...俺そこまで噂になっているとは知らなかったんだが。
というか多分、この娘が次なんていうか予想がついた気がする。俺の予想が正しければ...
「私とパーティを組んで、一緒に最強を目指してくれませんか?」
予想的中!思わず1人でガッツポーズをしてしまった。
俺は咳払いをして
「ミカエラ...でいいか?俺も組むのは構わないさ。ただ、昨日ある人とパーティを組んでいるんだ。その人に相談しよう。ちょっとついてきてくれ。」
俺はミカエラを連れてクレアの部屋に向かった。
クレアは既に出発の準備を終えて、俺が来るのを待っていたようだ。
俺がミカエラを連れて部屋に入ってくると、きょとんとした顔を見せたので事情を説明した。
クレアは話を理解した後、俺に向かって
「パーティに魔法使いがいれば安定性も高まりますし、いいんじゃないでしょうか?」
と、クレアもこの話を承諾してくれた。
「ということで!これからよろしくお願いします!クレアさん!スグヤさん!」
ミカエラの嬉しそうな声が響いた。
俺もこの娘の手助けができるのはとても嬉し...待って、この人俺の名前間違えなかった!
どうでもいいようなことで1人盛り上がる俺を、2人は不思議そうに眺めていた。
借り部屋をあとにした俺達はピクシーが考えてくれたプランを元に行動することにした。
一度クエストを受け、それの結果に応じて、その後の予定をピクシーがまた考えてくれる。
俺達はギルドに着き、扉を開けると、多くの視線が俺に集まった。
〈あいつだよ!ステータスカンストのソードマスター!〉
〈確かナオヤとか言ってたな。なんか雰囲気的にも強そう!〉
俺の名前を間違えるんじゃねえ。とは言わない。
だってこんなに褒められたら怒りなんて感情はかき消される。
清々しい気持ちでクエスト受付に訪れた俺達は、受けるクエストを検討した。
「これなんかどうだ?レアアイテム搜索クエストってやつ。」
「ああ、それはやめた方がいいかと。見つからずに1年以上過ぎてますからね。」
「うわマジか。やめよう。」
俺達は意見を出し合うこと5分、ピクシーの選んだゴブリン討伐にすることにした。
ゴブリンといえば、RPGお決まりの敵モンスター。初心者でも知っているような雑魚モンスターだ。
この世界でも、ゴブリンは雑魚のようだが 、チームワークを試す上でこのほうがいいだろう、ということになった。
ゴブリンを10匹倒す、というありがちなクエストだが、初クエストということもあり、俺のテンションはマックスだった。
「2人とも!よろしく頼むぜ!」
「「はい!」」
気づいたらパーティが清楚系と可愛い系とまさしく両手に花となった。
あぁー、異世界サイコー!と心の中で叫んだ。
気づいたら目的地まで100mの地点に来ていた。と、その時。
何かがいる感じがした。前の方、50mくらいかな?なんとなくそんな感じがする。
「ねえ。何かがいる気がするぞ。2...いや3匹かな?」
「スグヤさんは敵感知スキルを持っているんですね。便利だし私も取ろうかな...」
俺、敵感知を覚えてるのか。確かに便利だ。不意打ちとかもできそうだし。
「じゃあ俺がやってみるよ。戦うのは初だから何かあったら助けてくれ。」
「そうか。スグヤはまだ冒険者になったばかりなんですよね。回復するので思い切り突っ込んでください!」
そういやこいつらもなかなか良い職業だもんな。これなら気も楽だ。
「よし、じゃあ切り刻んでやるぜ!」
俺は走り出した瞬間に気付いた。身体が軽いことに。
50mくらいあったはずの距離を1秒足らずで駆け抜けられる。
急に現れた俺に気付いたゴブリンが戦闘態勢をとろうとする中、俺は背中にしまってあったライジングクラッシャーを引き抜き、そのままゴブリンを切り刻んだ。
速度を落とさずゴブリンの横を通過し、俺は剣を背中にしまった。
すると、ゴブリンたちが勢いよく倒れ込んだ。
後ろからクレアとミカエラが寄ってくる。
「何あの剣の速さ。私たちじゃ剣が見えなかったよ。」
俺も正直、何回くらい切ったのか分かんなかった。最初のゴブリンを4連撃で倒したのは覚えている。だが残り2体は身体が勝手に動くような感覚で奴らを倒した。
これがスキルってやつなのか?速すぎてわからん。
でもこいつらの反応からして俺のスキル速度は異常だったのだろう。
ステータスカンストってゲームレベル崩壊だな。