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新王国暦527年
生まれて間もないその“少女”は、母の優しい腕に抱かれ、暖かな父の眼差しに見守られ、穏やかに微睡んでいた。
“少女”の寝顔を見詰める二人は、和やかな会話を交わす。
「やはり、この子の顔立ちは、お前に似ているな……」
「……でも、この肌の色や翼は貴方似だわ。」
もし、この二人の姿を見る者がいたなら、多くが驚きに目を見開いたことだろう。
彼らは人間ではない……亜人種、しかも「風の妖精族」と称される者たちだった。
“少女”の母は、蝶に似た青い翅を持つ女性――フェアリー族、それも「貴族種」と呼ばれる者だ。
そして、その傍らに立つ“少女”の父は、暗色の硬質の皮膚に包まれた“空の悪魔”と称される存在――グレムリン族の男性だった。
それは常識ではありえない組み合わせだった。
両者は互いにその存在を忌み嫌い、互いに滅ぼし合わんとする仇敵同士の筈であったのだから……
実は、この日を迎えるまでに、二人は長い月日を要したのだった――