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彼が悪魔と呼ばれた日  作者: 芳右
第一章 彼が異界へ渡った日
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008 新生活

コンコルダが言っていたとおり、あれから二日後の今日。

俺は晴れて地下牢から出してもらえる事になった。

牢を出る前に、制服と鞄も返してもらえたので、今は久しぶりに制服に袖を通している。


(あぁ…やっぱりちゃんとした服だと落ち着く…)


こんなことになる前ならば、絶対に抱く事はなかっただろう制服への感想を感慨深く思いながら、少し前を歩くコンコルダの後ろを付いて行く。


地下牢から地上へと続く階段を登りきり、小屋のような場所から外に出ると、久しぶりに見る太陽の光に少し目が眩んだ。


光に目が慣れてくると、バラフ村の風景が見えてくる。

レンガ造りの家と木造の家が立ち並び、ほとんどの家の横には一定の大きさで畑が作られていて、村の人たちが畑仕事をする姿もちらほらと見て取れた。


村の周囲は、木で出来た防壁で覆われている。

野生動物対策だろうか?


のんびりとした雰囲気という点で言えば、俺の住んでいた場所とそう大差ない。

だが、なんだかあまりにも違うのだ。


まるでタイムスリップでもしてしまったような、そんな感覚。

ここは一体世界のどこで、どうしてこんな場所まで来てしまったのか。


これまで何度も考えた事柄が再び脳裏を過ぎる。

そして、いつも最後に辿りつくのは桐哉と最後に交わした会話。

『神隠し』


数ある予想の中で一番現実味が無く、一番現状説明ができそうな答え。


「ケンジ?」


唐突に声をかけられ、自分が思考の深みに嵌っていたことに気付いた。

先ほどまですぐ前を歩いていたはずのコンコルダからは少し離れてしまっている。


(今はまず、情報を集めよう…恨み言も泣き言も、全部その後だ)


そう思い直して沈みそうになる意思を何とか奮い立たせると、小走りでコンコルダに追いついてから「ゴメン」と謝っておいた。


その後、コンコルダの家に到着するまでの数分間、簡単に村を案内してもらった。

すれ違う村人たちにも簡単に挨拶をしながら歩いたのだが、何故かコンコルダの表情が強張っている。

どうしたのだろうか?


疑問に思いつつも、その他は特に特筆すべき点も無くコンコルダの家にたどり着いた。


「ここが俺の家だ。ケンジにとっては仮の宿って事になるな」


コンコルダの家は木造のコテージっぽい建物で、村の入り口である門のすぐ横に建てられていた。

なんでもコンコルダはこの村の門番らしいのだが、別に常に門で警備しているわけでもないらしい。


よくわからないが、そういうことなんだそうだ。


門番という役目もあって、コンコルダは俺を助けるのが遅くなった事を気にしていたようだが、俺は生きてるし、ここまでしてもらっているのだから正直あまり気にしていない。

そりゃ門が開かなかった時は、どうして誰も助けてくれないんだと世の理不尽を恨んだりもしたが、牢の中で考えている間に、頭も冷え何か納得してしまったのだから仕方ない。そう仕方ない。


そうこうしている間にもコンコルダは家のドアを開け、中に入れと促してくる。

それに応じて、一歩家の中へと足を踏み入れた。


「おぉ~…」


家の中に入ると、木のいい香りが部屋を満たしていた。

目に映るのは、木でできた家具類や、テレビでしか見たことの無いようなレンガで造られた暖炉。

部屋の奥を見ると、暖炉と同じようにレンガで造られた台所らしき場所もあった。

どうやら二階があるようで階段も見える。


そのどこか昔憧れた隠れ家、秘密基地といった趣に少し興奮してしまった俺だった。


―――――


それからの日々は、やる事といえばコンコルダに言葉を教わり、会話に慣れるために近所の村人と話をしたり、筋力を戻すためのリハビリ代わりに畑仕事を手伝ったりする程度だった。


最初は片言で喋る俺に戸惑い気味だった村の人たちも、少しずつ対応が柔らかくなっていくのがわかり、それが面白く感じて、より一層言葉を覚えるのを頑張った。


ある程度村の人たちと打ち解けると、それまで見かける事の無かった村の子供たちの姿をちらほらと見かけるようになった。


口に出さずとも、やはり警戒されていたらしい事に若干のショックを受けたが、逆に信頼の度合いが目に見えることは嬉しくもあった。


子供たちも俺のことを物珍しく感じるようで、戸惑っていたが一人が声をかけてきたのをキッカケに、瞬く間に囲まれてしまい、言葉を聞き取る余裕もなかったのは苦い思い出だ。


そんな、村の生活にも慣れてきたある日のこと。

コンコルダが話があると言って俺を呼んだ。


俺がそれに応じて与えられた二階の部屋から一階リビングへと移動すると、コンコルダはいつも食事や狩りの準備をしている机に肘をつき、何か考えるように黙って目を瞑っていた。


「コンコルダ、話って?」


俺が声をかけると、コンコルダは目を開けてこちらを見て、


「とりあえず座れ…」


そういって自身の向かいにある椅子へと俺を誘導した。

否やも無いので、大人しくコンコルダの真正面に座り、改めて話を切り出した。


「それで、話って?」


「あぁ、その…なんだ」


珍しく歯切れの悪いコンコルダは、迷うように視線をゆらゆらとさまよわせたが、やっと腹が決まったのか、


「その…話ってのはだな…コレだ」


そう言って机の下から取り出したのは、普段コンコルダが使っているものよりも小さめの弓だった。

コレが…どうした?


首を傾げる俺に、説明するようにコンコルダが口を開く。


「ケンジの傷も、もうほとんど治ったし、体力も畑仕事で戻ってきただろう」


「あぁまぁうん、そうだね。もしかしたら前より体力付いてるかも」


「…まぁだからなんだが、そろそろ身を守るための術も身に着けるべきじゃないかと思ってだな…」


「あぁ!もしかして!」


「察しのとおりだ。この弓をケンジにやる。明日からでも訓練を始めようと思うんだが…どうだ?」


「やる!やるよコンコルダ!ありがとう!!」


そう言って、差し出されていた弓を受け取った。

木でできているらしいその弓は軽く、俺が持っても問題無さそうだ。


身を守るための手段、それは生きて帰る為の必須条件のひとつであり、避けては通れないものだと俺は考えている。

この土地で俺という人間は弱すぎるのだ。


最低限生きていくだけの力が居るこの土地では、今の俺ではただ帰り道を探すことすらできない。

だから学ぶ、自然の中で生き残る方法を…


そんな決意を新たにしている俺を見て、どこか寂しそうに笑うコンコルダの姿が目に映るのだった。

次回はちょっと趣向を変えたお話です。

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