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彼が悪魔と呼ばれた日  作者: 芳右
第一章 彼が異界へ渡った日
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006 コミュニケーション

それから結構な時間が過ぎたと思うのだが、未だに格子の前で笑い続ける村民A…いくらなんでも笑いすぎだと思う。


というかいい加減その手に持った碗をよこせ!


ようやく俺のジト目に気付いたのか、未だにヒィヒィ言いながら笑う村民Aは少しだけ申し訳無さそうな顔をして、格子の隙間から茶碗をこちら側へ置くと、やっと笑うのをやめて俺と目を合わせた。

しばらく我慢していたようだが、すぐに目元がピクピクと痙攣し…


「…ブッ!!アッハッハッハッハッハ!」


再び噴出して笑い始めてしまった。

チクショウ!


大笑いを続ける村民Aに背を向け、差し出された碗を見る。

中にはほうれん草のような緑色の葉が入っていたが、それ以外に具らしい具は入っていない。

スープ自体もほとんど水と言っていい透明度で、味はあまり期待できそうに無い。


それでもほぼ二日間何も口にしていなかった俺は、ゆっくりと碗に口をつけスープを飲んだ。

謎の葉っぱはほうれん草ではなかった…何だコレ?

よくわからないが、マズイと言う訳でもなかったため、気にしないことにした。


ただ一つ言わせてもらえるのなら、育ち盛りの男子の一食分にしては少なすぎる。

こちとらほぼ一日中歩いたり走ったりしているし、精神的不安やら苦痛やらでカロリー消費量は俺史上最高値である事は間違いない。

責任者出せコノヤロー!


…何て事はたとえ言葉が通じない場所であろうと絶対言わない小心者の俺である。


そんな事を考えていると、いつの間にか村民Aの笑い声が聞こえなくなっている事に気づいた。


ハテ?


どうしたのかと思い村民Aの方へ振り返ってみると…


なんかスゴく優しい笑顔で見られていた。

何これキモチワルイ。


―――――


村民Aと何やかんやあった翌日。

何故かニコニコと笑う村民Aが朝食を持って再び俺の元を訪れた。


(不気味だ…)


そう思ってしまうのも仕方の無いことだと思う。

そんな感想は表には出さず、差し出される朝食らしきパンとスープを受け取り、一応礼代わりに軽く頭を下げておく。


「いただきます」


手を合わせて小さくつぶやいてから、パンを一口かじってみたが


「硬っ何このパンめっちゃかてぇよ…あっ」


やってしまった…

そう思うのも仕方が無い、なんせ未だに格子の向こう側に村民Aが居るし…何で居るんだろう?


疑問と気まずさでそっと村民Aの表情を窺うと…

何故かめっちゃ笑顔だった。


俺がパンの硬さに悪戦苦闘しているのを見て取ったのか、「仕方なねぇなぁ」と言った感じで肩をすくめると、自身の左手をお碗に見立てて、右手は何かを摘むような形にすると、右手をお碗のほうへ持って行きチョンチョンと上下に動かしたあと、その右手を口へと運んで満足そうな顔をした。


なるほど…スープにパンを浸して食べろって事か。


俺は早速パンをスープに浸して少しふやかしてから食べた。

うん、これならイケる。


俺のそんな行動を満足そうに見ている村民Aの表情に少しだけイラッくるものがあるが、相手は善意で教えてくれたのだ。

例え伝わらないとしてもお礼くらいは言っておくべきではないだろうか?

そう思って一応日本語で「ありがとう」と村民Aに伝えると


「アリガトゥ?」


と、首を傾げて言われてしまった。

いい歳した中年が、純粋そうな目で小首を傾げてる姿は、やたらとコミカルで噴出しそうになるのを堪えるのに苦労した。

こっちの言葉で感謝を伝える場合は何て言ったらいいのかわからないが、それだけは覚えて近いうちに伝えよう。


食事を終え、村民Aに皿を返すと彼は笑みを浮かべ


「イェン コンコルダ」


と、自身を指差して言った。


「イェン コンコルダ?」


オウム返しで俺が首をかしげていると、「違う違う」とでも言うように首を横に振り、もう一度自身を指差して


「コンコルダ」


そう言った。

どうやら自己紹介のつもりらしい意図を理解した俺も、それに応じるべく自分を指差して


「賢治」


と、一言だけ喋った。

俺の言葉を聞いた村民A改めコンコルダは、うれしそうに笑うと、俺を指差して


「ケンジ」


と呼ぶので、軽く頷くと、コンコルダは次は自分を指差したまま黙って、何やら期待した目でみつめてくるので、若干背筋に悪寒が走った。

どうやら自分の名前も呼べということらしい。


「コンコルダ」


仕方なく名を呼ぶと、コンコルダはウンウンと頷きながら笑顔を浮かべた。


最初のときと比べて異常なほどに友好的な態度に、妙な不安を覚えるが、現状まともに相手をしてくれるのが彼しかいない以上、少しでもコンコルダから言葉なりなんなり教えてもらわないと、日常生活すら危うい。


そんな事を考えている俺をよそに、再びコンコルダが自身を指差し、


「イェン コンコルダ」


続けて、俺を指差し、


「リュス ケンジ」


と言った。

そういえば昨日、コンコルダが俺に何か言う際、やたらとこの「リュス」というのを使ってはいなかったか?

もしかしたら「リュス」というのはコチラの言葉で自分以外を指す…日本語で言うところの「あなた」や「お前」と言った言葉と同義ではないだろうか?

…とすると、「イェン」の方は自分の事を意味する言葉か?


こればっかりは使っている人間に確認するしかないので、答え合わせのつもりで言葉を発してみることにした。


まずは俺自身を指差し、


「イェン ケンジ」


と言うと、ウンウンと大仰に頷くコンコルダ。

どうやら当たりらしい。


それではと、続けてコンコルダを指差し、


「リュス コンコルダ」


と言ったところで、指差した手をコンコルダにガシッと掴まれた。


一瞬、何かやらかしてしまったかと思ったが、満面の笑みを浮かべるコンコルダを見て、それが杞憂であることがわかった。



その後もコンコルダが身近にあるものを指差して、アレは何、コレは何と言った感じで物の名前を教えてくれるので、俺も素直に教わることにした。


…それはさておき、俺はいつになったら牢から出してもらえるのだろうか?

そんな疑問を露ほども感じていないコンコルダは、それから毎日のように俺に言葉を教えようと食事と共に俺の元を訪れるのだった。

顔は怖いが心は清い、世話焼き女房コンコルダ!


次回は少しだけ時が流れます。

賢治くんは牢屋から出ることができるのか?

次回 プリズンブレイク!


…すんません嘘吐きました。

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