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彼が悪魔と呼ばれた日  作者: 芳右
第一章 彼が異界へ渡った日
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002 神隠し

どうも各話タイトルを失念していた間抜けな作者です。

ある程度話が落ち着くまでは多めに更新していくつもりですが、私生活などと折り合いをつけるため、基本的には一週間に一回の更新を目指していこうと思っております。

背中に感じるチクチクとしたむず痒い感触で俺は目が覚めた。

寝起き独特のぼんやりした感覚でゆっくりと目を開けた俺の視界に広がったのはどこまでも青い空だった。


(あれ…俺は何でこんなとこで…)


そこまで考えてやっと意識がはっきりとした。


(そうだ!確かじいさんが運転してる車に轢かれそうになって…)


頭に浮かんだのは最後に振り返った瞬間。

自分に迫る車と、その運転席で意識を失っている老人の姿だ。

居眠り運転なのか、はたまた何かの発作で意識が飛んでいたのか…どちらにせよ、それで轢かれた?側としては同情の余地は無い。


(というか…そうだ、もし車に轢かれたなら…俺今どうなってんの?)


思い立ったところで慌てて現状を確認しようと体を起こした瞬間


ガサガサッと枝を揺らすような音と共に訪れた浮遊感…

直後に体は地面に叩き付けられ、痛みで一瞬呼吸ができなくなる。


なにが何だかわからない俺はただひたすら痛みに悶えた。


「…ってぇ…」


ようやく痛みが和らいできたところで、仰向けに倒れたまま目を開ける。

先ほどと違って青い空を遮るように背の高い木の葉が生い茂っているのが目に映った。


その内俺の真上に位置する比較的低い位置の枝が折れている…おそらくあそこから落ちたのだろう。

少し横に視線を向ければ先ほど俺のせいで折れたであろう細い木の枝や葉っぱが散乱している。

すぐそこには学校指定の鞄も一緒に落ちていた。


体に異常が無いか軽く動かして確かめてみるが、さきほど地面に叩きつけられた事を除けば特に外傷は見当たらない。

手足も折れてないみたいだし、多少擦り傷が出来ている程度だ。


そこでもう一度辺りを見渡してみて…気付いた。


「え…なんで…」


学校からの帰り道…さっきまでの夕焼け空が嘘のように消え失せ、目に映るのはどこまでも澄んだ青い空。

ショックで気絶していたとしても…夜が明けるまで目が覚めないなんて事は無いはずだ…と思う。

空腹具合などから考えてもやはりそれほど時間が経っているとは思えない。


訳がわからない状況に不安が一気に膨れ上がった。


先ほどまで穏やかな森に見えていたものが、突然心霊スポットに来てしまったかのような恐怖。

風に揺られる葉音にすら恐怖心をあおられる。


「どこだよ…ここ」


車に轢かれそうになったあの場所の近くにこんな森は無かった…

地元に小さな森のようなものはある…けれど、少なくともこんな家の一軒も見えないほど深い森じゃない。


「…死んだと思われて、どっかの山奥にでも捨てられたのか…?いや、だとしても俺がいたのは木の上だったし…」


キョロキョロと辺りを見回してみるが、あの木よりも高いものは近くに無い。

高いところから投げ捨てた結果、あの木にひっかかった…という訳でもないらしい。

狂人でもあるまいし、わざわざあんな場所に死体を置こうとは思わないだろう。

…犯人爺さんだし、あんなところまで俺を運ぼうと思ったら骨が折れるんじゃないだろうか…物理的に。


考えれば考えるほど訳がわからない。

そこで昼間の桐哉とのやりとりが脳裏をよぎった。


「…神隠し…」


意識せず呟いた言葉だったが、これ以上ないほどしっくりきた。

そしてそれがなにより絶望的なものに思えた。


(いや…落ち着け、きっと突然の出来事で混乱してるだけだ、現実的じゃないし…ここだって俺が覚えてないだけで少し歩けば知ってる場所に出られるかもしれない)


「よし!」と一声自分に言い聞かせ鞄を拾い上げた俺は一歩踏み出した。




それからどのくらいの時間が経っただろうか…

時間がわかるものを持っていないことを恨めしく思う。

そして何より「よし!」という言葉と共に一歩を踏み出した時の自分が憎い。

これだけ歩いて何も無いとは思わなかった…


猪が出るような田舎に住んでいたので山道を歩くのはある程度慣れている…とはいえ、終わりの見えない森を歩き続けるのには限界があった。

時折遠くのほうから聞こえてくる獣の鳴き声や鳥の羽ばたく音などに戦々恐々としながら森の出口を探すが、空が赤く染まるまで歩き続けても似たような風景が終わることはなかった。


何もわからないまま森を歩き続けた結果、心身共に疲れ果ててしまい俺はその場に座り込んだ。


割と綺麗に着ていたはずの制服もところどころ糸が解れている。きっと途中どこかで木の枝か何かに引っ掛かったのだろう。


そんな自分の状態を確認して、急に涙腺が緩んだ。


「っく…うぅ…」


目から涙が止め処なく流れ出てくる。

情けないな…なんて思いながらも涙は止まってくれなかった。

せめてもの抵抗に声は出さなかった。


―――――


声を押し殺したままかなりの時間泣き続けた。

このまま森の中で夜を迎える事への危機感はあったが、疲弊しきった心と体は言うことを聞いてくれなかった。


涙が止まった頃には既に日も落ち、辺りは闇に包まれていた。


寒いし、怖いし、寂しい…けど泣いたことで少しだけ冷静さを取り戻せた。

寒いと言っても凍えるような寒さじゃない…少し肌寒さを感じる程度だ。

とは言えさすがにこのまま眠ってしまうと言う訳にもいかない。


ひとまず俺は偶然見つけた大きな木の洞を風除け代わりにすることで寝床を確保した。

そこで少し安心してしまったのか「ぐぅー」と腹が豪快に鳴った。


「腹…減ったな…」


お腹をさすりながら小さく呟くが、ただ空腹感を助長させるだけだった。

空腹を紛らわせるためにも、体を休めるためにも早々に寝てしまおう…


そう思い目をつぶると、割と簡単に眠りに付くことができた。

相当疲れが溜まっていたとはいえ、この状況下で眠れる俺は案外神経の太い人間だったのかもしれない。

ご意見・ご感想など頂けると幸いです。

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