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彼が悪魔と呼ばれた日  作者: 芳右
第一章 彼が異界へ渡った日
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001 日常

プロローグで既にやらかした感が否めませんが、過去の過ちは省みず頑張っていこうと思います。

山と海に囲まれたのどかな町。

俺、黒井賢治くろいけんじ14歳が住むのはそんな表現がしっくりくる場所だ。


通っている中学校も特に変わったものは無いし、どこにでもある風景だろう。

とびきりの美男子・美少女がいるわけでもなく、本当に毎日がのほほんと流れていく。


学校にて何時ものごとく午前の授業を終えて昼休憩中。

俺は、保育園に通っている時からの友人、磯貝桐哉いそがいきりやと共に教室でくつろいでいた。


眠そうな目にオシャレのオの字も無さそうな乱雑に切られて所々長さの違う髪。

特徴を聞かれれば顔の作りよりもまず黒縁メガネが思い浮かぶ…まぁどこにでも一人はいそうな男だ。

小学校低学年の頃までは「きーくん」なんて呼んでいたが、気付けば桐哉と名前を呼び捨てるようになっていた。


「はぁ…何か面白いこと無いかなぁ…」


退屈そうにそう言った桐哉が、何かネタは無いかと視線も合わせて訴えてくる。


「こんな田舎にそんなのあるわけないだろ?」


間髪入れずに俺がそう答えると、桐哉も「だよなぁ…」とつぶやいて机に突っ伏した。

ひったくりがあっただけで新聞の記事になるような田舎では、大した娯楽はない。

だが、すぐに顔を上げて何か思い出したような表情で俺を見てきた。


「ん?どした?」


気になった俺は一応桐哉に聞いてみた。


「いや、あったんだよこんな田舎に…」


「あったって…なにが?」


俺が聞くと桐哉はもったいつけるように笑みを浮かべると


「神隠しだよ」


と、少しだけ声のトーンを落として言った。


「神隠しって…あの人が突然消えたりって言うアレか?」


半信半疑ながら興味を惹かれた俺は桐哉に続きを促す。


「そうその神隠しだ。なんでも数年に一人この学校の近くで何の前触れも無く人が消えるらしいんだ」


いや…それ何情報だよ。


大きな事件の少ない片田舎では話の種も限られており、オーソドックスなもので話題のドラマやアーティスト、本、アニメなどの他にニュースで知った都市部や他国の事件の話しかない。


地元のネタとして長く語れるものというのはほとんど無い…

しかし、こういう時にたまに出てくるのが桐哉の言う「神隠し」、つまりオカルトの類だ。

学校の近くにある洞穴は昔防空壕だったとか、あそこの森には人骨が埋まっているだとか、誰々が幽霊、UFOを見ただとか、例を挙げれば際限の無いほどに出てくるどこかで聞いたような都市伝説…いや、この場合は田舎伝説とでも言うのか?


とにかく他の学校がどうかは知らないが、ここでは話題に困ったときにそういう類の話題が上がることが多かった。

さらに言えば、先ほど上がった話題の全て、とは言わないが、ほとんどが勘違いや誰かの創作だ。


「それに、居なくなった人間は絶対に見つからないらしい」


ダメ押しとばかりに、情報を付け足す桐哉だったが、


「…嘘くさい」


半眼で俺がそういうと、心外だと言わんばかりの表情で桐哉が詰め寄ってきた。


「いや、俺だってこの話知ったのつい最近だし信じてもなかったんだけどさ…」


やっぱり恒例のガセネタか…と内心ため息を吐いていると


「いたんだよ」


「居たって…何が?」


話の流れでだいたいわかっているのだが、思わず俺は聞き返していた。


「実際に居たんだよ…神隠しの犠牲者(・・・・・・・)


シン…と空気が静まった気がした。

もちろん静まってなどいないし、周囲の生徒は相変わらずそれぞれで雑談をしている。

なんかそういう雰囲気だったんだ…うん。


「犠牲者って…」


殺人事件じゃあるまいし…なんてツッコミは入れない。

俺の言葉に頷くと、まるで怪談でも語るかの如く雰囲気を作って喋りだす桐哉。

ほんとに、こういうノリが大好きだよなコイツ。


「俺の家の近所に少し大きめの家があるのは知ってるよな?」


確かにある。父親が銀行の…役職はよくわからないが、そこそこいいポジションにいる人らしく、いかにも裕福層な感じの家が建っている。


俺の同意を確認して桐哉は話を続ける。


「その家の一人息子ってのが頭いいし見た目もそこそこ良いからって、近所で結構噂されてて…」


「あぁそういや、よくその人と比較されて嫌になるって話してたよな」


その話をしているときの桐哉はまさに苦虫を噛み潰したような顔だったのを思い出して笑ってしまった。


「その話は今はどうでもいいんだよ」


不機嫌になった桐哉を見て苦笑しつつ、気を取り直して話の続きに耳を傾けた。


「…まぁその一人息子が大学入学を控えた一昨年の春に…消えたんだ唐突に」


そういえば一昨年、地元の新聞やニュースでそんな話が取り上げられてた…気がする。


「あれ?でもそれって勉強に疲れてノイローゼになったとか、親の期待が重すぎたための失踪…とか言われてなかったっけ?」


こんな片田舎で失踪事件なんてもんが起これば、それなりに大きく取り上げられるはずだ。

おかげで俺の記憶にも多少残っている…が、その程度だ。名前すら覚えていない。


「確かにそうなんだけどな、その人は大学入試に合格してたんだ。どうせ居なくなるなら入試を受けた後よりも受ける前の方が自然だよな?けど、その試験は受かってる精神的苦痛なんてもんは圧倒的に減ってたはずの時期なんだよ…変だと思わないか?」


そう言われてみれば確かにそんな気もしてくる。


「けどまぁ…心に余裕ができたからこその失踪なんじゃないか?」


「心に余裕があったからこそ?」


何だそれ…とでも言いたげな…いやそう思っているんだろう顔で桐哉が俺を見てくる。


「いやだから、必死で何かやってる間は考えなくてもいいことが、余裕ができた瞬間にいろいろ考え込んじゃって不安になるとか…そういうもんじゃないかって事だ」


「なるほどなぁ」と呆けた顔で言っている桐哉から視線を外して窓の外を見る。

神隠しなんてのはオカルトが好きな奴が興味本位で言っているだけで、突き詰めればきっとどうって事無い理由から起きてるもんなんだろうな…なんて思っていると


「でもなぁ…そんな必死にやってる感じじゃなかったんだよなぁ…」


そんな事を桐哉が独り言のように言っていた。

まぁ桐哉からどんな風に見えていようとどうでもいいし、失踪事件の真相なんてのも同じくだ。


未だに神隠しのことを考えているらしい桐哉は、眉根を寄せて一人悩んでいる。

そんな桐哉を放置して、俺は特に何かするでもなく、考えるでもなく残りわずかな昼休みをぼーっとして過ごした。


―――――


放課後になり時刻は夕方、のんびりと歩く一人の帰り道。

うっすらと赤く染まる夕焼け空を眺めていた。


自宅が山を削って作った団地の中にあるため、帰り道は必然長めの坂を登る事になる。

だんだんと高くなる視線に対して夕日はゆっくりと山々の陰に隠れていく。

毎日見ているものだが、俺はこの景色を見るのがキライじゃない。

ただぼーっと眺めながら歩くだけのこの時間は俺にとって気持ちのいい時間だった。


…ただちょっと山道はメンドクサイ。


そんなどうでもいい事を考えながら、長い間雨風にさらされてすっかり劣化してしまった道を歩いていると、後ろの方から車の走る音が聞こえてきた。


今俺が歩いているのは申し訳程度に舗装された山道で、道幅は狭い。

軽車両ならば通行人が居てもギリギリ通れる幅だが、普通車であれば無理だ。


おそらくあの車はこの先にある畑へ向かっているんだろう。


正直スローペースでジリジリ寄って来る車の前を歩きたくは無い。


(仕方ない…少し走るか…)


そう思って走り始めるが、そこで何か違和感を感じた。

不安になって、後ろを振り返ったところでその違和感の正体を理解した。


(なんでスピード落とさないんだよ!)


口で言うよりも早く体が危険を感じて全力で走り出す。

チラッと見えた運転席には首がカックンカックン揺れている爺さんの姿があった。

居眠り運転?


そんな考えが頭をよぎるも、足は必死に前へと進む。

しかし、車はガリガリと石の塀に車体を擦り付けながらどんどん近づいてきている。


結構大きな音が発生しているにも関わらず、車は減速されるどころかますます速度を増して迫ってくる。

必死に走るも車と中学生の脚力、比較にもならないそのスピード差は、その距離をあっという間に縮め「轢かれる!」と思った瞬間。



何かに吸い込まれるような感覚と共に俺の意識は闇へと落ちた。

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