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彼が悪魔と呼ばれた日  作者: 芳右
第一章 彼が異界へ渡った日
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017 自信喪失

この二年の間、必死になって頑張った。

弓の扱いも上達したし、多少なら度胸も付いた。

体力や腕力だって前とは比べるべくも無い。


強くなったと、思っていた。

多少の危険なら乗り切るだけの実力は付いたと思っていた。


それなのに…


「来るな!来るなよっ!!」


ハウントまでを食い殺した熊が向かって来るのを見て、俺は必死になって矢を放つが、全く歯が立たない。

あの巨体だ。当てることに苦労は無い。

しかし、当たっても硬い毛皮に阻まれて矢が刺さらないのだ。


逃げるにしても距離が近すぎる。

今背を向ければ一瞬で殺されるのは目に見えている。

だからと言って、このままここにいても結果は変わらない。


生き残るための手が思いつかない。

八方手詰まり…


矢を構えた俺に口内を攻撃されるのを嫌ったためか、俺の眼前で一度立ち止まると右の前足を振り上げる巨大熊。


それが振り下ろされるまで一秒あっただろうか。

頭上から迫ってくる熊の前足を見て、俺は生きることを諦めた。


ズンッと重たい音が辺りに響き渡り、体に強い衝撃。それに続いて痛みが走った。



…痛み?



何が起こったのか理解できないまま、目を開けた俺の視界がどんどん移動していく。


『グォォォォォォォォオォ!!!』


すぐ傍で今日何度目かの熊の咆哮が聞こえてくる。


混乱する中、漸く俺は誰かに抱えられている事に気付いた。

慌てて誰が助けてくれたのかと首を動かそうとして、


「邪魔だから今はジッとしてろ!!」


頭上からの聞き慣れた怒鳴り声に、思わず涙が出た。


「コンッ」


「黙ってろ!舌噛むぞ!」


…もう噛んだ。


いろんな意味で涙目になりながら、今度は邪魔にならないように目だけを動かして周囲を観察する。


どうやら村の外にある森に入ったらしい。

何故か熊も追ってきていないようだ。


だが、近くにいるのは間違いない。

少し離れた場所で破壊音が響いている。


しばらく走った後、立ち止まってゼーゼーと肩で息をしているコンコルダが、やっと俺を下ろしてくれた。


聞きたいこと、言いたいことは沢山あったが、上手く頭が回らず言葉がまとまらない。

ぐるぐると何を言うべきか俺が考えている間に、コンコルダの方は息も整ったらしく軽く汗をぬぐうとこちらを向いて言った。


「…ケンジ…無事でよかったな」


そんな一言で、完全に気が抜けてしまった。


「ぁ…ぁぁあぁ…うぅ…ぅぅうぅぅ」


ボロボロと目から涙が溢れてくる。

涙だけじゃなく、鼻水やら涎やらがダラダラとだらしなく顔を汚すが、全く制御できないほどに表情筋が言う事を聞いてくれない。


怖かった、悲しかった、悔しかった、情けなかった。

様々な思いが後から後から湧いてくる。


それをなだめる様にコンコルダが肩を叩いてくれたが、余計に涙が出てくるだけだった。


だが、俺が泣き止むのを待たず、コンコルダが話を切り出した。


「ケンジ…お前はこのままこの村を出ろ」


「ぅえ?」


泣いているせいで変な返事が出てしまうがそれどころではない。


「ここから町まで行くには時間がかかるだろうが、お前なら心配ない。村のことは俺に任せてお前は自分の家に帰るんだ」


言い終えて、お金の入った皮袋を俺に渡してくる。


「俺は戻ってあの化け物をどうにかしないとな。じゃぁ…元気でな」


そう言って走り去るコンコルダの背中を、俺は見ていることしかできなかった。


「皆を見捨てられるワケが無いじゃないか!」…そう言い返すことも出来た。

けれど、言えなかった。


エギルたちが殺されるのを、ただ見ていることしかできなかった俺が、なんの役に立つと言うのだろうか。

弓矢で傷一つ負わせることもできず、まともに逃げることさえできなかった俺が…


「…何でこんなに弱いんだ…チクショウ」


あれだけ泣いたのに、まだ涙が止まらない。

頭の中がぐちゃぐちゃで何も考えられない。


離れた場所ではコンコルダや他の大人たちが化け物と戦っているのだろう。

先ほどから再び怒号と熊の咆哮が聞こえてきている。


その場から動くことも出来ず、情けなく悩み続けた俺の耳に女性の悲鳴や子供の泣き声が聞こえ始めたとき、妙な焦燥感に駆られた。


あの村の中でも比較的安全なはずの地下牢…

あれはあの化け物の猛威から逃れられるほどのものなのか。


そもそも地下牢の出入り口はあの一箇所しかない。

もし直接襲われていなかったとしても、あの巨体で暴れられて天井が崩れたりしたら逃げ場は無い。


今襲われているのは、俺が避難させた子供たちじゃないのか?


考えてしまった。

違うかもしれない、けど無いわけじゃない。


まるで夢遊病者のような足取りでフラフラと村のほうへと足が向く。


行って何ができる?いや…様子を見るだけだ。

様子を見て、もし襲われていたらどうする?

助けるのか?俺に…助けられるのか?


繰り返される自問自答、その答えが出ないまま、ついに村に着いてしまった。

今回短くて申し訳ありません…執筆に苦戦中です。


一応三日に一度の更新で頑張っていますが、仕事などの関係上次回更新は遅れるかもしれません。

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