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彼が悪魔と呼ばれた日  作者: 芳右
第一章 彼が異界へ渡った日
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014 質問

ドルメスさんの話をするために広場へ移動すると、ドルメスさんとコンコルダが何やら話をしている所だった。

他に村の人はいないようなので、買取は終わったと思っていいだろう。


空も赤く染まり始めているので、話をするなら明日改めようかとも思っていたのだが…


「おう!ケンジ丁度良かった。今日はドルメスさんが家に泊まることになったからな」


「そう言う事ですので、一晩お世話になります」


「え?あ…はぁ」


一瞬呆けてしまったが、考えてみれば特に悪いことではない。

むしろこちらとしては好都合なので、全く異論は無い。


しばらく買い取った物品の整理などを手伝った後、馬車を引いて移動する。

間もなくコンコルダの家に到着し、馬車を移動させてから、家で夕食の準備にとりかかる。


夕食は無難にステーキにしてドルメスさんを持て成した。

そうして俺にとっての本題である会話の時間がやってきた。


「あの…例の約束の件なんですが…」


「約束?」


俺が言ったことにコンコルダが疑問の声を上げた。

何だ…事情を知っててドルメスさんを招待したわけじゃなかったのか。


「あぁ、私の話を聞きたいとの事でしたね。とは言え何をお話ししましょうか?」


「えと…いろいろ伺いたいので、質問に答えてもらうような形でもいいですか?」


「そうですね。ではそうしましょう」


そう言って笑顔で返してくれるドルメスさんに心底感謝しながら、俺は疑問に思ったことをドルメスさんに質問していく。コンコルダはその様子を黙って聞いている事にしたようで、椅子に腰掛けたまま静かにカップのお茶を飲んでいる。


「では早速なんですが、ドルメスさんは日本という国をご存知ありませんか?」


「ふむ、ニホン…ですか」


「…そうだ、他にもジャパンという呼び方もあります。それに似た名称の国でもいいんですが…」


俺の本題というのはコレだ。商人であるドルメスさんならば様々な場所を巡っているはずだ。

もし巡っていないとしても、情報は集めているはずなので他の人に比べて他国などの知識も豊富だ…と思う。


「…申し訳ありません。私が知っている場所の中にはそのような名前の国はありませんね…その国がどうかされましたか?」


「あ…いえ、その…」


ドルメスさんでも知らないというショックで、言葉が上手く出てこない。


「あぁニホンというのはケンジの故郷の国の名前らしくて、そこへ帰る方法を探してるんですよ」


俺が動揺しているのを見て取ったのか、コンコルダがフォローしてくれた。


「なるほど、そういうことでしたか。それはお役に立てず申し訳ない」


「い、いや、ドルメスさんは何も悪くないです。俺のほうこそ、失礼な態度をとってすみません」


本当に申し訳なさそうに謝るドルメスさんに、俺も慌てて謝った。

そうだドルメスさんは全然悪くない、話を聞いて勝手に落ち込んでいた俺が悪いんだから。


そんなやりとりをしていると、唐突にドルメスさんが何か考えるような仕草をした後、改めてこちらを見据え、口を開いた。


「…すみません、少し疑問に思ったのですが、そもそもケンジくんは…そのニホンという国からどうやってココへ?」


ドルメスさんが口にしたのは、至極当然の質問だった。

だが、その質問の明確な答えは俺もわからない。

特に隠す必要も無いので、正直にソレを話すことにしよう。


「…それなんですが、俺にもよくわからないんです」


「わからない?」


「はい、信じてもらえないかもしれませんが、気がついたら森の中に居て、そこから二日ほど歩いた場所にこの村があったんです」


自分でも荒唐無稽なことを言っている自覚はあるが、それが本当なのだから手に負えない。

俺の言葉を聞いたドルメスさんも何やら考え込んでいる。


そんな時、コンコルダが何か思い出したように口を開いた。


「そういえば、最初の頃にニホンやジャパン以外にも何か聞こうとしてたことがあったよな?…えーと確か…カミキャクシ…だったか?あれだけは未だに意味がわからんな。人消える、居なくなるってずっと繰り返すもんだから、怖いのなんのって」


ハハハ…と苦笑いするコンコルダ。

場を和ませるために言った事なのだろうが、そういった意味ならばチョイスを間違っている。

けど、おかげでまだ聞くことがあった事に気付いた。


「そうだ、神隠し…は知らないとしても、突然何の前触れも無く人が消えた、もしくは居なくなった事件などに心当たりはありませんか?」


「それは…もちろんそういった事件ならありますが…」


「ほんとですか?!」


「…ええ、ですが、それは飽くまで人攫いや個人の意思による失踪などだと思いますが…ケンジくんと何か関係が?もしや誰かに攫われてここに?」


「え…いや、違います…たぶん」


どんどん言葉尻が小さくなっていくのを感じながら、漸く頭が冷めてくる。

考えてみれば、人が突然居なくなる原因は『神隠し』では無く、何か事件に巻き込まれたか、自分の意思で姿を隠したと思われるのが当然だ。

その情報を調べたからと言って俺が帰る手がかりになるとは思えない。


いや、待てよ?


「あ、あの…消えたり…とかではなく…突然人が現れたってのは…ありませんか?」


「突然人が現れる…ですか」


ドルメスさんは先ほどと同じように何か考えると、今度は何か思い当たるものがあったらしく、すぐに顔を上げた。


「それならば、大陸の北にあるフェムルという国で似たような話を聞いたことがありますね」


「あっ…あの、詳しく聞かせて貰ってもいいですか!」


思わず身を乗り出して聞く俺に驚きながらも、ドルメスさんは落ち着いた様子で頷いてくれた。


ドルメスさんの話では、ここから遠く離れたフェムルという国で召喚の儀式なるものが行われているらしい。

その儀式が成功したとき、神の子が召喚されてフェムルに繁栄をもたらす…という事らしいのだが、そんな話と俺がこの土地に連れてこられた事に関係があるのだろうか?


いや、実際に俺自身の現状を鑑みれば完全に無いとは言い切れない。

その召喚と言うのが、他の土地から人を呼び寄せる、攫って来るということなら何か関連があるのかもしれない。


他にもフェムルには不可思議な力を使う者…ゲームや御伽噺(おとぎばなし)で言う魔法使いのような人間がいるらしいのだが、それに関してはよくわからない。

派手な手品師なのか、はたまた占い師的な何かなのか…


とにかく、ここに来て初めて帰還の手がかりらしい手がかりを手に入れることができた。

情報を集めるならば、まずはそのフェムルという国を目指すのがいいだろう。


そのためにはやはり身を守るための術とお金が必要だ。

それと、フェムルでは使う言語がこことは違うらしいので、新たにそちらの言葉も勉強しなければならない。


幸いドルメスさんが少しだけそちらの言葉がわかるらしいので、教えてもらえるようお願いしたところ…


「え?わざわざ覚えるのですか?」


と、変な顔で聞き返された。

いやいや、覚えないと情報集められないじゃないですか…


俺とドルメスさんの会話の間に多少ズレを感じるが…まぁ教えてもらう側なのだから余り強くはいえない部分でもあるので、そこは丁寧にお願いすることで何とか了承を得た。


そうしてある程度話を聞き終え、ドルメスさんにお礼を言ってその日は解散となった。


翌日は予定通り商品の販売を行い、その次の朝ドルメスさんが村を去った。


ドルメスさんの滞在中にフェムルの基本的な挨拶だけを教わり、あとは次回以降の訪問時に教えてもらう約束だ。

教わるにもタダでは良くないと思い授業料を支払う事に決めた。

フェムルに向かうための路銀も稼がないといけないので、特訓も兼ねて森で狩りをしよう。



こうして俺は、村を出る準備に取り掛かったのだった。

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