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彼が悪魔と呼ばれた日  作者: 芳右
第一章 彼が異界へ渡った日
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Another Side CONCORDA

という訳で、今回はタイトル通りコンコルダ視点での外伝的なものですね。


今回語られるのは賢治君が野犬から助けられ、目を覚ますところまでの経過を綴ったものです。

ポワトルテ領南端に位置するバラフ村。

そこに俺は生まれたときから住んでいる。


何も無い村。

それがこの村に対する俺の認識だ。


畑を耕し、野菜や果物を育て、動物を狩り…一月毎にやってくる商人に作物と動物の肉や皮を売って金に換え、その金で村では手に入らない服などの雑貨を買う。


そうしてまた畑仕事や狩りをする。

その繰り返しだ。


低い山の頂上付近にあるこの村は、四方を森に囲まれており、動物も多く生息するため村のほとんどの男たちが狩りをすることで生計を立てていた。


俺の家は親父の代から猟師と門番を兼任している。

村に入るための門の内側すぐ横に俺の家が建っているのもそのためだ。


昼間はこんな僻地まで来るやつはいないため森で狩りを行い、夜は門に近づく獣が居れば狩る。

まぁよほど大きな獣でない限り門がどうこうなることは無いので、ほとんど夜に活動することはなかった。



そんなある日の夜。

俺がいつものように翌日の狩りの準備をしていると、遠くから野犬の鳴き声が複数聞こえてきた。


それ自体はよくあることなのだが、何だかいつもと様子が違う。

鳴き声はどんどん近づいてきているようで、ハッキリと聞こえるようになるまでそう時間はかからなかった。


何かを追っている。

その考えに至った俺は、様子を見るため階段を登り、屋根に上って門の外を見るが月が雲に隠れているせいで暗くてほとんど何も見えない。


目を凝らしていると、闇に目が慣れて少しずつ何かが見えるようになった。


野犬に追われているのは人、背も低くおそらくまだ子供だ。

足も怪我しているようで、走り方がぎこちない。


「なんであんな子供がこんなところに…」


疑問を抱きつつも俺は、急いで子供を助けるべく門へと向かった。

弓と獲物を解体するためのナイフを持ち、家の外へ出ると、門の周囲に住んでいる他の村の連中も異変を感じたらしく不安そうな顔で門の外を見ていた。


「子供が襲われてる!助けに行くが、誰か手伝ってくれる奴はいないか!」


俺は大きめの声でそう言ったが、誰も前に出る奴はいなかった。

臆病者め!…


内心悪態を吐きながらも、口に出すことはしなかった。

あれくらいの数の野犬などどうにでもなるが、子供を助けるとなると勝手が違う。


不安はあるが、時間に余裕が無い以上一人でやるしかない。


そう思い、門に手をかけようとしたところで…


「アケテー!!」


…聞いたことも無い言葉が外から響いてきた。


門を開こうとかんぬきに手をかけていた俺も含め、一瞬ビクッと硬直してしまった。

その間に例の子供らしき人物が門のすぐ外に到着したらしく、


ドンッ


と、体当たりしたような音が響いた。

それと同時に再び、先ほどと同じ言葉が繰り返されたが、未知の恐怖に対してすぐに動けるものはいなかった。


しかし、俺はすぐに気を取り直し、先ほどの光景を思い出す。

足に怪我をして必死に走る子供の姿。

そして、未知の言葉の中に感じた必死さ。


改めて、閂を外そうと手に力を込めたが、


「やめろ」


腕を捕まれた事で、中断されてしまった。


「やめろって…子供が外で野犬に襲われてるんだぞ!」


そう訴えたが、


「…それは本当に子供だったのか?」


そう言われて、二の句が次げなくなる。


「あの声…お前も聞こえるだろ?聞いたこともねぇ言葉だ」


そう言って、門のほうへ視線を向ける。


「だが…」


と俺がなんとか反論しようと声を出しかけた時


「…カラ!!アゲッ…デッゲホッゲホッ…」


ついに声が出なくなったのか、苦しそうに咳き込み始めたのを聞いて、押さえが利かなくなった俺は、腕を掴んでいた男の手を振り払った。


驚いた表情の男を無視して急いで自宅へと戻り、暖炉にくべてあった薪を掴めるだけ掴むと、屋根の上へ再び上がり、門の外で吠え続ける野犬に向かって投げつけた。


火を警戒した犬が門から距離を取ったのを見て、すかさず弓に矢をつがえると狙いを定めて放つ。

当たらなくてもいい、ただ追い払えればいいのだから。


数度、矢を放ったところで野犬は森の中に消えていった。

それを確認して、再び門へ戻ると、有無を言わさず閂を引き抜き門を開けた。


後ろで「おい!やめろ!」と聞こえてくるが知ったことではない。


門の外で血と泥に汚れて倒れている子供を見つけ、すぐに駆け寄って生きているかどうか確認する。


良かった…まだ生きてる。


子供は黒い髪に見たことの無い黒い服を着ていた、ところどころ破れたり汚れたりしているが、俺が着ているものとは比べ物にならないほどいい物だというのは素人目でもわかった。


気を失っても手放すことなく持っている変わった形の鞄も、相当いいものだ。

どこかの富豪の子息か何かが途中で山賊にでも襲われたか?


とりあえず治療をしなければ、このまま放っておくのはマズイ。

そう思い、子供を抱き上げて家に運ぼうとする俺に再び「待った」がかかった。


「なんだ?早く治療してやらないと…」


イラついた俺の声に、若干怯えている男の後ろから、村長がこちらに向かって歩いてきた。


「…話はだいたい皆から聞いた。コンコルダ、その子供は念のため地下牢に入れておこう」


「そんな!まだ子供だぞ?身なりだっていいし、どっかの富豪の息子とかなら問題になるかもしれん!」


声を荒げてまくし立てる俺に、村長はため息をついて、


「落ち着け、だから念のためと言っとるだろう?話を聞いて問題無ければ親元へ返す手助けなり何なりしてやればよい。身元がはっきりするまでは申し訳ないが村の安全のため牢に入ってもらおう…とそういう訳じゃ」


村長の言に納得したわけではなかったが、今は問答する時間も惜しい。

渋々俺は頷いた。


「よし、ではコンコルダ。頼むぞ…あぁそうじゃ、子供の持ち物は服も含めてこちらで預かるから後で持ってくるように。親の事がなんぞわかるかもしれんからな」


そう言って村長を含めた他の連中はそれぞれの家へと帰っていった。

ギリッと歯を食いしばりながら今度こそ自宅へと子供を運び、様子を見る。

厚手で丈夫な布が使用されていたらしく、野犬に噛み付かれた割にはそこまで深く食い込んではいないようだった。

一応の治療を終え、服を着替えさせようとするが、この家には子供服というものが無い。


仕方なく、古くなった自分の服を適当に切って合わせてやり、それを変わりに着せる。

その後、一晩は様子を見るため自宅で寝かせ、翌朝早くに地下牢へと子供を運んだ。


―――――


昼を過ぎた頃、言われた通り村長の家へ子供の持ち物を持って行っていくと、ついでのように子供の世話を命じられた。


助けたのが俺なのだから、世話をするのは構わない。

しかし、あぁも投げやりに命令されると腹が立つのは仕方ないことだと思う。



イライラした気持ちのまま、子供の様子を見に行ってみると、どうやら既に目が覚めているようでキョロキョロと辺りを見回していた。


すぐに俺の存在に気付き、少し驚いたような顔をしたが特に何か喋る様子は無い。

警戒されているのだろうか?


どう接していいかわからず、小さくため息を吐いた後、


「お前は、どこから来たんだ?」


「…ハ?」


…俺の言葉を聞いた瞬間、唖然とした表情になった子供。

そういえば、門の前で叫んでいる時も知らない言葉を使っていたな。


イライラしていたせいで失念していた。

頭を掻いて、恥ずかしさを誤魔化しつつ、改めて『共通言語まりょくげんご』を使用して、


「…お前は、どこからきたのか?と聞いたんだ…」


と、問いかけた。

しかし、問いかけた相手は少し考えるような素振りをした後


「アッアイム ドントスピークイングリッシュ」


と全く訳のわからない言葉を発すると、不安そうにこちらを見てくるのみでそれ以上何も言おうとしない。


「…アッアイム?」


一度、相手の言葉を繰り返そうとしたが、長くて覚え切れなかった。

更に言えば、そんな長い国の名前は聞いたことが無い…というかそれは国か?


どういうことだ?『共通言語』が通じていない?

そんなはずは無い。


なぜなら共通言語は、自身の伝えたい意思を魔力に乗せて直接相手に伝える方法だ。

扱う言語が違っても、俺がどういう事を伝えたいかを相手も大まかに理解する程度はできるはずなのだ。

許容魔力の少ない俺が使用すると、どうしても伝えられる意思は極単純なものになってしまうが、今回に関してはその「極単純な質問」の範疇に収まるものだ。


しかし、子供の様子を見る限り、俺の考えは全く伝わっていないように見える。

それどころか、余計に混乱しているようだ。


しばらく理由を考えてみるが、全くわからない。

これ以上ここで悩んでも、相手を混乱させるばかりになってしまうだろうし、ここは一旦引き上げることにしよう。


俺は一度大きく息を吐き出した後、伝わらないとわかりつつ後で飯を持ってくる事と、少し休んで置くように言うと、その場を後にした。



一度家に戻った俺は、常備している薬草でスープを作り、再び地下牢へと向かった。


すると、牢の方から声が聞こえてきた。

あの牢は今までほとんど使用されることなく、使ったとしても反省部屋という意味合いの場所だ。

そして今、あそこにいるのはあの子供しかいない。


どうしたのかと心配に思い地下牢への階段を下りていくと、幼子のように蹲って泣いている姿が目に入ってきた。


その姿はどうにも悲痛で、見ていて辛いものがあった。

慰めの言葉のひとつでもかけてやりたいが、言葉は通じない。

だが、このまま放っておくというのもできそうになかった。


俺は意を決して、「おぃ」と子供に声をかけると、ビクッと体を震わせて恐る恐るという風に顔を上げた。

その顔は涙や鼻水でぐちゃぐちゃになっている。


どうしたものかと俺が困っていると、俺が持っているスープに気付いたのか、そこで視線を固定して


ぐぅ~…


と、ひどく間抜けな音が牢の中に響き渡った。


「…ブッ!!フフ…アッハッハッハッハッハッハ!」


真剣に悩んでいたところで、思わぬ精神的不意打ちを食らった俺は、思わず噴出してしまった。

そして、笑いながら思う。


俺はこの子供を、心のどこかで警戒していたんだろう。

口では何と言おうと、俺にも不安はあったのだ。だから、相対すれば緊張もするし、対応も必然固いものになってしまう。


だが、コイツは見た目通り子供だ。

怖い事があれば無様でも必死で逃げるし、不安であれば泣き喚く。

腹が減れば腹も鳴る…と言うのは大人も子供も関係ないが…とにかく言葉は違えど同じ人間だ。


コイツがこの村に来て俺が助けることになったのも何かの縁。

少なくともコイツがこの村を出るまでは俺がしっかり世話をしてやろう。



俺は内から込み上げる笑いを抑えることはせず、盛大に笑いながらそんな事を思うのだった。

結構長くなってしまいましたが、外伝を引っ張るのもどうかと思い一話にまとめてしまいました。


「分割した方がいいよー」という意見があれば、そうしたいと思います。

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