プロローグ
はじめまして、芳右と申します。
この小説は初の投稿作品ですので、拙く、読みにくい部分があると思います。
少しずつでも、良い作品にしていきたいと考えておりますので、よろしければお付き合いください。
「大人になったら正義の味方になる」
…なんて今では両手で顔を覆いたくなるような無邪気な夢を語っている時期があった。
けど、それは分別のつく年齢になれば幻想だと悟る。
いや…「悟る」なんてたいそうなものじゃない。
単純に「正義」を名乗るのが恥ずかしく感じてしまう。
こうする事が正しい、あのような事は間違っている。
自分の中にある「正しいこと」を素直に行うことができなくなる。
それは、自分の考えている「正しいこと」が本当に正しいのかわからなくなるから。
自分以外の人間から否定される事が怖いから。
だから人は他人と違う「常識」を持たないように必死に合わせようとする。
悪いことではないかもしれない、けれど良いことでもないだろう。
ほとんどの人間はそれが当然になってしまう。
周囲と違う行動をしたくないから、すれば逸れてしまうから…
―――
時刻は草木も眠る丑三つ時。
本来ならば多くの人々が眠っている時間に騒々しく森を松明片手に駆け巡る男たち。
それらから逃げるようにフラフラとした足取りながら必死に駆ける黒い人影。
長く伸びた頭髪は、しばらく手入れがされていないらしくボサボサで人相もわからない。
着ている衣服もボロボロで、ところどころ破れている箇所からは切り傷や擦り傷が覗いて見える。
「…!…!」
少し離れた後方から唐突に響いた男性の声…
人影は驚いた拍子にバランスを崩し、倒れてしまった。
「…っつぅ…」
痛みを堪えて立ち上がろうとする人影だが、その間にも大勢の男たちがこちらに駆けてくる。
相当疲労していた体に鞭打って立ち上がるも、既に人影は十数人に囲まれていた。
人影の周囲を取り囲んだ男たちは、農村で畑仕事でもしていそうな格好をしている者ばかりだった。
その手には鍬や鉈、農耕用のフォークなど武器と言い難いものがほとんどで、武器らしい武器と言えばナイフくらいだろう。
それでもこれだけの人数に囲まれていれば、相当の恐怖である。
男たちが持つ松明の明かりで人影の姿を照らし出す。
その瞬間、取り囲んだ男たちの中の数名が「うっ」と口元を押さえて嫌悪感を露にした表情で人影を見る。
人影の容姿は…一言で言えば「異常」だった。
右肩、左の肋骨、肩甲骨、恥骨の一部が突出して盛り上がっており、他の手足に比べて左腕だけが異常に長い、非常にバランスの悪い体。
黒色インクがそのまま皮膚に染み込んでしまったかのような真黒の体。
そして、なにより目を引くのはギョロリと半分ほど飛び出した目玉に妖しく光る真っ赤な瞳だった。
「…」
異形の男を囲む男たちの一人がどこの国の言葉かもわからない言葉で何か言い放つと、腰に刺してあった大き目のナイフを抜いた。
それに倣うように他の男たちも各々の武器を握り締める。
「ま、待って…話を…そうだ話を聞いてくれ」
弱々しく男たちに訴えかける異形の男。
その声に反応して男たちは異形の男が喋ったことに驚いたような顔をする。
それを不思議に思いながらも、ここぞとばかりに異形の男は叫ぶ。
「お、俺もあんたたちと同じ人間なんだ!今はこんな姿だけど…けど!ほん…」
「…!」
異形の男の声を遮るように、大柄な男が大声で何かを言うとザワザワとしていた他の男たちも次々に声を上げ異形の男を威嚇する。
「そ…んな…」
表情こそわかりにくいが、愕然とした…そんな声で異形の男は呟いた。
そんな異形の男を鋭く睨み付けながら慎重にジリジリと輪を縮めるように近寄ってくる武装した男たち。
「なんで…なんで…」
異形の男が頭を抱え俯き、何度も「なんで」と繰り返し呟く。
そこで彼の周囲にわずかな変化がおきた。
耳を澄まさなければ気付かない程度ではあるが、異形の男を中心に「パチッパチッ」と静電気が発生した時のような小さな破裂音。
最初は数秒に一回鳴る程度だった音は、徐々にその感覚が短くなり、男たちが異形の男の息の根を止めるべく武器を振りかぶった瞬間。
バチッ…
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
異形の男の悲痛な叫び声と共にそこにいた全ての者の視界が真っ白に染まる。
白い光は一瞬で全てを飲み込み、少し遅れて凄まじい爆発音が周囲に響き渡った。
光が消え、次に映ったのは無残に抉られ焼け爛れたような大地だけだった。