出会い
それでは聴いていただこう、赤鎧の戦士の物語を。
とある山間の村に、三人の騎士とその郎党が住んでいた。
この国の騎士とは貴族であり、三人は村でいばり放題、好き放題。あまり勝手が過ぎるので、とうとう村を追い出された。村人達の反乱である。
反乱の指導者は、赤く輝く鎧をまとった大男。そして彼の友人、痩せた魔術師が参謀だった。
平穏を手にした村人達は、赤鎧の戦士の勇猛を称えた。
ちょうど村に居合わせたのが、旅から旅の吟遊詩人。魔法の心得が大いにあるというので、赤鎧の戦士と魔術師が訪ねてきた。
騎士の役目は、村を魔物から守ること。彼らがいなくなった今、戦いに秀でた仲間が欲しい。
「しかし」
と吟遊詩人は言う。
「あなた方は、信頼のできない騎士達を追い払った。ところで、わたしは連中よりもなお、性根の曲がった人間かもしれぬ。よそ者のわたしを、どうして信頼できるのです」
「目だ」
と赤鎧の戦士は言う。
「目を見れば、その人の性根はおおよそ分かる」
「そしてぼくは、そういうこいつの目を信頼しているのです」
と、痩せた魔術師は付け加えた。周囲にいた人々が、笑いながら頷く。吟遊詩人には、戦士が皆に慕われていることが分かった。
もっと詳しい話をするために、詩人は戦士の家に呼ばれた。家には二十五、六と見える女と、十歳くらいの女の子がいた。
「奥さんと娘さん?」と吟遊詩人。
「違う」と赤鎧の戦士。
「妹と姪か」と吟遊詩人。
「違う。住まわせているだけだ」と赤鎧の戦士。「それと、彼女はおれより年上だ」
戦士と魔術師がちょっと席を外した時、女は詩人にわけを話した。
「十年前、わたしは騎士のひとりに強姦され、この子を産んだのです。そして、この子と共に辛い思いをしているところを、旦那様に助けられ、以来、こうして守っていただいているのです」
驚く詩人に、女はさらに言う。
「今ではすっかり、旦那様をお慕いしているのですが、いくら想いを伝えても、決して抱いてはくださいません」
「ふうん、あなたの美貌に不足はないと思うのだが」
「弱みに付け込むようなまねはすまいと、お考えなのかもしれません」
「なるほど、高潔な男だ。気に入ったぞ」
詩人がすっかり村のために働く気になっていたので、戻ってきた戦士と魔術師は驚いた。
詩人は戦士の、赤く光を放つ鎧を見せてもらった。魔術師が友人のために、魔法をかけた鎧である。
「これは強力な守りの術だ。しかし、術式に無駄がある。だから意味もなく光るのだ。わたしがちょっと、調整してやろう」
「それはありがたい」
と魔術師は喜んだ。
しかし、戦士は首を横に振った。
「ありがたい申し出だが、おれはこれが気に入っているのだ」
このようなわけで、戦士の鎧は相変わらず光を放っていた。
村の周辺には、時おり魔物が現れた。しかしいつも、赤鎧の戦士に率いられた若者達が勇敢に戦い、追い払った。痩せた魔術師と吟遊詩人も、力の限り援護した。
そもそも魔術師は、騎士達がいなくても村は守れると考えていた。そこで、戦士の提案した騎士達への反乱に協力したのだった。
詩人は平穏な村で、英雄達の伝説を人々に語りながら、楽しく暮らした。
ところが、どうした巡り合わせだろうか。
その年の初冬、山の向こうから魔物の大群がやってきた。