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白狐浪漫譚  作者: むらくも。
儚き幻想の中で―偽りのセカイ―
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其ノ玖




「どんな感じ?」

「駄目だ。あの状態になってから全く動かない、微動だにしていない」

「凄い集中力だね。かなり時間が経過しているけど集中力が途切れている様子が見られない・・・流石はあの御方の子、なのかな?」

「信じられないがな。日本を創った天地開闢を起こした神の一柱、それも伊邪那岐様と伊邪那美様と唯一の理解者で御二方を支えた神の子だなんて。波乱が起きるのも無理はない。天照大神様のいらっしゃる神社を襲撃してあまつさえ、秘宝の八尺瓊勾玉まで盗むんだからね・・・はぁ」



 二日後、俺は未だに守谷神社に世話になっていた。

 諏訪大社から守谷神社に変わったのはあの巫女から聞いた。どうやらタケミナカタが神力を得るために対象を誤魔化しているそうだ。

 祟神洩矢神、戦神タケミナカタの二柱がこの守谷神社におり、かなり繁盛しているとも巫女から嫌というほど聞かされた。


 そんな中、彼女等の声を馬の耳に念仏とばかりに聞き流しながら目を閉じた状態で座禅を維持する。

 簡単に言えば、自分の体の状態と呪いの状況を調べるためだ。

 幸い、二柱の神達から場所を借りれたので神社の誰も入れない、一部の者しか入れない場所でそれを確かめる事ができた。



「(・・・複雑だな。これは幻術と封印術式が混ざり合ったような歪な『呪い』だ・・・他にも小さな枷がたくさんある。これでは解除すらどれほど掛かるか・・・それよりも解除できそうにないなこれは。複雑すぎて今の俺では解読できん)

 クソッ・・・」

「何か舌打ちしてんぞ」

「かなり厄介みたいだね」



 結果、かなり厄介だとわかって舌打ちをしてしまう。

 長くなった髪の毛をバリバリと掻いて後ろに倒れこんで寝転んだ。



「どうしたの? 何かわかったの?」

「ああ、わかった・・・とんでもない呪いだって事がな」



 髪の毛で顔の半分が隠れて洩矢神の顔が少ししか見えなかったが、表情が少し笑っているのはすぐにわかった。

 畳の感覚を背中に感じながら俺は一言、二言と言葉を交わす。

 暫く話していると、誰かが・・・というか巫女が手にお茶を持って部屋に入ってきた。

 この部屋には洩矢神こと洩矢諏訪子、タケミナカタこと八坂神奈子、それに仕える風祝の巫女こと東風谷苗のみが入る事を許されている。

 まあ・・・俺が入れているのは高天原にいるであろう母上の子だからという理由だろう。



「失礼します」

「あ、苗。お茶ありがとね~・・・で、これからどうするの?」

「大まかな呪いの詳細はわかった。いつまでも世話になるわけにもいかんからここを出ていこうと思う」

「えー! まだいいじゃないですか! それよりも一緒に居ましょう琥珀様!」

「苗に賛成。ここに居てもいいんだよ? できたらその尻尾をモフモフさせて!」

「諏訪子、それが本音だろう・・・そして苗! 私はこんな奴と付き合うのは反対だと言っているだろう! お前にはもっといい相手がな!」



 まただよ。とげんなりした。ここに居ると、このような場面がよく見られる。

 巫女が俺にアピールすると、タケミナカタが俺みたいな奴と付き合うのはよせと言い、洩矢神が笑って眺めるかうちの娘はどう?と催促してくる。

 だけど俺はそういったのは苦手だ。というより、その状況に慣れてないと言った方がいいか?


 あの日から、氷河期の前もあまり人と付き合わなかった。

 俺と母上は人間の敵、妖怪だから付き合うほうがおかしいだろうけどな。

 だからこそ、前世は人間だった俺でも人との接し方がわからなくなって今の状況になった。

 母上のいる高天原への手掛かりを探して旅をしている時も同じような、人との接し方がわからなくてよく揉め事を起こしていた。

 詰まるところ、この三人とどう話したらいいかがわからないということだ。



「(・・・呪い、これはどうすればいいだ)」

「ですから! 私が誰と付き合ってもいいでしょう神奈子様! 諏訪子様は応援してくださるのに、神奈子様は酷いです!」

「うっぐ・・・だがな! こいつとお前の間には種族の違いがあって何れはこいつを置いてお前は死ぬんだぞ!?」

「それでも! 限られた時間だからこそ不変の愛を築けるんです!」

「・・・? ああ、すまん。ちょっといいか?」



 少し気になる、忘れてしまったこの感情について聞きたくなった。



「不変の愛って・・・なんだ? そもそも、愛って何なんだ?」



 え?と顔をする巫女、絶句する神。

 むしろ知ってる方がおかしいと思うんだが。俺が母上に向けるのも愛なのだが、異性に向ける愛情はよくわからん。

 チラリと見れば、タケミナカタと洩矢神が深刻そうな顔をしている。反対に、巫女は真剣な顔をして・・・心を覗くのをやめときゃよかった。

 無垢なら私色に・・・うふふふふ。とか考えていやがる!



「琥珀」

「あん? どうしたんだそんな深刻そうな顔をして」

「今から君はこの守矢神社にいてもらうよ。反論は受け付けない。神奈子もそれには賛成しているから」

「・・・はぁ?」

「諏訪子様!」



 洩矢神に抱きついた巫女。背の高さが違うから母親が娘に抱きついたようにしか見えん。本当は反対なのにな。

 だけどまた急に何故? 洩矢神は受け入れると言っていたが、タケミナカタは断固として反対していたはずなんだが・・・?



「・・・折角の提案はありがたいが、断らせてもらう。俺は旅を続ける、母上に謝るために高天原を目指すつもりだ」

「駄目だ。それは許さない、許すわけにはいかない」

「何故だ。お前は反対していただろうタケミナカタ? 急に意見を変えるなんて何かを企んでるとしか思えないぞ」

「そう思うなら思ってもらっても結構。だが、お前をまだ外に出すわけにはいかないのでな。事情が変わったと納得しろ」



 ・・・怪しいな。読心術で覗いてみるか。

 覗くこうと目をタケミナカタに向けて集中する。いつものように神通力で感情が頭に浮かんでくるはずなのだが・・・。



「(!? 馬鹿な! 何故見えない? この二人の実力を大きく超えているはずなのに全く見えない!)」

「今、心を覗こうとしたね?」

「!」

「わかるもんだね。お前は迷っているだろう? その心に隙が出ているからか、得意ではない神通力で覗けているぞ・・・心配はするな。衣食住はこちらで世話をする。代わりに私や諏訪子の話し相手になってくれればいい。たまに少し仕事を手伝ってもらうがな」



 タケミナカタが何かを話しているが、俺はそれどころではなかった。

 なんで・・・心が覗けない? 母上にも一級品と褒めてくれた読心術だ。見えないのはおかしすぎる。

 まさか・・・これも呪いの一部なのか? だが、そんなものは・・・。



「・・・あの時・・・ガキめ、あの時に俺の能力までも封印しやがったのか!!」



 思わず叫んだ。巫女がビクッと驚くが、構わずに畳に拳を叩きつけて悔しさを隠さなかった。

 眠りから覚める前に見たあの雪の景色の最後に感じた違和感、あれは呪いだけではなくて神通力の劣化までもをしたのか。

 クソ! 俺が知れたのは一部だけか! 全体には及ばないほんの一部の呪いの詳細だけが!



「・・・はぁ。兎に角、今日からお前はここの居候だ。先程も言ったが、反論は受け付けないからな」

「ふざけるな。俺はお前等の世話にはならん」

「わかっていないね。今のお前では旅をする以前に戦う力すらないだろう。神力や膨大な妖力を持つお前はたちまち外に蔓延る妖怪達の標的にされるぞ」

「ぐっ・・・」



 言葉に詰まっていると、洩矢神が小さな手で俺の手を握って笑いかけてきた。



「大丈夫だって。ここにいれば私達が君を守ってあげられるし。ね? 改めてだけど、私は洩矢諏訪子。よろしくね!」

「八坂神奈子。あまり迷惑はかけないでおくれよ」

「あっ、わ、私は御二方に仕える守谷神社の風祝の巫女、東風谷苗と申します。よろしくお願いいたします!」



 畜生。これじゃあ完全に世話になるしかないじゃないか。

 ・・・だが、悔しいがタケミナカタの言う通りに今の俺では神どころか上位の妖怪に勝てるかもわからんくらい力が弱まっている。

 仕方がない。折角のお誘いだ。引き受けて力の回復を待とう。


 ハァと溜め息をつくと、手を握る洩矢神、柱に背を預けるタケミナカタ、正座する巫女を見る。

 きちっと正座をすると、自分の頭を下げる。三人が驚いているような気がした。



「御代琥珀、今日よりお世話になります」



 こうして俺は守矢神社の居候となった。





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