其ノ捌
一週間に一回、予約投稿します。
意味わからない場所がありますが、後ほどに全て明かしますので其処ら辺の苦情は明かされた後でお願いします。
なお、私事ですがツイッターを始めました。途中経過等を呟く場合があるので気になる方はどうぞ。
「・・・何処だここは」
ふと気付くと木の天井が見え、自分の体が白い布団に寝かされている事がすぐにわかった。
のっそりと起き上がれば、まだ微妙に頭痛が残るがそこまで酷くはなかったので布団から這い出して欠伸をした。
「ん? 外が暗い・・・夜か?」
肩を回したりして調子を確かめていると、外が真っ暗なのに気が付いた。
外の縁側に続くであろう古風の扉を横にスライドさせて開けると、月の光で照らされた神社の境内が目に入った。
月は満月に近い。だが、上の部分が少し欠けてるな。とどうでもいい事を考えながら体に少し力を入れた。
ざわりと背中に独特の感触が伝わると、自分の体に妖力が満ちていく。
体に変化が訪れ、隠していた白い尻尾が四本、ふわりと臀部の上辺りに根っこからその姿を現す。
頭も長い髪がゆらりと動くと、ピョコっと頭の頂辺から白い毛で覆われた狐の耳が飛び出してピョコピョコと自分で動かした。
最後には簡易な服が見事な装飾が施された黒い着流しに変わる。
「・・・? 力に違和感だと? 寝過ぎて減ったのか・・・」
いや違うと呟いた。
ガキの俺・・・あいつが言った罰と呪い。それを考えたらそれが原因なのかもしれない。
孤独の地獄とはなんだ? 反省しろとは何なんだ? それにあいつは誰なんだ?
「そこの妖怪! 動く・・・ってお前か! 驚かせるな!」
「だから言ったじゃん神奈子」
「ああ?」
考え事をしていると、本殿、神々が奉られているという場所から声が二組。
そちらを見れば、そこには洩矢神とタケミナカタ。二人がいた。
その二人を無視して手を握ったり、周りの景色をただ眺めたりする。尻尾を振るのは気紛れだ。
・・・体自体に変化はない。だが、中身は変化が大きく見られた。
妖力、神力、僅かな霊力が減少していた。いや、これは封印されている。の方が正確かもしれない。
いつ封印されたかは知らないが、減少に伴って出来る事が大幅に少なくなってしまった。
狐火はまだ使える。読心術も問題はない。幻術も・・・ただ、大掛かりの技は無理だな。世界を騙す大幻術は使用不可、浄化の効果がある狐火も妖力不足。
最悪だな。これは弱体化では済まない弱体化だ。
「チッ、あの野郎は何なんだ・・・」
「おい。舌打ちなんかしていないでまずはその妖力を仕舞え。ここは神の奉られる神社だぞ? たちまちお前は裁かれてしまう」
「・・・ふっ、このチンケな陣如きで俺を裁けると思っているのか? 勘違いも甚だしい」
「何だと!?」
「やるかタケミナカタ? 俺は構わんぞ。鈍った体を叩き直すには好都合・・・だ?」
唐突に力が抜ける感覚がすると、ポフッと音がした。
洩矢神とタケミナカタが驚くのが心に伝わる。
「・・・なんだと?」
「なになに? 喧嘩腰でもちゃんと神奈子の言う事を聞くなんて神奈子が好きなんだね? このこのっ」
「諏訪子! お前はまた!」
二人が何か騒いでいる。俺はそんな事より自分の身に起きた事が信じられなかった。
呆然と両手を見詰め、頭を触って尻尾がある場所を触った。
ない・・・自分で解除したわけではないのに妖怪化が解かれているじゃないか!
何故。と混乱してふとある言葉が脳裏に浮かんだ。
「(呪い・・・まさか呪いとはこの事か! 誰かに手を出そうとすれば妖怪化が解けてしまう呪いなのか!?)
嘘だろ・・・なんで・・・」
「・・・んん? あれ、どうかしたの? そんなに顔を真っ青にして」
洩矢神が気遣うように声をかけてくれ、力が入らない状態で洩矢神の少女にしか見えない顔を凝視した。
あれれ?と俺の顔の前で手を振って確かめてくる。そんな彼女に俺はただ一言。
「妖怪化・・・できない」
「「・・・ん?」」
洩矢神とタケミナカタが顔を合わせて首を傾げた。
■□■□■□
次の日の朝。混乱する俺を洩矢神は親切にしてくれ、ある一室に案内してくれた。
そこには洩矢神の他にタケミナカタと緑髪の女がおり、深刻そうな顔をしていた。
「妖怪、それも大妖怪なのに妖怪化ができないだって? 普通じゃ有り得ないな。それでは妖怪という存在に矛盾が現れる」
「私も同じ考えだね。何か心当たりはないの? 例えば、寝ている間に何かをされたとか」
「有り得ません! 私が神社の行事を放棄してまで看病していましたから琥珀様の髪の毛一本すら触らせていませんです!」
「・・・」
一人だけやばい発言をする巫女がいるが、残りの二柱のカミサマは真剣に俺の事を考えてくれていた。
高天原に住まう最高神の一柱である母上の息子で、本人から頼まれたと言っているが、洩矢神は純粋に気をかけてくれ、タケミナカタはなんというか・・・罪悪感で助けているようだ。
・・・妖怪化もそうだが、何より気になるのはあの幻想だ。俺の小さくしたバージョンのあいつの正体。
単に俺の昔の姿なのか、誰かが化けて俺を騙そうとしているのか、それとも・・・。
「気になる事と言えば一つだけある」
「お。手掛かりだね?」
「参考になるかわからんが・・・眠っている間に俺がいたんだ。それも、姿は幼い俺の。母上と雪の中を楽しく幸せそうに歩くんだ。そして、俺を哀れんだような目で見て罰を与えると言ってた」
そこまで話すが、三人は話がよくわからないのか、頭を悩ませて唸っていた。
それは俺も同じ気持ちだ。何が何だかよくわからない。何が起きているのかも。
「う、うーん・・・よくわからんな」
「・・・子供、ね・・・苗もそんな時代があったよねー」
「諏訪子様、恥ずかしいです・・・」
コントかよと思わずにはいられなかった。
緑髪の女は苗という名前らしく、少し照れた感じで指をツンツンしながら俺をチラチラと見ている。
・・・? この感情は・・・恋愛感情? なんで俺にそんな感情を抱いている?
それは置いといて。相談をしつつも、自分で情報を整理してみる。
急に妖怪化ができなくなった原因はおそらく小さい俺だ。封印されて違和感が強いが、考える動作は元のままだ。
「(俺の力・・・封印されたその力と幼い俺の幻想、母上と幼い俺のあの景色。呪いと罰、あれも全てあのガキの仕業だろう。だが、何故こんな事を? それとこの呪いとやらの発動条件も気になる。クソッ、考えてもわからない事だらけだ・・・)
・・・いたっ」
「こら。話を聞いているのか?」
「・・・ああ、わりぃ。聞いてなかった」
「あのなぁ・・・」
タケミナカタが呆れたような顔をしている。その隣では洩矢神がぷんすかと怒っていて指を俺に指していた。
どうやら俺を殴ったのは洩矢神らしく、小さな手を握りしめていた。
更に隣には苗、緑髪の巫女がまだ顔を赤くして指をツンツンしており、端から見れば異様な光景に見えるだろう。
「な、苗? まさかお前、こいつが好きなのか!? 好きなのか!?」
「おぉー苗にも春が来たか~」
「許さないぞ私は! 付き合うならもっと性格がいい奴をだな!」
「え、あ、えーっと・・・(チラチラッ」
・・・取り敢えずあれだ。
「帰っていいか? おめーらに話したのが間違いな気がしてきたわ」
最初は真面目に話して(?)いたのにどこから脱線した?
それは兎も角、まずはこの呪いの詳細とあのガキの俺の正体を確かめる事が先だな。
・・・ハァ。母上のいる高天原へ行くのがまた遅れるな。
早く会って謝りたいんだけどな・・・神力が無ければ扉を開く事もできないから。