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白狐浪漫譚  作者: むらくも。
儚き幻想の中で―偽りのセカイ―
6/16

其ノ陸


 こんなのが高天原への、ねえ?

 八尺瓊勾玉と呼ばれる三種の神器の一つ。天照から奪って数年、神々に追われる毎日を過ごしながら残る三種の神器を探す。

 だが、見つからない・・・天照に並ぶ神々であると言われるスサノオとツクヨミが見つからないのだ。



「・・・まあいい。あの時よりは前進している・・・」



 八尺瓊勾玉をポケットに仕舞うと、近くの川で顔を洗う。冷たい水が気持ちよく感じ、少しだけサッパリしたような気分になった。

 ふぅと一息吐くと、水面に写る自分の顔を見つめる。

 氷河期を乗り越えた時から大きく変化した俺の見慣れた感じの顔が写って寂しくなる。

 白い髪の毛は乱雑に伸びており、額を隠すように前髪がある。髪の毛の隙間から色が違う瞳が覗く。

 左は変わらないエメラルドのような緑色、右は・・・母上の金色の瞳をしていた。

 母上を喰らったあの日から、右目は母上の力を喰らった影響なのか、変化していた。

 それを見るたびに自分が母上を喰らった罪に蝕まれるように感じ、苛立たしさと寂しさと自分の決意が強まる。


 休憩は終わりだ。早く母上に会うために三種の神器を探そう。

 顔を振って水気を飛ばすと、髪を簡単に整えてローブのフードで顔を隠した。

 次はどこを目的地にすればいいか、聞きながら探すか。



「・・・で。神様はなんで俺のとこに来たんだ?」


「あーうー、そんな邪険にしなくてもいいじゃんかー」


「当たり前だ。俺は神々から追われる身だぞ? 警戒するのは当然だろう」



 再開した旅はすぐに暗雲が立ち込めた。

 出発して一時間で小さな少女に捕まり、ちょこちょこと後ろをつけられているのだ。

 少女の被る帽子には蛙の目のようなものがギョロギョロと動いており、不思議で堪らない。



「んでさー、君が大和の国に攻め込んだ白い狐でいいのかな?」


「・・・・・・」


「無視しないで返事をしなよぅ。自己紹介できない奴は嫌われちゃうぞ?」


「五月蝿い。俺とお前が仲良くする必要性はないだろう。俺に付きまとうな」



 右手を取られて少女に引っ張られ、何かと話しかけられる。

 こいつ、間違いなく上位の神だろうに。何故、神に追われる俺に付きまとうのだろうか?

 逃げる途中で何人かの神に会ったが、誰もが俺を殺すつもりで八尺瓊勾玉を取り返そうとしてきた。

 しかし、中には天照の八尺瓊勾玉を返せば神の位も上がるだろうと欲望を出してくる神もいた。


 もう何を信じたらいいのか・・・となるが、元々一人の俺は何とも思わない感じない。

 ただ向かう敵を殺すだけ。母上と会うことを邪魔するものは誰だろうと容赦しない。

 ・・・こいつもそれが目的なら・・・殺す。

 右後ろ、右手を持ってあーうーと唸る変わった帽子を被る少女を感情の籠らない目で見つめる。



「ねーってばー返事をしてよー」


「(・・・殺すか)」



 スッと空いた左手を少女の小さな首に伸ばそうとする。

 まだ唸る少女はぐいーっと俺のローブの裾を掴んで目を閉じながら引っ張っていた。

 少女の小さな首に手が触れようとすると少女は閉じた目をパチリと開けて、俺の手に触れると純粋無垢な笑顔を俺に見せた。



「貴方に伝言だよ? 御代琥珀クン。貴方の母親からね」


「!?」


「あはっ、やっぱりあの人の言った通りの反応をしてくれた・・・あうっ」


「母上を知ってるのか? 母上はどこにいる、伝言とは何なんだ!?」


「あーうー! 苦しい、苦しいってばー!」



 ガクガクと少女の肩を掴んで揺さぶると、あわわと俺の手に手を乗せて止めようとする。

 あまりにも強いから少女は苦しそうにしており、必死に声を出しているようだった。

 俺は母上の事を聞かされて冷静ではいられずに少女を問い詰めようとしていた。

 少女が嘘をついている可能性もあるだろうに、冷静ではなかった俺はただただ少女を肩を掴んで揺さぶるだけ。


 しばらくそうしていると、少女側が神力を使った神通力で俺を吹き飛ばした。

 少しだけ頭が冷えた俺はバツが悪そうな顔をして目の前で俺に指差す少女を見る。



「自分が会いたい女性ヒトの事を聞いて冷静じゃないのはわかるけどあんまり女の人は大事にしないと。ね?」


「・・・すまない」


「簡単な自己紹介は後回しにして。今から私のとこに来ない? 話したい事と渡したい物があるから」


「母上は・・・元気なのか?」


「それは大丈夫だよ。あの人も貴方が心配でよく話してたんだ。まあ、大和の国の神奈子や天照様には話していないからああなったけどねー、災難災難」



 何が楽しいのか、少女は笑いながら俺の周りを手を横に伸ばしながら歩いていた。

 少女の名前は洩矢諏訪子。大和の国の八坂神奈子と戦い、破れた諏訪の神だそうだ。

 彼女は大和の国との戦争の前から母上と面識・・・いや、声だけだが知り合っていたらしい。

 死んだ母上はいつも残した俺を気に掛けていたらしく、毎度のように母上から話を聞かされては俺を探していたそうだ。



「取り敢えず招待するよ。諏訪の・・・今は違うけど、諏訪大社に君をね」


「・・・嘘だったら殺すぞ洩矢神」


「あーうー、そんなに怖い顔をしないでよぅ」



 母上の手がかりが無かったら問答無用で殺してやろうこのクソガキ。







 ■□■□■□







「すまなかった!」



 たぶん今の俺はかなり間抜けな顔をしているだろう。

 洩矢神、洩矢諏訪子に案内されて旧諏訪大社の賽殿のある部屋に来るといきなりこれだ。

 前に八尺瓊勾玉を奪った時に戦った八坂が土下座して俺に謝っているのだから。



「本当にすまない! 何も知らないとはいえ、私は愚かなことをしてしまった!」


「・・・?」


「ああ、神奈子? 前に天照のとこに行った時に攻撃したことを悔いてるんだよ。母親に会いたかった子を邪魔するなんてなんてことをー!ってね・・・ゲロッ!?」



 意味もなく洩矢神の頭を殴った。

 俺の推理が正しければ母上と話したであろう、この幼女が神奈子とかいう女に俺の情報を教えたのだろう。

 むやみやたらに話されるのは好きじゃないんだ・・・。



「あーうー」


「本ッ当にすまない!」


「洩矢神、母上の情報を持つなら早く寄越せ。俺はダラダラと過ごす時間はないんでな・・・もし、嘘ならこの諏訪大社を破壊し、貴様等の大事な民を殺すぞ」



 ざわりと、空気が変わる感覚があり、立ったままの俺に洩矢神と八坂が武器を突きつけていた。

 八坂は大きな御柱を、洩矢神は金属の輪、チャクラムのようなもので俺を脅すように。



「悪いが今の言葉は許せないな。私達の命よりも大事な民を殺すというなら私達もそれなりの対応をさせてもらう」


「神奈子の言う通り。神奈子は新参だけど、私はずっと昔からこの諏訪の国を守ってきた。それを滅ぼすならその前に倒させてもらうよ」


「・・・・・・」



 明らかな敵意を目に宿す二人を見て、静かに息を吐いた。

 その動作で僅かな動きをした二人の隙をついて首を掴み、畳の上に叩きつけた。

 ズズンッと部屋が揺れると、畳が僅かにへこんでそこに二人は呻きながら俺に押さえられていた。



「ひとつ、言わせてもらおう。その言葉は差があっても大きくない場合だけ効果がある。今の俺はお前等神の力など、昔に超えているんだ。あの時は油断しただけだ八坂神奈子・・・いや、“タケミナカタ”」


「!!」


「何故、真名を知るか不思議そうな顔をしているな? 簡単だ。俺がお前の心を読んだからだタケミナカタ」



 ニタァと顔が歪むのが自分でもわかる。

 八尺瓊勾玉はいいものだな。本来の持ち主より俺を認め、力を授けてくれた。

 その影響で、母上の亡骸に宿る力のほとんどが身体に馴染んだ。

 嬉しいか、悲しいかわからないが、ここまでの力があれば高天原へも力尽くで行けるかもしれない。


 現に、油断していたとはいえ、八坂神奈子ことタケミナカタを片手で抑えつけられる力がある。

 隣の洩矢神、洩矢諏訪子もあーうー唸りながら必死で抗っている様子である。

 洩矢神から妙な力がぶつけられているようだが、何の障害にもならない。



「洩矢神・・・今の話を聞いていたのなら、俺が何をするかわかるだろう?」


「・・・私から、情報を読み取る・・・」


「正解。では抜き取らせていただく」


「諏訪子! やめろ、私達が謝るから諏訪子には手を出すな!」


「・・・俺は、母上に会えるのなら人間や妖怪に神・・・殺すのは躊躇わんよ。自分の不運さを呪うがいい」


「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 洩矢神の首を掴んだまま力を、妖力を行使して心を覗く。

 母上の情報だけを・・・。



「す、すわこさま・・・」


「あっ?」


「かなこさまも・・・なんでおふたりは?」


「最悪だ・・・! 逃げろ! この男に構ったら・・・兎に角、私達は私達でなんとかするから早く逃げるんだ!」


「で、でも・・・」



 ガキだった。かなり幼い小さな緑色の髪の毛をした少女。

 戸惑ったように俺達を見て怯えており、タケミナカタを見ていた。

 ・・・見られても構わないが泣き喚かれたら五月蝿い。

 たったガキ一人、殺しても大きな損害にはならんな。たかが(・・・)ガキの命がひとつ消えるだけ・・・。



「・・・呪縛」


「まさか・・・くそっ! 動け! あの子が殺されて・・・! 殺されてしまうっ!」


「神奈子、祟りも効いてない! なんとかしないと・・・むっ!」


「口を閉じてろ。お前等の始末は後に回してやるよ」



 抜けた白い髪の毛の何本かが伸びて、二人の体を拘束する。

 その間に震えているガキに近付く。

 一歩一歩、近付いていくとガキは逃げられずに腰を抜かして座り込んだ。

 後ろから声と押し潰すような神力の波動を感じる。だが気にしないでさらに歩く。



「・・・最後に一言だけ聞いてやろう」


「・・・お、おかあさん・・・」


「それだけか? なら死ね。来世では幸せになれるといいな」



 ガキの首に手を伸ばした。

 その小さな首に手が触れると、後ろの洩矢神とタケミナカタの声が大きくなる。

 やめろ、やめろと泣きそうな声。だが俺は・・・。



「おかあさん・・・」


『母上・・・』


「!?」



 目を限界まで開いて驚いて驚くしかなかった。

 母を求めるガキの姿が俺と重なる。それも、俺の知らない幼い姿の俺と。


 伸ばした手に力が入らない。それどころか、目の前のガキに恐怖を覚える。

 ただ怖い。目の前のガキが思い出したくない記憶を呼び覚ますようで。



「・・・違う」


「え?」


「違うっ! 俺は! そんな・・・そんな目で俺を見るな!!」



 ガキの後ろの俺は何か寂しそうに俺を見ていた。

 それを振り切るように頭を抱えて激しく横に振ってしまう。

 周り、洩矢神とタケミナカタは錯乱する俺を見てどう対応していいかわからず、混乱しているために呪縛が解けている事に気付いていない。


 気持ち悪い。俺の幻想が。幼い俺が俺を認めていないどころかただ、哀れむように見るあの瞳が。

 頭が激しく痛む。心がそれを受け入れない。



『母上。母上。母上・・・』


「うっ・・・おぇっ」



 受け入れられなくなったせいか、そのまま多くない胃の中をぶちまけてしまった。

 意識が暗転する時、誰かの声とどこまでも哀れむように見る俺の声が聞こえた。










『何故そうなったの? ボクはそんなんじゃなかったのに・・・』










『・・・ボクボクには罰が必要だね。“孤独”の地獄、味わうといい。答えを見つけるまでね・・・』











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