表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白狐浪漫譚  作者: むらくも。
儚き幻想の中で―偽りのセカイ―
4/16

其ノ肆


「早く避難しろ! 時間がねーぞ!」


「黙れや! なんで俺達がてめーの言う事を聞かなきゃなんねーんだよ!」


「なら死ね! 俺はもう知らんぞ! 死にたくない奴だけできるだけ地下に潜れ!」



 二年後。人間達が大慌てでロケットなんか作る理由がわかった。

 隕石の衝突。それが迫っている。

 やはり・・・これは恐竜絶滅の隕石衝突の仮説と同じなのか? つまり、これは空白の歴史で未来の歴史家が探し求めていた真実だろう。

 アルマゲドンの映画を思い出した俺の記憶力はどうなってんだとツッコミをしながら、避難をする。


 友好的な妖怪も含めてあらゆる妖怪や動物、妖精を避難誘導しているが困難を極めるな。

 一部の妖怪は逃げる人間を逃がさないとばかりに攻撃をしようとしている。

 避難をする妖怪と動物に妖精は動物と妖精は全て、妖怪は一割程だろうか? 他の妖怪は食料が無くなるのを嫌って目先の欲望に走った。



「(地下に潜ってもあの恐竜を絶滅させたアルマゲドンの被害を減らせると思えないな・・・)

 母上! そっちは!?」


「無理じゃな。ほとんどが人間の都市に攻めおった・・・妾達だけでも避難をしよう。生きていれば、また繁殖するだろうからのぅ」


「ちっ。欲望に忠実な馬鹿はどうにもならんか・・・」



 母上と協力して用意した洞窟に結界を張って、地下に避難所を作っておいた。

 あのアルマゲドンだ。被害をゼロにはできないがなんとか少しでも減らそう。

 俺達は今を生きる命なのだから。



「ほら急げ! 時間がないぞ!」



 少しでも残そう。未来の種を。







 ■□■□■□







「母上・・・大丈夫か?」


「なんとか。琥珀、そなたも無理をするでないぞ」


「こっちは我慢できる。それより母上だ。俺のをやるから体を冷やさないようにしろよ。アンタは女性なんだから俺より気を付けないと」



 アルマゲドン。まさに世界終末ハルマゲドンに似た名前を持つだけはあった。

 あの隕石の衝突で、地球は一度死んでしまった(・・・・・・・)。

 隕石の衝突で地球のあらゆるものが破壊されてしまった。

 緑も、海も、湖も、あらゆる自然を焼き尽くして自然を破壊し尽くした。

 人間達が作った近未来都市の最強を誇る防御ですら、被害は全く免れなかった。むしろ全てを破壊されてしまった。


 俺等、母上と俺と動物と妖精に妖怪の一部はなんとか生き残れたが、避難した数の十三分の十が死んでしまった。

 生き残れたのはよかったが、そこからは死んだ方がマシだと言えるほどの地獄が待っていた。


 隕石の衝突による地球の環境の急激な変化。

 火山は噴火して地割れは頻繁に起き、黒い雨が降り、雷が鳴り止まない地獄。

 その急激な変化に対応できずに生存者は更に減ってしまった。

 俺等は住める場所を探して世界中を放浪して旅をした。種族は関係なく、ただ生き残るために旅をする。


 もう限界かもしれない。

 数は四桁から三桁ギリギリまで下がってしまって、俺も母上も氷点下以下の氷河期の環境に耐えられなくなってきた。

 いつもなら問題なく力でなんとかやれるだろうが、もう一つ問題があった。


 あの衝突した隕石・・・その石には妙な力を宿していた。

 衝突した際に発生した衝撃波でその力は地球全域に広がってしまった。隙間も残さずに。

 世界を漂う力にそれが加わればどうなる? 急激な環境の変化と共に大きな力が加わってしまってバランスが崩れてしまう。

 自然の力を身に受けていた母上はその影響を誰よりも受けている。

 体調を崩す事が多くなり、満足に歩けない状態が長く続いて俺が抱えて移動するのが当たり前になる。



「・・・クソッ! ここも駄目か!」



 母上を背負ったままかつては川だったであろう場所。氷に覆われたそこに穴を開けて水を確かめたが、毒水になっていた。

 火山灰や黒い雨のせいで飲める水が少ない。近未来都市の携帯型浄水器でも無理だ。

 一部、水は飲める場所があるのだが、少なすぎてこの数分は確保できていない。

 近未来都市の水でなんとか凌いでいるが少しでも多くの水が今は欲しい。



「駄目・・・駄目駄目駄目! なんでこんなに水がないんだ!」


「落ち着け琥珀。動物達が怖がっている」


「ぁ・・・」



 ガンッと氷を叩き割れば、背中の母上からそんな言葉が。

 我に返って周りを見れば妖精が怯えて動物の後ろに隠れていた。



「す、すまん。気が立っていた」


「慌てなくてもよい。妾達は生きておる。まだ、生きる希望も未来も潰えていない・・・諦めないことじゃ」


「母上・・・ごめん。イライラしていた・・・ん?」



 母上に感謝していると、妖精の二匹が騒がしく声を出していた。

 吹雪で聞こえにくかったが、なんとか聞き取ると積もる雪の上をザクザク歩いて近付いた。

 二匹の妖精は一匹の動物、犬のような動物を揺さぶっており、俺は慌ててそれを抱き上げて耳をすませた。

 心臓が・・・動いていない?



「またかよ・・・っ! 死ぬな! まだ生きなきゃなんねーんだお前は!」



 生きる。生き延びて地獄を乗り越えるんだ。またあの楽しい日を過ごすために・・・。







 ■□■□■□







 あれからどれだけ時間が過ぎただろう? もう、時間すらもわからない。

 あれからどれだけの死を見てきたのだろう? もう、数え切れない死を見てきた。

 あれからどれだけ絶望を味わったのだろう? もう、希望や未来など忘れた。


 あれからどれだけ・・・どれだけ・・・どれだけどれだけどれだけどれだけどれだけどれだけどれだけどれだけどれだけどれだけどれだけ!!



「・・・母上・・・」


「ふふっ。そんな顔をするな琥珀」



 そして・・・死を見てきた俺に新しい死を見ることになる。

 二桁の生存者になり、妖怪は絶滅して動物や妖精も種類が限られてしまうほど死んでいった。

 そんな中、ついに母上は倒れて死を迎えることになる。


 やっと住める場所を見つけたが、もう遅かったのだ。

 母上の体は限界で動けなくなってしまい、限られた空間で暮らしながら看病をしていたが治る兆しはなかった。

 寝込む母上を妖精や動物達と看病をする毎日に、母上は終止符を打つのだ。



「琥珀。妾はもう逝く」


「母上・・・」


「・・・思えば、そなたと会ってから充実した毎日だったのぅ。初めての息子は妾に似ずに優しい心を持っていた」


「大丈夫母上。まだ助かるよ。ここなら、自然があるから」


「よい。妾の事は妾がよくわかる・・・もう持たん」



 なんとか使える近未来都市特製の布団で横たわる母上に、かつての面影はなかった。

 弱々しく俺の手を握り、満足そうな顔をして笑っていた。それが何よりも辛い。

 頬を伝う、冷たい感触に気付かないフリをしながら母上の冷たい手を強く握る。



「泣いておるのか?」


「・・・母親の死を泣かない息子はいない」


「ふふっ、妾はそなたの母親として役割を果たせていたようだの? 妾は満足じゃ」



 母上の手が握られた片方の手と俺の手を包む。冷たいはずなのに、何故か暖かく感じた。



「心配せんでよい。妾は死ぬわけではない。元いた場所に戻るだけ・・・“高天原たかまがはら”、天界に近い神々がいる場所。そこに帰るだけじゃ」


「高天原・・・」


「天地開闢の神代の神々はそこにおる。無論、妾も。永遠の別れではない。暫しの、再会を迎えるために別れるだけ」


「母上・・・母上?」


「願わくば・・・まだそなたと生きていたかったよ。我が息子、琥珀・・・」


「母上。おい、母上・・・」



 瞼を閉じ始める母上を見て血の気が引くのがわかる。



「母上! 死ぬな母上! まだ俺はアンタに教わりたい事があるんだよ!」



 だが、母上は満足そうに笑ったまま動かない。

 妖精の泣き声、動物達の悲しげな声を聞きながら母上の体を揺さぶる。

 しかし、母上の体を揺さぶっても反応はなかった。



「あぁ・・・ああぁぁぁ・・・母上、母上ぇ・・・!」



 理解した。理解してしまった。

 親しい家族の死に今までに見た仲間の死よりも心が痛んだ。

 安らかな顔をして逝った母上は・・・本当に幸せそうな顔をしていた。


 母上が死んで余裕がなかったのだろう。俺は自分でも何をしたかわからなかった。

 母上の亡骸を抱いて涙を流していると、自然と行動に移した。

 母上の美しい肌が見える首筋に口を持ってくると・・・噛み付いた。



「うっ!」



 妖精の一匹がそんな声を漏らす。



「母上・・・死んでも俺達はずっと、一緒だ・・・」



 グチュリッ・・・。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ