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白狐浪漫譚  作者: むらくも。
儚き幻想の中で―偽りのセカイ―
3/16

其ノ参


「なあ母上」


「なんじゃ」


「俺等・・・なんかヤバくね?」


「ヤバいのぅ」


「取り敢えず家を移して隠れよっか。目の敵にされて殺されんのやだし、母上があそこの人間に犯されるのなんか見たくないし」


「ふふん。妾が本気になれば二時間で人間を滅ぼせるから問題はない」


「やめろよ? フリとかじゃないから本気でやめてくれよ?」



 大きな洞窟の中にある日数を刻んだ数がそろそろ二十万に届きそうな頃に達する。

 平成の風景から近未来の風景になっており、技術がもう発展するわするわ。

 空飛ぶ車、拳銃もレーザー銃になってたりライトセーバーとかも出てきていた。

 後はトカゲとか妖怪を狩る遊びが出てきて俺等も狙われている。

 どこぞのパワードスーツを着込んでキュインキュイン動きながら狩りをするのが最近だな。

 見せ物にされたり、実験台にされたり悲惨なことになってるらしい。


 ま。俺等としてはほとんどがクズと言える悪の妖怪ばっかだから気にしてないけど。

 逆に友好的な妖怪は俺と母上が助けてる。幻術ウマイ。

 戦利品に小型住宅カプセルみたいなのとか大量に貰った。ライトセーバーとかも。

 すげぇ。なんか技術が発展しすぎて気持ち悪いよ。


 小型住宅カプセルを使うと、昔ながらの・・・というか平安時代とか鎌倉時代の武家屋敷みたいなのが出てくるんだ。

 アレはビックリしたな。母上もヒィッと驚いていたのは新鮮な感覚だったわ。



「この和と洋のミックス具合が絶妙すぐる」



 畳があり、キッチンがある。たまに見かけた懐かしい俺がいた時代の家だ。

 母上は畳を気に入り、よく日向ぼっこをしているのが日常である。

 二人で住むには大きすぎるが、たまに猫とか鳥が来て母上と一緒に癒されていたな。

 他には狐がよく来るな。母上が天狐なせいで狐に好かれている。

 暇な時間はのんびりしてるのが多い。前みたいに猫に逃げられることもないからモフモフできるのが嬉しいな。

 いやー、癒される癒される。



「で、だ。始めようか琥珀?」


「よろしくお願いいたします母上」


「今日は先日の続きで幻術の練習をしよう。幸い、ここにいる猫やら鳥達がいるから楽しい幻術を見せられるじゃろう」


「・・・前々から思ってたけど、いいのか? 幻術をかけてしまって」


「だからこそ、じゃ。苦手とする、嫌う事をすればそれだけ注意深くなるし、上達も早い」



 母上によれば、誰かに楽しい幻術を見せられるようになれば、自ずと人の心を理解することもできるそうだ。

 そして、幻術スキルの向上にも繋がるため、まさに一石二鳥。

 喜怒哀楽。特に生物のほとんどは喜と楽を求めるため、喜と楽を理解できれば逆の怒と哀も然り。

 なんかごめん母上。馬鹿にしてごめん。


 前に母上が未来型携帯電話をパクって来た日からこうして毎日、母上から幻術や対妖怪に戦闘訓練をしている。

 人間も脅威だが、それ以上に獰猛な妖怪も元人間の俺には危険だと母上が何度も何度も耳にタコができるほど聞かされている。

 殴り合いはしていないが、母上の幻術はエグい上にリアルだから仙人級の精神を持つ俺でも発狂しかけたね。

 段々慣れ、おかげで恐怖心とか麻痺してちょっとやそっとじゃ動じなくなった。


 幻術訓練に並行して妖狐の代名詞と言える“狐火”も教わっている。

 青い炎が特徴で、母上はあらゆる色の狐火を操っているのを前に見たことがある。

 なんか浄化の炎や、破滅の炎に様々な効果がある狐火があるそうで、いずれは俺にも使わせたいそうだ。

 母上、青い炎だけでいいっす。破壊とかいらないっす。



「にゃー」


「満足してるか?」


「みー」


「ふむ。上手だな。面白い反応をしている」


「そっか?」


「何を見せてるんじゃ? 元人間のそなたならまた少し違う幻術を使うじゃろ?」


「こいつが望むものを。いつまでも楽しい夢を見せている。仲間がいて、美味しいご飯があって、のんびりできる場所にいつまでも・・・って感じか?」


「あー・・・」



 なんか母上が成程成程と呟いている。

 俺は膝に乗せた小さな子猫と視線を合わせて右手でパチッと指を鳴らした。

 すると、子猫はパチパチと瞼を開けたり閉めたりすると、キョロキョロと周りを見渡してガッカリしたような動きをする。



「・・・にぃー」


「うわ。なんか罪悪感が半端ねえ。ガッカリしてんのを見たら心が痛くなるわ」



 楽しい幻術もとい夢を見ていた子猫は本当にガッカリしていて、ピュアな俺の心に深く突き刺さった。

 耳もペタンとしており、尻尾も力なくフラフラしていた。

 居たたまれなくなって子猫の頭を優しく撫でてみた。にゃーと鳴きながら目を細めて気持ち良さそうにしていた。


 それからは子猫以外に鳥や狐相手に夢を見せて幻術の訓練を何回かやってみた。

 母上からは百点中八十二点をいただいたので、素直に喜べた。



「じゃあ・・・またなお前等。また来てもいいから」


「にゃー!」


「こんっ!」


「ほっほー。凄くなつかれているな琥珀」


「この体になってからは動物に好かれるから嬉しいよ。母上、俺を助けてくれてありがとな」


「・・・か、構わぬ。妾は暇潰しでそなたを救ったのだ。感謝される理由はない」


「ははっ。なんか可愛いな母上」


「は、母をからかうな! 悪い息子じゃなそなたは!」



 顔を赤くしてそっぽを向く母上はマジ可愛かった。

 自然に出る笑顔を抑えずに、母上と夕飯を食べることにした。







 ■□■□■□







 あれからまた時が流れる。

 尻尾の数は変わらぬまま、俺は母上と毎日を過ごす。

 妖怪狩りに来る人間を幻術で撃退したり、鬼や天狗と出会ったり他の妖怪にも出会えた。

 どうやら俺は遥か過去に飛ばされているようで、証拠も見つけることができた。

 最初は、縄文時代のそれを見て、過去ではなくて未来・・・破滅した未来に来て新たに文明が開拓されたのかと思っていた。


 母上は俺を見つけたと言っていた。

 それは現代で死んだ俺を助けて、現代の別の場所に来たのかと思っていた。

 何故なら、例え神代の神でも過去にまで干渉できないと思って、推理は途中で放棄した。


 見つけた証拠・・・それはあるもの。

 神々の遺産と言えるそれ。神器と呼ばれるものを見たおかげだ。

 その中にとんでもない神器があり、力で揺るぎない真実を知ることができた。


 名前はないが、言うなれば“予言の書”だろう。

 それによるとある時間、場所にて救世主メサイアが生まれると書かれていた。

 救世主メサイア・・・そんな大層な称号を持つようなのはあいつしかいない。




 “イエス・キリスト”、西暦の始まりを告げる神の子だ。




 まだ誕生していないのを見れば、西暦が始まっていない、紀元前の時代と断定できる。

 ・・・ってか過去なのは薄々わかってたが、信じたくなかったなぁ。

 俺を生んだ母や父に会えないし、学校の友人にも会えない。それを実感したくなかったのかもしれない。

 だけどもう吹っ切れた。俺は、この世界で生きていく。


 さて。そんな決心をしたのはいいが、大問題がある。



「はぁ? 人間の様子がおかしい?」


「ああ。なんか大慌てでやってるみたいでさ、いつも以上に警戒を強めてるみたいだぜ?」


「ふーん・・・なんか知らないのか?」


「さあ? なんか大きな塔みたいなのをいくつも作っているのを見たって奴がいたが、なんか関係があるのか? かなりの高さらしいぜ。あ、おかわりをくれ」


「自分でやれダラス」



 そう。近未来都市に住む人間がなんかおかしいらしいのだ。

 友好的な妖怪、正確に言えば鬼から聞いた話はあらゆる妖怪達のグループでも噂で持ちきりらしい。

 大きな塔みたいなの・・・儀式? いや、近未来都市だからあり得ない。



「・・・まさか、ロケットか?」


「ああん? なんか言ったか?」


「なんでもねーよ。それよか、人間が攻めてこないのは怪しいと思わないか? 前までは嬉々として俺等を狩っていたからなぁ・・・」


「逆に返り討ちにするのがまた快感なんだよなー!」


「黙れこのクソ戦闘狂いめが」



 ロケットだとしたらなんで今頃? ちょっと調べた方がいいな。

 情報をくれた鬼に酒をあげて礼を言うと、変装用に用意しておいた服を来て潜入する事にした。

 質素な白のアンダースーツのような、まさに近未来の服の上にズボンにシャツを着て。みたいな感じだ。

 このアンダースーツ、肌に張り付く上に防寒耐性とか無駄に高性能な機能があるからな。近未来都市の技術がどれだけ発展しているかわかる。



「・・・『Project move to moon』? 月移住計画か?」



 潜入して情報収集をしてみれば、そればかり出てくる。

 月移住計画・・・何故、今頃になって大慌てで準備するんだ? 科学力を考えたらもっと前にできてたはずなのに。

 考えられる事は・・・そうしなければならない理由があるとか?



「こりゃ母上に報告しねーとな・・・あ、すんませんここからここまで全部ください」



 酒と煙草とか食料も買っとこう。














「ドロボー!」



 ・・・え? 俺じゃないよ? 借りるだけだから違うだろ?






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