表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白狐浪漫譚  作者: むらくも。
儚き幻想の中で―偽りのセカイ―
2/16

其ノ弐


 なんか白狐に転生してから気が遠くなる日を過ごした。

 白狐・・・まあ、母親で母上なんだがどうやら歴史に語られない神の一柱らしい。

 天地開闢の際に生まれた命が神格化して神化したそうだ。

 ・・・って事は母上様は伊邪那岐イザナギ伊邪那美イザナミと同じ日本を開拓した神なのかよ・・・。


 そんな語られない歴史を思わぬ形で知った俺こと、神代琥珀はふて寝している。

 神代琥珀なんて厨二すぎるから御代琥珀に改名して将来、悶えないようにはしておいた。

 根っからの現代っ子な俺は厨二野郎だなんて後ろ指を指されたくないからな。


 あ。ちなみにだが、俺が生まれた(転生した?)のは天地開闢が起きた二千年ほど経った頃らしい。

 今は・・・なんだ。人間が誕生し始めた頃か? 母上、神代白ハクは「暇潰しに人間と遊びたい」とか駄々をこねりやがるんだ。

 見た目は大人で精神は子供なんだよな。母上は。


 なんでわざわざ俺がココに、母上の息子として転生したかわからんけど、諦めて白狐として生活を満喫している。

 最初はミミズとか虫とかゲテモノを食わされてナーバスになったが、やっと肉が食えるようになったからウェルダンとかミディアムで好きなように食い散らかしている。

 猪ウマイよ猪。


 だが、現代っ子必須のアイテムであるパソコンと携帯電話がないため、狩り以外に暇潰しができん。

 たまに変な犬とかトカゲとか出てくるけどもれなく俺と母上の胃袋に吸い込まれる。

 なんか見たことがあるな。主に映画とかで。特にトカゲとかが。



「ヒマ」


「ヒマじゃのぅ」



 どちらにしても、この死ぬほど退屈なのは何とかしてほしい。

 死ぬほどヒマってのを体験するとは思わなかったぜ・・・。



「母上。なんか面白いことない?」


「むぅ・・・子作りとかどうじゃ?」


「息子に欲情すな。変態だと言われんぞアンタ・・・ってかヒマ。ヒマだ」


「ぐぬぬぬ・・・ならば妾が人間に喧嘩を売って暴れてやろうかの・・・!」


「やめろや」



 後はこいつだ。ニューママの母上。

 唯我独尊の道を爆走する母上のせいで一気に精神年齢が老けた。

 妖狐の能力で不老だからもう仙人レベルにまで悟りを開いた気がするよ・・・。

 何年生きたかわかんねーけど、覚えているのはクロマニョン人が人間みたいになったのを見たから何千の年が流れたと思う。

 というか毎日が変わらないから時間感覚が麻痺してる。


 天地開闢の神代の神である母上はその名に恥じぬ力を持つ。

 動けば戦争、怒れば天災、森羅万象を見透かす眼。まさに絶対的存在。

 そんな母上に作られた俺は超チートな能力を秘めていたりする。

 擬人化、妖狐の尻尾のコントロール、妖狐の源の妖力の増大及びに強化。あらゆる事が可能になっていた。

 妖力って妖怪か馬鹿野郎ってツッコミをしたけど、あながち間違いじゃないな。

 現代じゃ、ぬらりひょんとか九尾とか鞍馬天狗とか鬼がいるしな。人間に知られずに生きてたんだろ。



「ヒーマーじゃー! ヒーマーなーのーじゃー!」


「黙ってください母上。アンタのせいで妙に老けてるんだからこれ以上老けさせるな」



 嗚呼、今日も苦労が絶えない日が始まる・・・。







 ■□■□■□







 あれから三百年。これはたぶん正確だ。

 今回は一日が終わるごとに木に傷をつけて日数を刻んだからな。それらを数えたら約三百年くらいだろう。

 数は十万九千五百十二本。三百年十二日の計算になる。

 年月を重ねれば少なからずの変化がある。それは妖狐の俺も例外ではない。

 九尾の妖狐はよく知られているだろう。白面金毛の妖狐だっけか?

 あれと同じように尻尾が九本は妖狐になってからはロマンだったが・・・。



「何故増えんし」



 そう増えない。まるで増えないのだ。

 四本のまんまで、ニョキニョキ母上みたいにモッフモフな尻尾がたくさんないのだ。

 ちっくせう・・・妖狐は尻尾の数で立場が決まるのに少ないならいちゃもんつけられるじゃないか!

 俺の平穏が遠退く! 妖狐になってからはのんびりと暮らしたいんだ俺は!

 昔はパソコンや携帯電話が無いから不便とか言ってたな。だがあれは嘘だ。

 慣れたら就職活動や汚い大人に会わずに済むし、動物が多くいて逆に心が癒されるのだ!

 ビバ☆太古の時代!


 ただ・・・。



「こぉーはぁーくぅー! 飯はまだかー!」



 この母上アホがいなかったら完璧だったのに・・・。

 我が母、神代白。この女郎、更に悪化してやがる。

 見た目は大人で精神は子供とか言ってたが癇癪を起こす赤ん坊そのものだ。

 何かあれば呼ぶし、叫ぶわなんやでゴリゴリと精神を削られているのだ。

 もう俺、目の前で誘う美女の軍団を見ても我慢できるほど悟りを開いたわ。

 毎日、食える草を取ってベジタリアンになりかけているし。キャベツが恋しい。

 肉も相変わらず食べてるよ。猪とか鹿を焼いて食ってる。


 他は特にないね。あるとしたら以前に変な妖怪が喧嘩を売ってきてイライラした母上が首を飛ばしてた事かな?

 首がスッポーンって飛ぶのを見て気持ち悪かった覚えがあるな。


 どーも前に見たトカゲとかが恐竜に見えてしまうんだが。

 ティラノサウルスやらトリケラトプスみたいな外見を持った奴がわんさかいるからな。

 あれ? 恐竜と人間が同時に存在するの、おかしくね? 恐竜が絶滅してからやがて人間が現れるんじゃなかったか?

 カオスな時代・・・まさか、これが知られざる歴史なのか!? 空白だらけの歴史にはこんな秘密が!?

 って驚いてみた。


 昔なら知らない歴史を知って皆に自慢をしただろうが、今はのんびりと毎日を過ごしたい。

 余計なトラブルはノーサンキュー。平穏を侵す奴はサーチアンドデストロイ。

 思考が物騒になってるって? こうでもならなきゃ母上の世話なんかやってられるかァ!!


 ・・・さて。んなこたぁ、どうでもいいんだ。問題はちょっと前に起きたある事件だ。



「・・・なんなんだこの世界は・・・」



 前は縄文時代の文明だったはずなのに、今は時代が跳んで一気に平成の風景になっているんすけど。

 えっ? なにそれ怖い。と固まっていたのはいい思い出だ。

 擬人化できるので、人間に紛れて歩き回ってみれば遥か昔の、転生前に見た懐かしい風景そのものがあった。

 なんかホロリ・・・となって道のど真ん中で涙を流して変な目で見られていたな俺。

 家に帰ってみれば泣く俺を見て母上がオロオロしていたのは珍しいと思った。

 母上がオロオロするとなんか可愛かった。


 だけど、その平成の風景に違和感もあった。

 なんか妙に技術が発達していて車も太陽光発電搭載をしたハイテクなものだったし。

 携帯電話もパカパカするタイプじゃなくてモニターを表示してタッチ操作をするとか夢のような機能があった。

 ・・・あるぇ? 俺の時代ってこんなに技術が進んでなかったよな? なんなのこれ?

 取り敢えず買いたかったが、身分証明書ないしバレたら殺されるかもしれないから諦めた。

 平成の風景ならたぶん拳銃くらいありそうだからな。青い国家権力の服を着た兄ちゃん達もいたし。



「おーい琥珀ー!」


「はいはいなんすか母上。まだご飯はできてませんよっと」


「なんじゃまだか。まあよい、それよりほれ! こんなものをパクってきたぞ!」


「パクってって、盗みをした・・・ってうおおおおおおお!? それ、俺が欲しかったものじゃねぇかぁ!!」


「ふふん褒めろ褒めろ。妾がわざわざパクってきたのだぞ?」


「ヤバい今なら母上に抱かれてもいいわ。敬愛度がカンストしてマジ抱かれても文句はないわ」


「む? なら妾とヤるか? 初めての相手になってやるぞ?」



 母上がなんかゲヘヘへと涎を垂らして何処かに飛んでいったのを傍目に、青く輝く金属のボディを持つそれを見る。

 お、おおおおお・・・! これが携帯電話? 素晴らしいぞ。素晴らしいよこれぇ!

 えーとSMERTPHONE? なんだろう。渋いおっさんと女性がなんかやってる幻覚が見えたわ。

 さ、さっそく触ってみるか。



 カチッ。カチカチカチッ。ピー。



「・・・?」



 カタカタカタカタッと特有の音が鳴るが、全く反応を示さなかった。

 ・・・ってあ゛。これ電池がねーじゃねぇかぁ!! それ以前に展示用だから契約してないし!

 ぬか喜びだ。何が母上に抱かれてもいいだ。前言撤回。詳しく知らない母上に期待した俺がアホだった。



「で、琥珀。いつ子作りする? 妾ならいつでも構わんぞ。なんなら今からヤろうかの?」


「母上、飯抜きな」


「何故じゃ!?」



 八つ当たりして気を紛らわせよっと。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ