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白狐浪漫譚  作者: むらくも。
儚き幻想の中で―偽りのセカイ―
1/16

其の壱


 気が付いたらそこにいた。




 気が付いたらそこにあった。




 気が付いたら俺という存在があった。




 気が付いたら俺という存在が生まれ落ちていた。




 気が付いたら俺は目覚めていた。




 遠くにある記憶の中で、俺は何を成すべきなのだろうか?








 ■□■□■□







「おはよう」


「・・・っす」


「なんじゃ。しっかり返事くらいはせんか」



 不機嫌そうな顔をする白髪の美女。彼女は俺の母になる。

 だけど、彼女は母であって母ではない。矛盾の孕む事実だが、これが一番いい表現だ。

 何故か? それは一部だけ完全に抜け落ちてる俺の記憶に関するからだ。


 母と名乗る彼女はこう話してくれた。

 どうやら俺は死んで・・・いや、死の間際にいたらしく、俺は彼女に救われた。

 抜け落ちているが、残っている記憶も存在する。

 それが俺が生きていた証、2022年を生きていた俺だ。当時はまだ高校生で、両親も兄弟もいた。一緒に馬鹿やって騒いだ悪友と友人も。

 抜け落ちているのは死に瀕した記憶と蘇った記憶。気が付けば母と名乗る女性がいたのだ。



「・・・・・・」


「なんじゃい、妾の顔をジロジロと見おって・・・そ、そんなに見るでない」



 顔を赤くして煙管を誤魔化すように吹かす彼女。その臀部には白く輝く尾があった。

 そう。彼女は人間ではない。でなければ、俺の命を救えたりなんかしないはずだ。


 彼女は所謂、天狐と呼ばれる存在。

 天狐てんことは神獣の一体であり、狐が神格化した姿。

 狐が千年生きると天狐になると言われており、尾の数は九本とも、四本とも言われている。

 強力な神通力を持つとされ、千里眼で遠くまで見れるという規格外な狐である。

 さらに天狐が二千年が過ぎ、3000歳になると、天狐から“空狐くうこ”になる。

 空狐はあらゆる神通力を操り、妖力を操る力は天狐を超えると言われている。

 追伸としては、天狐は妖狐の最上位とされ、空狐は二番目であり、そのまま気狐、野狐と下がる。


 そう話してくれたが、まだ驚愕は終わらなかった。

 どうやら彼女は異端のようで、先に空狐となり、再び天狐となったようである。

 ということは、だ。彼女は天狐と空狐、二つの長所を兼ね備えた最強の妖狐ということになる。

 となれば、人間を蘇らせるのは朝飯前だそうだ。だから気紛れ(・・・)で俺は生き返った。

 感謝をしたいが、どうも俺は複雑な心情らしく素直に感謝できなかった。



「さ、さて。こうして新たに生を受けたのだ。少しだけ、詳しく説明しておこう。この世界の成り立ちを」



 こほんと咳払いをすると、白い尾をパタパタと揺らしながら彼女は説明を始める。


 この世界には自然の力、世界を支える力が存在する。

 妖力こと“妖気”、神力こと“神気”、霊力こと“霊気”。そして誰もが持つ、生きるために宿している普通の“気”、“氣”とも書くらしい。

 “妖気”は主に妖怪と呼ばれる種族に宿るようで、畏怖や恐怖を糧に成長する。年月を重ねても成長するようで年齢がそのまま強さとなるそうだ。

 “神気”は主に神に宿る。今の数はかなり少ないらしく、確認できるだけでも片手で数えられる程度だそう。この力は詳しく話してくれなかった。時が来ればわかるらしく、森羅万象を操る力の源と認識しておけと言われた。

 “霊気”は選ばれた、特殊な人間に宿る力のようで、非力な人間が妖怪に対抗するために自ずと覚醒した・・・というのが彼女の見解。

 その中でも“妖気”と“霊気”は互いに干渉し合うもので、妖怪が人間を喰らえば“霊気”を身に取り込んで強くなり、“霊気”を持つ人間は反対に妖怪が持つ“妖気”を唯一消滅できる。

 だが、“神気”だけはその二つの上を行く力で圧倒的なアドバンテージがある。絶対と言われている神様が昔に崇められるのはこのせいかと考えた。

 最後に“氣”。これはあらゆる生きる生命にある。動物、植物、果てには意思のない大地や大空、大海原にすら宿り、地球の命とも言えるものだそうだ。ある意味では“神気”よりも強いのではないかとこれまた考える。


 むふんと説明を終えた彼女は胸を張る。その際に豊かな母性が揺れて目に毒だったのは内緒だ。

 彼女はそれらのうち、六割が“神気”、三割が“妖気”、残る一割が“霊気”を持っているそうだ。

 何このチート。と思うのは仕方がないだろう。大半が神様の力で大妖怪レベルの“妖気”を持つくせにそれが三割って全体的に考えたらお前、どんだけ強いんだよと誰もが思うだろう。



「あー、ちょっと待って。頭が混乱してきた」



 一気に説明されたらからか、若しくは自分が生きていた時代とは何の縁もない事を話されて理解ができないのか、頭が痛くなってきた。

 説明を終えた彼女は何故か嬉しそうに犬のように尻尾をパタパタと振りながら俺を見る。

 目が褒めて褒めてと物語っており、キラキラしていた。何この可愛い生き物。一家に一台は欲しいんですけど。


 こほん。話が逸れたが、まあ大体は把握した。

 横で俺に頭を撫でられて猫のようにゴロゴロ鳴く彼女に癒されながら次は彼女という種族、“妖狐”について説明してくれた。

 大まかに彼女が出来る事を聞いてみると、狐火を操り、神通力で心を読む読心術と超能力テレキネシスを操るそうだ。

 ・・・チート乙。この言葉しかねぇわ。他にも各種の“気”で弾を作って弾幕も張れるらしく、負けた事はほとんどないそうだ。



「(こんなのが現代にいたら銃とかでも無理ゲーじゃん)

 説明、ありがとうございます。一応、俺は“霊気”くらいしか持ってないんですね」


「ぬ? 説明していなかったか? 主も妾と同じ妖狐ぞ?」


「・・・・・・・・・は?」



 新しい人生は妖狐でした。なんか家に帰りたくなってきた・・・。






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