それ
靄は段々と近づいていった。
私はあの靄に触れたくなかった、あれに吸い込まれてまたこの世界に戻ってこれるか分からないからだ。
「いや、離して!!」
私は暴れたが男は離してくれない。
「離して!!」
叫ぶと私の体は急に軽くなった、と同時に急速に空中から落下していく。
(し、死ぬ)
そう思い目をぎゅっと閉じたがいつまで経っても何も起こらない。
私はそろりと目をゆっくりと開けた、そこには見覚えのある光景が広がった。
あの場所だ、私が4歳の頃にきた場所。
まるで違う世界、ビルなどの建築物などは一切建っておらず、荒れ果てた大地精気のない木々、。
川は紅く染まっていて血なまぐさい臭いが鼻にツンと来る。
”ドン ドンドン ドンドン”
空気が震えるほどの轟音か辺り一面に鳴り響いた。
私はその音にすくみあがり近くの岩陰に隠れた。
岩陰から音の主を盗み見た、それは人ではなかった。
私が知る限りあんな生物を見たことない。
それは、人の形をしていた。顔の部分は普通の男性だったが、体は違った無数の人の顔が体から浮き出ている。
手足は細く体ばかりが大きい、全体的な大きさは10mはこえている。
私は悲鳴を上げかけたがぐっと押さえ岩陰に隠れる、音が鳴り止み私は隠れていた岩陰から恐る恐る見た。
「ひっ・・・」
それは私のすぐ側まで近づいていた・・・
(気づいてる!!)
私はその場から一目散に逃げ出した。
「はぁ・・・はぁ・・・」
息切れ・目眩そんなのはお構いなしに走り続ける。
後ろは振り返りたくない、振り向けない。
”ドン ドン ドン”
音がし、私は振り返ってしまった。
追ってきている。それの顔は満面の笑み、細い手に鋭い爪、捕まったらどうなるかなんて、容易に想像がつく。
私は足にさらに力を込め走り続けた。