プロローグ
こんにちは、作者です。頑張って執筆するので応援よろしくです。
今、一羽の鳥が、谷を滑るように流れていった。
太古の河川の跡であろう深い渓谷を見下ろせば、繁殖期なのだろう、たくさんの鳥のつがい達が谷間を吹き抜ける風に舞っている。
「……もうすぐよ。もうすぐ、私もこの子達のように空を飛ぶことができるようになるわ」
「うん。そうなるね」
隣で鳥たちの姿に見入っていた少女が、やや興奮気味に語り出す。語りかけられている青年の表情は憂い気味だ。
「なに、『そうなるね』って。もっと何かないの?」
少女は青年の反応が気に障ったのか、頬を膨らませ、不快感を示す。
「確かにそれはすごいと思うよ。でも、なんだか未央に先を越されのがね」
「……悔しいんでしょ」
「……」
「司より私が先に偉くなるから悔しいんでしょ」
「……まあ、ね。悔しくないと言えば嘘になる」
少女の顔が綻びる。子猫を思わせる笑みだ。
「だったらもっと頑張って、私と同じくらい偉くなればいいじゃない」
「……努力します」
苦笑だったが、ようやく青年の表情が晴れる。
二人の周囲に涼やかな風が流れ、髪を揺らす。
「なあ」
「ねえ」
見事にタイミングが一致する。少女はついとそっぽを向き、青年は俯く。
「写真、撮ろうよ」
「写真?」
青年はバックパックから、黒い撮影機を取り出す。旧式のものだが、よく手入れされている。
「……冬に撮ったじゃない」
「冬季演習の時は、集合写真だったろ」
「同じよ」
「違うよ。今日はお祝いだ」
「……まったく」
「じゃあ、撮るよー」
「はいはい」
「……まんざらでもないみたいだね」
ピースサイン。しかも両手。青年がぼやくと、少女は口をとがらせる。
「こういうのはノリよ。ほら、司も早く来なさいよ」
「はいはい」
撮影機の無機質な音を聞きながら、少女の隣に収まる。
「二人のこれからの躍進を願って」
あの時のシャッターの音を、風の香りを、彼女の笑顔を僕はまだ覚えているだろうか