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星の待つ丘  作者: 羽遊
4/5

3話、口下手が二人

主要人物

狩主(カリス) 瑛人(エイト)

今井(イマイ) 満月(ミヅキ)

 僕の口は、おもに好奇心を原動力として動く。

 だからこの質問も、僕の好奇心を元になって口から出てきたのだろう。

「あっ……それはぁ……」

 その質問に対して、今井は口篭る。

 僕の英語の練習用ノート。あそこの裏に書かれていた、奇妙に上半身しか残っていなかったゴジラのような生き物の落書き。その付近に消しゴムのくず。落書きは鉛筆で書かれていたようだったから、消しゴムで消すことも可能。

 今井が、男子生徒によって悪戯された僕のノートの落書きを、消しゴムで消していた。あの教室で。

 でもそう考えると一つ、引っかかる事がある。なぜ今井は、その行動に至ったのか、ということだ。


「……はぃ、あたしですぅ」

 今井はずいぶん間を空けた後、そう述べた。

「あの時は、そのぉ、逃げて……すいませんでしたぁ」

 全くだ。僕が声をかけた時の今井の反応は、悪戯が見つかったときの子供のそれと同じだった。あんな行動とられたら、普通は悪戯されていたとか思うだろう。

「そのことは……いい。じゃあ、さ、なんで僕の所有物の落書きを、消してくれたんだ?」

 あまり上手くまわらない口で、問いかける。

 すると今井は斜め下を見たまま、

「て、手紙。入れようと思ってぇ……あっ、カリス君の、鞄に。それでぇ、その、勝手に鞄の中……あ、ごめんなさいっ……鞄の中、見たらぁ、ノートとか、教科書、いっぱい落書き……されてて……」

 いっぱい……って、あの机の消しくずの量を見ると、三冊四冊どころの話じゃないぞ。ほぼ全部落書きされてたんじゃないか?

 英語の練習用ノートを見た後、さっと他の教材やノートも見たが、落書きは一つも見つからなかった。つまり、最後一冊となった練習用ノートの落書きを消していたところで、僕がボコボコにされて教室に帰ってきたって訳か。

「落書き……誰にされたのかぁ、分からなかった、けどぉ……可哀そう、と思って……その、勝手に消しちゃ、まずかった……ですか?」

 何故そうなる。悪意のある落書きを人に消されて怒る阿呆はいないだろ。

 ここは、素直にいきたいが……

「別に、け、消さなくても、良かったのに……」

 こう、思い通りにならないのが僕なんだ。思った事と反対のことが口を滑る。

「あぅ……すいません」

 ほら、今井見るからに落ち込んじゃったじゃないか。

 そこから少々気まずい空気が流れ、二人とも何も話さない。


 そのまま約3分経過。ってどんだけ口下手なんだよ、僕たちは!

 と、僕はふと考えた。何故、僕はこの部屋に招かれたのだろうか。

 自然と視線が今井の隣の、白い箱へと移る。

 今井も僕の視線に乗って、終電となる白い箱へと目をやる。そこで彼女は目を見開き、なにかを思い出したような大げさな素振りで、

「あっ!手当て忘れてましたぁ……」

 とつぶやいた。

 ……僕も忘れてたよ。まず、そもそも顔にあまり痛みはないんだ。主に痛むのは、わき腹のあたり。

細くてヒョロヒョロした出で立ちの男子生徒だったが、蹴りは蹴りだ。あいつがしきりに僕に罵倒の言葉を浴びせてきたので、思いっきり顔を殴ってやったら、あちらはそれを本気の蹴りで返してきた。


 お陰で、昨日からズキズキしっぱなしだ。

 そんな僕の症状に気づくことなく、今井は白い箱の蓋を開け、中から消毒液とガーゼ、絆創膏をいくつか取り出した。

 自分では気が付かなかったが、どうやら顔には痣だけではなく、血が出ている箇所があったらしい。

 彼女は慣れた手つきでガーゼに消毒液を染み込ませ、トントンと僕の顔の傷を優しく叩いた。

 真正面には心配そうな表情の女子。実際こうやって見ると、一般男子から見れば今井はかわいい方だろう。

 目はその性格と比例し、優しそうな垂れ目。鼻は少し低めで、唇は桃色。下へ流れる黒髪が、大和撫子の雰囲気を醸し出している。その黒髪の中で光を湛えるのが、美しく白い肌。

 体系も別段悪くないだろう。一般の女子より足が細めで長い。それでいて身長は160cmぐらい。

 ……待て、狩主 瑛人よ。何故おぬしは女子の格付けを勝手にしておるのだ。

 と、そこで我に返ると、どうやら今井は男子に直視されるのに耐え切れなくなり、顔を真っ赤にして斜め下を向いていた。

「あのぅ……な、なんですかぁ……?」

「いっ、いや、悪い……」  

 僕も自分の顔がどんどん熱くなっていくのを感じていた。なんだこれは。こんなラブコメの様な展開、誰も望んでいないぞ。


 しばらく恥ずかしさを誤魔化すため目を瞑って待っていると、暗闇の先から「お、終わりましたぁ」と気弱な声が聞こえてきた。

 目を開けて、自分の顔に触れてみる。けっこう大袈裟に手当てがされているな。いつのまにか頭にも包帯巻かれているし。

 と、礼を言おうと今井を見ると、こちらも何か僕にいいたい事があるのか、チラチラと僕の顔を見てきた。

「ひ、あ、あの……もしかして、その怪我ぁ……虐め、とか、ですか?」

 そして、唐突にそんなことを聞いてきた今井。

「……そんなこと、お前に関係ないだろ」

 この言葉は、僕の本心だ。そんなこと知ってどうする。万が一、僕を虐める男子生徒に今井が「虐めをするな」と言えば、きっと彼女も虐めを受けてしまうだろう。

「……でもぉ……」

 が、今井もそこで下がらなかった。

「なんで、そんなこと聞きたがるんだ」

 ここで僕の虐めについて聞いて、彼女に何か利益があるとは思えない。

「もっ……もしかしたらぁ、カリス君も……」

 と、彼女は言いにくそうに視線を逸らしながら、こう言った。

「あたしと、同じなのかなぁ……て、思って」

 

 同じ?……

 しばし考えて、やっと気づいた。

「今井……虐めを受けているのか?」


 

「虐め」という単語がよくでてきますが、物語自体は前向きなものなので、心配しないでくださいね。

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