歪んだ同性愛
同性なんて関係ない。
"一緒になりたい"
そう思うことが、どうしていけないの?
ヒメミミ初の作品。
歪んだ愛の短編小説です。
________プロローグ_________
同性なんて関係ない。
私はただ、
"一緒になりたいだけ"
そう思うことが、どうしていけないの?
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女子校3年目の春。
通い馴れた通学路も年度が変わると初々しい一年生の面持ちで新鮮味が出る。
新学期には勿論もう一つの新鮮味が待っている。
しかしそれは、私にしてみれば落胆せざるを得ないものだった。
「…え?」
思わず口に出た、現実を疑心する言葉。
「あの子」と同じクラスだった。
クラスも違えば忘れられることもできるだろう、そう思ってこの沸沸と日々沸き上がる"恋心"を圧し殺してきたのに、此処にきて自分の性癖が憎い。でも、どうすることもできない。
私は女性しか愛せない。
そしてこれからは、「あの子」以外にきっと愛だの恋だのなんて想い、沸きもしない。
一生涯に一度の大恋愛だ。
17歳ながらにしてそう悟った。
「また同じクラス。これでミナとも3年間一緒だね、今年もよろしく。」
クラス名簿をしゃがんで眺めていた「あの子」は私に微笑みかけた。人よりも茶の強い眸と髪が、陽に透かされて一層煌めいていた。相変わらず愛らしい声でさばさばと言の葉を生み出す。
「そうだねー。ヒナと3年も一緒なんて嬉しいなぁ…今年もよろしく。」
半ば嘘ではあるが、本人を目の前にすると今年もこの愛くるしい声を聞いていられることを、素直に嬉しく思う。
でも、このままだときっと我慢できない。あの子が…ヒナが、好きだという気持ちに。
ヒナが好き。愛しい。
でも
だけど…
女が女を好きだなんて親にも友達にも言えるわけもなく、高3の春は穏やかに過ぎていった。
あれだけ押さえきれないと思っていた想いも、逆に本人と何も知り得ない友達が毎日目の前にいることで歯止めが効いていたのかもしれない。
人生で輝いている時間なんてほんの僅かなものなのだろう。文字通り中二病真っ只中だったあの中学時代は、自由奔放に生きている女子高生が羨ましくて仕方がなかった。しかし、実際高校生になったとたんにやれ進路だ、やれ大学だ勉強だと、遊んでいる暇など微塵もないではないか。(進学校を選んだ私の責任なのだが…)
そんな事をヒナと話していた。
AO入試を受ける準備をしはじめる友達がいるなか、私とヒナは塾近くのファミレスで猛暑避難に勤しんでいた。私もヒナも人前で話をするのは得意でなく(寧ろ苦手で)今の受験勉強といえばセンター試験の対策だけだ。
さばさばとした性格と口調に似つかわしくもないメロンソーダを、ヒナはもう5杯も飲んでいる。
学生の集まるファミレスだから、ちょっと可愛い子探しにと足を運ぶ男子高生もいるわけで、容姿の良いヒナを一人でドリンクバーのところまで行かせるのが心配で心配で。ヒナに合わせて私も5杯目の烏龍茶(カロリー0なのだ)を無理矢理胃に流し込んでいた。全く此方の気持ちも知らないでと烏龍茶を口に運ぼうとしたときにヒナが口を開く。
「ねぇ、勉強会しようよ」
「え…それは今してるのではないですか?」
「そうじゃなくて…泊まりでとか、なんか、合宿みたいな…」
そういって顔を赤らめるヒナがどうしようもなく可愛くて、
いじめたくなってしまう
なんて思いもなきにしもあらずだけれど、ヒナにいじけられて口を聞いてもらえなくなるのはごめんなので
「じゃあ、今度家にとまりくる?」
そう言った後、踊る胸を押さえ付ける思いで、ヒナの示した好反応を眺めていた。
休みも多い分、夏はヒナと一緒にいることができる時間が多かった。
この時に追い討ちをかけて更に募った想いは、この後で私を落とす分に充分な落差を作り上げた。