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勇者魔王短編作品

魔族に命乞いされた勇者ですが、絶対「バカめ!」って攻撃してくるので、油断しないようにします

掲載日:2026/08/31

 黒髪の精悍な若者である勇者ライルは、ある町を支配していた魔族ザンソンを追い詰めていた。

 ザンソンは赤い眼と青い皮膚を持ち、人間以上の身体能力を持っていたが、ライルの敵ではなかった。

 ライルは冷徹に剣の切っ先を突きつける。


「ここまでだ!」


「うぐ……!」


「さあ、トドメを刺してやる!」


 すると、ザンソンは――


「ま、待ってくれ! 命だけは……!」


「!」


「お許しを! お許しをぉ~!」


 情けなく命乞いを始めてしまった。

 ライルは考える。


(こいつはこの町でやりたい放題していたが、殺すほどの悪事をしたわけじゃない。それに、こういう奴の行動パターンは決まっている。どうせ、俺が許したとたん……)


『バカめ!』


(……って攻撃してくるに違いない。よし、決めた。いったん許そう。で、攻撃してきたら、返り討ちにしてトドメを刺してやる。その方がこっちの後味もいいしな)


 ライルは剣を納める。


「いいだろう。許してやる……」


「あ、ありがとう!」


 しかし、ライルは油断していない。


(さぁ、来い。攻撃してこい! その時こそお前の最期だ!)


 ザンソンは動かない。


(何をしている!? そうか、俺に隙がないから、攻撃できないんだな? だったらわざと後ろを向いてやる!)


 ライルはザンソンに背を向ける。


(もっとも俺は背後の敵でも感知できるし、相手を振り向きざまに瞬殺できる“急旋斬”も会得してる! さあ、いつでも来い! 一撃で仕留めてやる! さあ、さあ、さあ!)


 ところが、ザンソンは攻撃をしてこない。


(なんだと……!? こいつ、なんて警戒心が強い奴だ!)


 冷や汗をかくライルに、ザンソンはこう言ってきた。


「なあ、勇者さん。オレはあんたの強さに惚れた! よかったら仲間にしてくれないか!?」


 まさかの提案に、ライルは困惑する。


(仲間だと……!? そうか、こいつここでは奇襲を諦め、仲間になってから俺を仕留めようってんだな! 断ってもいいけど、その場合、またどこかの町で悪さする恐れもあるな……)


 ライルは決心する。


「いいだろう。仲間にしてやる」


「あ、ありがとう……!」


(お前の魂胆は分かっているぞ……。仲間に加わったと見せかけて、隙を見て『バカめ!』って攻撃してくるつもりだろ。そうしたら、一瞬で返り討ちにしてやる!)


 ライルはザンソンをパートナーとし、旅を続けることにした。

 ただし、心の中では決して油断しないまま……。



***



 ある日、ライルとザンソンは街道で夜を迎えることになった。


「今日はここで野宿しよう。テントを張るぞ」


「分かった」


 ライルは思う。


(宿での宿泊と違って、野宿は襲いやすい。こいつはここで寝込みを襲ってくるに違いない。今夜が勝負だな……)


 ライルは胸に剣を抱えたまま布団に入った。


(さぁ、来い! かかって来い! その時こそがお前の最期だ!)


 しかし、ザンソンからの襲撃はないまま、朝になってしまった。

 ザンソンはにこやかに話しかけてくる。


「おはよう。よく眠れたか?」


「……いや、あんまり」


「大丈夫か? ちゃんと睡眠は取った方がいいぞ」


 誰のせいだ、と喉まで出かかったが、さすがに口にはしないライルであった。



***



 ある夜、ザンソンがこんな提案をする。


「今日はオレが料理するよ」


「お、いいのか?」


「ああ、魔族の料理だから、人間の口に合うか分からんが……努力はするつもりだ」


「じゃあ頼むわ」


 ライルはニヤリとする。


(俺を毒殺するつもりだな……。俺は毒をチェックする道具を持ってる。もし毒を盛っていやがったら、それを証拠として叩き斬ってやる!)


 しかし、毒は入っていなかった。

 ザンソンが感想を尋ねる。


「美味かったか?」


「ああ、美味かったよ! ごちそうさまでした!」


 言葉とは裏腹に、なぜか不機嫌なライルだった。



***



 冒険は佳境に入り、ついにライルは魔王に挑む。

 横にいるザンソンをちらりと見る。


(とうとう二人でここまで来ちまった……だが、さすがにそろそろ裏切るだろ。この場面で裏切られると正直キツイが、返り討ちにしてやる!)


 ところが、ザンソンは真面目に魔王と戦う。

 ライルに比べると実力は低いが、的確なサポートで戦いを組み立てる。


「ダークトルネードォ!!!」


「む……! お、おのれ……!」


 魔力で竜巻を起こす得意技で、魔王の動きを一瞬封じる。


「ライル、今だ!」


「……ああ!」


 ライルは高く跳び上がり、魔王の脳天に剣を突き刺した。

 恐るべき強さを誇る魔王も、さすがにこの一撃を喰らっては、ひとたまりもなかった。


「ウギャアアアアッ……!」


 断末魔の叫びを上げ、魔王の肉体が消滅する。

 ザンソンが「やった!」と喜ぶが、ライルは油断していない。


(こいつ、さては魔王の後釜になるつもりで、俺に協力してたんじゃあるまいな……。だとすると、なんて計算高い奴だ……!)


 そう思っていると、ザンソンは意外なことを言った。


「オレはこの旅で人間たちの素晴らしさを学んだ……。だから、できれば人間たちと暮らしたい。いいかな……?」


 ライルはきょとんとしつつ、こう答えるしかなかった。


「……お好きにどうぞ」



***



 魔王を倒したライルは凱旋し、一躍英雄となった。


「勇者ライル万歳!」

「あんたはヒーローだ!」

「ライル様、素敵ーッ!」


 やがて、ライルは名家の令嬢と結婚した。

 魔王を滅ぼした勇者は、貴族の当主として、第二の人生を送ることになる。


 一方、ザンソンは王都の片隅に居を構え、魔族由来の薬などを売って生計を立てた。

 非常に効き目がよく、ザンソンの薬屋はたちまち評判になった。


 この頃になると、ライルはザンソンを疑うことはほとんどなくなっていたが、それでも、


(いつか『バカめ!』と襲い掛かってくるかもしれない……)


 という思いだけは心の隅に置いておいた。



***



 数十年の時が過ぎた……。

 老いたライルはベッドに横たわっていた。

 かつてのように剣を振るうことはおろか、体を動かすこともかなわず、今や動かせるのは口のみ。

 大勢の家族に囲まれつつ、ライルはこう告げた。


「みんな……ザンソンをここへ連れてきて欲しい。そして……二人きりにして欲しい……」


 家族らは言う通りにした。

 邸宅にザンソンが呼ばれる。


 ライルに比べ、魔族であるザンソンはまだ若々しさを保っていた。魔族の寿命は人間の10倍とも言われるので当然といえよう。


「……ライル」


「ザンソン、か……。私はまもなく死ぬだろう……だから、最期に言っておきたいことがあってな……」


「なにを言う! お前はまだまだ……!」


「いや……聞いて欲しい」


 ザンソンは押し黙り、ライルは絞り出すように言う。


「ザンソン、私はお前をずっと疑っていた……」


「……」


「命乞いをし、仲間になった時からずっと……。いつか、私や人間に『バカめ!』と攻撃してくるのではないかと……。なのに、お前は……そんな素振りは見せなかった……。お前を信じ切れず、すまなかった……」


 ザンソンは笑みを浮かべ、返す。


「気にするな……ライル」


 そのままゆっくりと告白する。


「オレも……最初はそのつもりだった。あの頃はまだまだ人間を見下していたし、とにかく助かりたい一心で命乞いをした……。ライル、お前にもいつか復讐してやろうとその首を狙っていた……」


 ザンソンは天井を見る。


「だが、やはり実力差は大きいからズルズル先延ばしにしてしまい……。しかも、どんどん腕を上げるお前を見て『ああ、これはライルについた方が賢明だ』ってことで、とうとう一緒に魔王様まで倒しちまったよ」


 ライルも口角を上げる。


「そうだったか……ふ、ハハハ……」


「アハハハ……」


 笑い合う二人。


「私……いや、俺もお前も……お互いにバカだな……」


「ああ、バカだった……」


「最後に、打ち明けられて、よかった……。ザンソン、幸せに、な……」


「ライル……」


 ライルの言葉はそれが最後となった。友の幸せを願いつつ旅立った。

 ザンソンは肩を落とし、つぶやく。


「最後の時間を、オレなんかのために使いやがって……。バカめ……」



***



 勇者ライルの名は、彼の死によって永遠のものとなり、今なお語り継がれている。


 そんなライルの相棒だったザンソンはというと、今も王国の片隅で薬屋を続けており、一年に一回、友の墓参りを欠かさない。

 毎年春頃になると、彼は墓標の前に花束を置き、笑いかける。


「いつか、そっちに行ったら……その時こそ『バカめ!』って攻撃してやるからな。覚悟しておけよ」






おわり

お読み下さいましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
ザンソン「バカめ! コメディーだと思って読んでまんまと感動させられたな!」 はい、二人の奇妙な友情に感動しました。←
ただのコメディかと思ったけど、良い友情物語でしたああああ(ノД`)・゜・。 素敵な物語をありがとうございます!!
ちょっと――――――――っ!? これコメディなのぉぉぉぉぉぉぉぉっ!? 感動のエンディングすぎいぃぃぃぃぃぃっ! バカめ(T_T) こんな涙腺にくるバカめなんて…………くそっ……バカめ(。・・。)
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