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魔女のまったりスローライフ

作者: 美波
掲載日:2026/01/14

気がつくと、私は真っ白な空間に立っていた。

床も壁も天井もなく、ただ白いだけの場所。


「……え?」


戸惑う私の前に、小学生くらいの少女が現れた。


「おはよう。君は死んだよ」


淡々と告げられたその言葉に、なぜか否定する気は起きなかった。

通勤途中の事故。即死。痛みはほとんどなかったらしい。


「だからね、次の人生をあげる」


「……次?」


「転生。よくあるでしょ?」


よくはない、と言いかけて、私は口を閉じた。

代わりに浮かんだのは、ずっと胸の奥にしまい込んでいた願いだった。


「……魔女になりたい」


誰にも縛られず、自分のペースで生きられる存在。

理由はそれだけで、十分だった。


「いいね」


少女は指を鳴らし、白い世界が光に溶けていった。



次に目を開けたとき、私は森の中にいた。

青い空、やわらかな風、土と木の匂い。


紺色のワンピースに、とんがり帽子。

――私は、本当に魔女になっていた。


森の中の小さな家は、木のぬくもりに満ちていた。

魔道書、杖、庭に咲く花々。


試しに呪文を唱えると、手のひらに小さな光が灯る。


「……できた」


それだけで、胸が少し軽くなった。



日々は、驚くほど穏やかに過ぎていった。


水の魔法で水を汲み、

風の魔法で家を掃除し、

火の魔法で簡単な料理を作る。


魔法は世界を変えるほど強くない。

でも、暮らしを少し楽にしてくれる。


森を歩けば、ウサギやリス、小鳥たちが姿を見せる。

妖精たちは光の粒になって、私の周りをくるくると飛び回った。


私は命令しない。

ただ、同じ場所にいるだけ。


それだけで、森は私を拒まなかった。



ある日の夕方、丘の上で森を眺めながら、私はふと思う。


(……不思議だな)


会社員だった頃は、

何かを成し遂げなければ、

役に立たなければ、

生きている意味がない気がしていた。


でも、今は違う。


水を汲み、

花に水をやり、

仲間たちと同じ時間を過ごす。


それだけで、心が満たされている。


夜、星空の下で小さな光を灯しながら、私は静かに呟いた。


「……ここでいい」


元の世界に戻りたいとは、もう思わなかった。


この森で、

魔法と共に、

ゆっくり生きていく。


それが、私の選んだ人生だ。


森のざわめきが、答えるように優しく揺れた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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