夜空に星がかすかに輝くその夜、 5
本作品に登場するすべての人物、団体、国家及び事件は全て作者の創作物であり、実在とは無関係です。
すべてフィクションですので、楽しんでお読みください。
5. 夜空に星がかすかに輝くその夜、
サズキとアサメはアオイの家の前に立っていた。
ドアが開くと、アオイの母親が薄明かりの灯火の下で姿を現した。
彼女の目は赤く充血しており、深い心配と疲労が顔のあちこちに刻まれていた。
一晩中眠れなかったようで、手に持ったハンカチで涙を拭いながら近づいてきた。
少年はアオイにあまりにも似ていて、彼女は一瞬混乱した。
「アオイ…だよね?」
ささやくように尋ねたが、自分でも確信の持てない声だった。
「アオイ!どこに行ってたの?なんで今になって帰ってきたの?
一晩中あなたのことを考えて眠れなかったのよ。
どこか痛かったりしなかった?」
嗚咽しながら少年をしっかり抱きしめた。
少年は怯えて母親の胸にすがりつき、
母親は一瞬も離さないようにぎゅっと抱きしめた。
「あなた…本当にアオイなの?」
不安がにじむ彼女の声に、
アサメは俯きながら申し訳なさそうに涙を流した。
「あ…ああ…うわあん…」
子どものように泣き出す少年の姿に
母親の目も再び赤くなった。
彼女は少年の頭を撫でながらささやいた。
「どんなに似ていても…私が恋しかったアオイじゃないって分かっていても…
私があなたを抱きしめたい気持ちは変わらないのよ。」
しばらくの沈黙の中、彼女は窓の外を見つめた。
夜風に揺れる木の枝の間から、月光がかすかに差し込んでいた。
彼女の心は不安と悲しみ、そして希望が入り混じった感情で重く沈んでいた。
少年はあまりにも似ていた。
サズキも、アオイの母も、最初はただ髪を染めただけのアオイだと思っていた。
一晩中眠れなかったアオイの母は、ただ久しぶりに帰ってきたアオイだと信じ、ためらうことなく少年を抱きしめた。
「アオイ…本当にあなたなの?」
ささやくように尋ねたが、心の片隅には疑いも浮かんでいた。
少年の銀色の髪は以前の黒いショートヘアとは違っていたし、
話し方や行動も慣れない見知らぬ様子だった。
それでも、その顔と眼差しはとてもよく似ていた。
だからアオイの母は心の奥底で込み上げる感情を抑えきれなかった。
アオイの母親は沈黙の中でしばらく眺めていた。
似た姿が、あまりにも苦しい真実を忘れさせてしまいそうだった。
けれど、あの子はアオイではなかった。アオイに似てはいたけれど、目の光が違っていたし、息づかいもどこか見知らぬものだった。
「ちょっと……出てくるね」
静かにそう言って、彼女は靴を履き、裏口から外へ出た。
何も言わなかったけれど、その肩は重く震えていた。
サズキはその背中を目で見送りながら、心の中でそっとつぶやいた。
(きっと大丈夫よ……ほんの少しだけ時間が経てば……)
一方、家の片隅では白髪の老人が深く息を吐き、窓の外を見つめていた。
彼はまるで海を思わせる大きな船長のようだった。
長い年月の重みを感じさせる彼の目には、悲しみと決意が同時に宿っていた。
「今日からお前は我が家の者だ。」
その重い言葉が、静かに部屋の中を満たした。
白髪の老人は無意識にため息をつき、言った。
「どんな運命か…」
風に乗って散っていく彼の言葉は、遠い海の向こうまで届きそうだった。
船の機関のような重厚な気配。
アオイの祖父であり、生涯を海で過ごした白髪の船長だった。
彼は静かにサズキとアサメを見つめた。
何も言わず、まるで目で判断しようとするかのように。
長い沈黙の末、彼は言った。
「部屋は…アオイの部屋のままだ。連れて行け。」
アオイの部屋の前に立った時、サズキは一瞬息を止めた。
馴染みのドアノブ。馴染みの匂い。
ドアを開けると、静かに整えられた部屋がそのままだった。
机の上には、アオイが使い終わったノートが、引き出しの片隅にはきれいに折り畳まれた下着と衣類が置かれていた。
アサメ は部屋の中をぼんやりと見回しながら指で壁を掃いた。
「あおい…ここにいたんだね。」
サズキはゆっくりと彼に続いて部屋に入った。
肩についた埃をぽんぽんと払いながら、ささやくように言った。
「ここは…あなたがいてもいい部屋ですよ。
私はもう…アサメくんがこの空間を受け継ぐのが当然だと思っています。」
アサメはまばたきをしながら彼女を見つめた。
その瞬間、サズキの眼差しがわずかに変わった。
彼女は引き出しを開け,下着を注意深く取り出した。
「アサメ 君が着る服は··· 私が準備します。
ふふふ··· あおいの服は私の分です。」
言葉は落ち着いていたが、サズキの心の内は高揚し始めていた。
このすべてを、自分が選んで着せてあげられるなんて…!
アオイの香り、そして今はアサメの肌…両方が私の手の中にあるのだ。
瞳がきらめいた。
表面上は何でもないように服を選びながらも、彼女の息は荒くなり、指先は微かに震えていた。
「せっかくだから、似合うものを選びますね。アサメくんにぴったりのものを。」
そして小さく、ほんの小さく笑った。
ふふふふ
声にならない欲望が、その笑みの裏に隠れていた。
そんなサズキをよそに、ベッドに横たわるアサメだった。
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