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アオイが消えてから、三日が経った。 4

本作品に登場するすべての人物、団体、国家及び事件は全て作者の創作物であり、実在とは無関係です。

すべてフィクションですので、楽しんでお読みください。

4. アオイが消えてから、三日が経った。



日本の田舎の海辺。誰の足も届かない静かな浜辺を、一人の少女が歩いていた。

白いワンピースを纏い、見事なバストとは対照的に174cmの長身を誇るその少女は、大きな麦わら帽子を深く被り、海を見つめていた。

彼女の名前はサズキ。村一番の名家の孫娘であり、静かにアオイを想い続けていた少女だった。


「アオイはどこにいるの…? 夜が暗いからって油断したの? それとも……もう、何かあったんじゃ……」


サズキは静かな海辺を歩きながら、胸に手を当て、息苦しさに深く息を吸い込んだ。

冷たい風が吹きつけ、静かな波の音だけが彼女の足取りを包んでいた。

アオイを担当していたボディーガードが姿を消して以来、誰もアオイを見つけられていない。このまま時間を無駄にはできない。

心の中の不安はどんどん膨らんでいった。


ボディーガードの影すら見えぬまま、自らあの古びた倉庫があった場所へ向かうサズキの目に、奇妙なものが映った。

血まみれの裸の少年が、波に押されて桟橋に打ち上げられていたのだ。


その少年はアオイにそっくりで、一瞬彼だと思った。

だが、髪はアオイとは違い、青みがかった色をしていた。

サズキはその少年を見つめながら、心が揺らいだ。

愛した、愛していると信じていたアオイに似た顔――

でも違う。髪の色が、違う。


空色の髪が光を浴び、全身には傷と血がべっとりとついていた。

少年は疲れたように目を閉じていた。

サズキはそっと彼を抱きかかえ、誰にも見つからぬよう自宅へ運んだ。


静かに服を着せ、ふかふかのベッドに寝かせた。

彼女は心の中で誓った。


「アオイじゃなくても、この子を守る。必ず……」


アオイが男の子だったらと何度も願った日々。

その想いで集めていた服の中から、半ズボンとタンクトップを選んで着せた。

まるで夢のようだった。けれど、アオイはどこにいるのか……。

ただ、この子が目を覚ましてくれることを願った。


少年の目が開いた。

それは人間の目ではなかった。

真っ赤な、捕食者の瞳だった。


突然、少年はサズキに飛びかかった。

サズキは驚いた。

一生お嬢様として育ってきた自分に、あそこまで荒く接してくるのはアオイだけだった。

そんな少年がさらに強い力で自分をねじ伏せようとしたとき、

サズキの心はすでにその少年の奴隷になってしまったかのようだった。



「は、はうっ……初めては……や、やさしく、お願い……」


!?


少年は本能的に身を引いた。

まるで威嚇する猫のように、不思議な音を立てた。


「きゃああ! そ、それで……ここはどこ? あなたは……だ、誰?」


「わ、私はサトウ ・サズキ……サズキって言います……」


「これ……不便だな……」


アサメは服が窮屈そうに裾を引っ張った。

脱ごうとしたが、どうすればいいかわからず戸惑っている様子だった。


「きゃっ、脱いじゃダメ! ダメ……だよね?」


サズキは顔を赤らめながらも、内心では嬉しさを感じていた。


「サズキ? サズキ……」


アサメはくんくんと鼻を鳴らし、何かを思い出したようにサズキの匂いを嗅いだ。


「……オレ、サズキ知ってる」


「えっ!?」


少年は震える声で、アオイの名前を口にした。


「サズキ……サズキ……アオイ……アオイが……」


涙が溢れ、まるで子どものように泣き始めた。

サズキはそっと近づいて、彼の背中を優しく撫でながら言った。


「何があったの? 大丈夫?」


少年はうつむき、しばし黙った後、つぶやいた。


「アオイは……もう、いない」


その声は震え、目には涙が浮かんでいた。


「それって、どういうこと……?」

「アオイは……死んだ」


小さな体が震え、涙が頬を伝った。


「黒いやつらが……アオイを襲った」


そう言って、少年は堪えていた涙を溢れさせた。

サズキは衝撃を受けたように、言葉もなく彼を強く抱きしめた。


「大丈夫、大丈夫だよ……」


すぐにサズキの目にも、涙が溢れ始めた。

少年はサズキの涙を拭いながら、そっと彼女の頭を撫でた。


「アオイが……してくれたこと」


サズキは切なげな眼差しで少年を見つめた。

その瞳には悲しみと不安、そして限りない憐憫が込められていた。


「ねぇ……これからは、なんて呼べばいい?」


彼女の声は控えめながらも、誠実な思いが込められていた。

少年はアオイの記憶と一部の感情を受け継いだ現実を、必死に受け入れようとしていた。

目を閉じ、そして静かに答えた。


「アサメ……アオイが、そう呼んだ」


その言葉には、どこか懐かしさと、名に込められた重みが感じられた。


「アサメ君……そう、君はアオイを食べ、その記憶と力を受け継いだんだね」


サズキは驚きと悲しみの入り混じる表情で、ゆっくりと頷いた。


「そうなんだ……少しずつ、アオイの記憶が君の中に流れ込んでいるんだね」


アサメは、少し不器用に、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「人間……初めてだから、まだ慣れない。時間……かかると思う」


サズキは優しく微笑みながら言った。


「まずは、アオイの家に行くのがいいんじゃない?」

「大丈夫かな?」


アオイの記憶にある家族のことを思い浮かべながら、不安そうな目で尋ねた。

サズキは首を横に振り、確信に満ちた笑みを浮かべた。


「心配しないで。アオイの家族はあなたを受け入れてくれるはずよ。アオイを失った悲しみは大きいけど、あなたももう家族だから。」


そして、少し秘密めいた声でささやいた。


「でも、アオイは事故でいなくなったことにしよう……私たちだけの秘密にしてよ…」



いつも読んでくださって、本当にありがとうございます。


作者Twitterはこちらになります。

→ https://x.com/KingPG_novel


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