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聖女は誘拐される、そして騎士団長が助け出す

作者: 安野葉月

 時代は神刻暦(しんこくれき)444年、不幸なことが年内に起こり得ると比喩(ひゆ)されたそんな時代。この時代で最も有名な事件と言えば『聖女サリナ誘拐事件』である。


 聖女サリナはグルア王国の『神ルシエル』を信仰する教会ルシエル教会の聖女です。彼女は誘拐されたその日、いつも通り教徒に対して教えを説いていました。その笑顔を振りまく聖女が街の人間からも人気で、近年嫌われている傾向にある宗教でありながら入信する者が増えているという珍しい事例が起きていたとか。


「神ルシエル様は今日も、そしてこれからもずっと……あなたのことを見守ってくれているでしょう。もし心細くなった時にはこの言葉を唱えて下さい……。アネシスと」


 聖女サリナは笑顔で教徒にそう語りかけた。それに教徒も「ありがとうございます! これで安心して暮らしていくことができる」と感謝をサリナに向けていた。


 ここまでは知っている者も多いでしょう、歴史本のあらすじにも書かれている誰もが一度は読んだことがある部分なのですから。


 そしてもう一つ、誘拐事件と記されている通りこのあと聖女サリナは誘拐されるのです。聖女が何故この時違う神を信仰する者に気づけなかったのか……これには諸説ありますが、一番信用できる噂は敵国の開発していた魔力遮断魔具を使用していたという説です。


 神の信仰は魔力の一部を捧げることで恩恵を受けることができるのですが、やはりそれが一番信用できるのかもしれません。


 話が()れましたね、ここからが本題です。聖女サリナはいつも通り聖女としての使命を全うし、人がいなくなった所で自分の家に帰ろうとしました。


「教徒さんも今日は来ないでしょうか? ……大丈夫そうですね、今日はもう帰りましょう」


 そう言う聖女サリナは聖堂の扉を開き外に出ようとしました、しかし。


「貴方は誰ですか!」


 聖女サリナが外に出ると黒いローブを着た、いかにも怪しいと感じる男が棒立ちしていたのです。聖女サリナは勿論警戒して名前を問いましたが黒ローブの男は……「女神……ミラエル様の……名の下に、お前を処する」と、まるで言葉の通じない操り人形かと言わんばかりの様子だったそうです。


「女神ミラエルッ! あなたはミラエル教の者ですか! この街になんの用ですか!」


「……」


 黒いローブを被っていた男は何も答えずにただ立っていただけでした。サリナは当時15歳の少女、いくら聖女でもこのような状況になれば恐怖もあるでしょう。己の力で撃退しようと、聖女にのみ使える魔法『セイクリッド・ヘブン!』という光魔法を行使しました。


 聖女専用の光魔法『セイクリッド・ヘブン』は相手を天に召すという力を持つ変わりに、その能力を行使すると体力の半分を消費するという諸刃(もろは)の剣なのですが、この時は焦りからこの選択をしてしまったのでしょう……。


「ハァ……ハァ……」


 敵は違う神の国に無断で入った違反者、無論神の怒りを買ったとみなされ魔法によって天に召されましたとされています。この部分は正確に覚えていなかったということで不明な所はあるらしいのですが……続けましょう。


「疲れました、流石にもう大丈夫ですよね」


 フラグを立ててしまったことが運の尽きだったのかは分かりませんが、聖女はこの時に影に潜んでいた残りの仲間に拘束され馬車に乗せられました。


「私をどうするつもりですか」


「……」


 その二人の男性は無言だったらしく、人間ではないようにも見えたとそう書かれています。その時期は騎士団も警戒していた魔物という新種族が発生した年でした……こう思い返してみると不幸年というのは本当ですね。


 馬車に乗せられ連れて行かれた場所はデリアという移民が多い大都市。この国が信仰している神がミラエルなのですが、この国には前々から良くない噂があったとか。


 サリナは馬車から降ろされるなり何処かも分からないような牢獄に入れられ、腕をロープで縛られながら水攻めをされました。そして鍵が閉められたと…。


 ここで聖女が攫われたという連絡が騎士団に行き渡りました。そうですね? 現騎士団長ファイン。


 そうなるかな、僕は当時子供だったからうろ覚えだけどね。


 そうですか、まあ無理もありませんね。この出来事は10年も前の話なのですから、しかしその本人達は今何処にいるのですか?


 ん? ああ師匠なら今は奥さんとデート中じゃない? 多分。


 多分とはなんですか、まさか浮気ではありませんよね?


 え? 違うって、多分……。アノリアも流石に気にしすぎだと思うけどね、っていうか僕達なんでこうやって語りしてるんだっけ? 


 ハァ……今更ですか? 私達はこの事件の中に疑問を持ち合わせていました。その答え合わせを行うと、そう言ったはずです。忘れていたとは言いませんよね。


 ……。


 忘れていたのですね、まあ良いでしょう。今私達がいるのは聖なる教会、神の目がある中でこのような失態は本来なら許されることではないですが、現聖女の私が許しましょう……。次はありませんよ?


 ハイハイ。


 ハイは一回。


 黙りましたか、しばらくそうしていて下さい。では再開しましょうか。


 聖女が(さら)われたという連絡が騎士団に行き渡った時、流石は騎士団長という所でしょうか? グランはすぐに行動を起こしました。


「何! 聖女が(さら)われただって! 第一騎士団を集めろ! 今すぐにだ! 場所は?」


「デリア王国です」


「クソッ! やられた。僕がいない時を狙うなんて」


「あの……申し訳ないのですが、もしグラン様がいても間に合わなかったかと……何故そこまで焦っているのですか? 聖女などいくらでも変わりが……」


五月蝿(うるさ)いッ! 僕は……彼女のことが好きなんだッ! 変わりなどいない、以上だ。そのことを知らなかったわけではないよな?」


 この一連の流れは副団長と行われた物でした。副団長は聖女を嫌っていた……そしてグランは聖女に恋をしていた、更に聖女本人もグランに恋をしていた……。まさか両思いだとは当時は思いもしませんでしたが、この時にグランは気づくべきだったのでしょうね。スパイの正体に。


 全くだね、師匠はなんであの時気づかなかったんだろう。


 それは……、例え嫌っていたとしてもそれは個人の感情に留まっていたからでしょう。


 グランは第一騎士団を動かしデリア王国に攻め入ることを決意しました……。


「聖女サリナ様、どうか無事でいて下さい。このグランが必ず救ってみせます」


 馬を鞭で叩きスピードを上げるグラン……。ここまでが序章ですね、ファイン? あの二人を呼んできなさい。


 分かりましたよ、じゃあ少し進めてて下さい。


 ええ、分かりました。


 グランは騎士団長として相手国に攻め入りました。そして国の門を突破してからは自分を止めるもの全てを怒りの形相でなぎ倒し続けました……。


「聖女の場所は……、聖女のいる場所は!」

 

 倒した敵に対してグランはそう言い続けた。デリアの人間は自信満々で誘拐をしたのですがどうやら一個人による計画だったようで、この計画は破綻に終わりました。


 この言い方からも分かる通りこの事件は無事に聖女サリナが救われて終わるのですが……。ここからの話は本人達に聞かねば不透明な所が多いのです。


 連れてきましたー! 


 来ましたよ? アリノア、グランだ。


 遅くなりました、元聖女、現グランの妻のサリナです。


 一々自己紹介はしなくて結構ですよ、ファイン? お疲れ様でした。ファインは扉を開けて出ていきます……。


 アリノア? 僕から言うのもなんだけど、そこは語る必要はないんじゃないかな? 


 ああ、失礼。いつもの癖で言ってしまいました。ではご本人二人に恋話(ラブストーリー)の部分を話してもらいたいのですが、良いでしょうか?


 ……もしかしてこの語り始めたのってアリノアが僕達の恋話(ラブストーリー)を聞きたかったから? ……そこまで輝いている目をされると話すのが恥ずかしくなってくるな。


 良いじゃない? あなた。私とあなたが結婚するまでの流れ語ってよ? アリノアに私も聞いてもらいたいし。


 そう、じゃあ話そうか。


 僕、グランは君……サリナが閉じ込められている塔の場所を聞き出して向かったんだ。意外と近くの塔だった、鍵は探してる時間が惜しかったから扉は僕の硬化魔法でぶっ壊したんだけど……。


 あの時はビックリしたのよ? いきなりバーンッ! て音がして血塗れのあなたが飛び込んで来たんだから……でも嬉しかったわ。


 ……ンッ! 気を取り直して、僕は塔の中に入ってサリナに一言。


「助けに来ました、聖女サリナ様!」


 今後悔することがあるならあの時超えが裏返ったことかな? いやー、今思い返しても恥ずかしい……。


 プッ! ハハッ! やっぱりあの裏返った声は思い出すと面白いね、でも可愛かったかな?


 ちょ! サリナ、笑うなよ! それに可愛いは言い過ぎじゃないか? 照れるじゃないか。……で、ここからはサリナにパスだ。


 ふふっ、分かったわ。私はその時助けに来てくれたグランに既に惚れていたのだけど……あの時のカッコ良さで更に惚れたわ。


「騎士団長様ッ! ……助けに来てくれて、ありがとうございますッ!」


 あの時グランが私に近づいてロープをほどいてくれて私はすぐに抱きついた、とても温かくて安心したのを覚えているわ……。


「温かい……とても安心します。騎士団長様ッ! 一つだけ言ってもよろしいでしょうか」


 あの時は僕泣いちゃったんだよね、悔しいけどあの事件が無ければ僕は君と、サリナと結婚することはできなかったんだよね。


 そうね、今思えばあんな馬鹿らしい計画、あの人にしかできないわ。


 あの人とは誰でしょうか?  


 副騎士団長だよ、サリナを嫌っていたのは全て計画通りだったらしいんだ。相手国に噂を流させてそそのかす計画だったらしい、そうすることで僕がサリナを救い特例で結婚を許すというね。馬鹿馬鹿しいに程があるけど……まあ。


 そうね、あの時の出来事で全てチャラよ。


「「私と結婚して下さいッ!」」


 そう、あの時僕達。

 

 私達は結婚したのだから……。


 満足です、私アリノアはもう思い残すことは……。


 ちょっと! 逝かないでって!  


 ジョークです、今回はありがとうございました。良ければまた色々お話を聞かせて下さい。


 できれば……ね。


 


 分かったこと……とてもスピード感のある恋愛だったこと、純愛だったこと……でしょうか。また機会があれば……。


ー完ー





 


 

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