悪魔召喚7 一応解決、一応
内心チラリと、自分達が乗り込んでこなければ儀式のようなものは成功していたのだから確かに問題なかったのかもしれないと思ったが、今完全に勢いにのまれて女はこちらを責めようとはしない。
「クソが、所長かそれともあの野郎呼ぶか!? いや時間ねえよなこれ」
『サトちゃんサトちゃん』
「どうした、なんかもう出てきそうなのか!?」
『いや、アレさ。たぶん出て来れないんじゃないかな』
「は?」
一華を見ればやや呆れた様子で魔方陣を指差している。女子高生もさっき女を見下ろしていた時のようにやや哀れむ視線を魔方陣に向けていた。
女に対して騒いでいたので気づかなかったが、音は先ほどよりも激しく鳴っている。
ドンドン、ドンドンドン、ガリガリガリ……。
激しくノックし、時にはひっかくような音。少ししては落ち着き、また激しく叩くような音がし始める。
「ウチの猫が部屋から出たいときこんな音させるわ」
女子高生がポツリと呟いた。中嶋も一華も頭の中で想像し、確かにそうかもしれないと納得した。
「要するにあれか。生贄捧げてないからこっちこれないのか」
『良かったね、そういう儀式で。魔方陣描いた時点で成立するやつとかだったら最悪だったよ』
「いざという時はそこの馬鹿を生贄にしなきゃいけないかと思った」
「ああ、その手もあった」
女子高生のセリフに関心したように親指を立てると、倒れていた女がヒっと息を呑んだようだ。
『で、どうすんのコレ』
いまだガリガリあちら側から引っ掻く音。時折グスン、とすすり泣くような音が聞こえなくもない気がしたが。音を響かせている魔方陣を指差す一華に、中嶋はニコリと笑顔を浮かべる。
「放置」
「それで、その後は警察に引き渡したんですか」
調査報告書を作りながら小杉がその後の経緯を聞いて呟く。
「一応殺人未遂と誘拐、あと部屋に塗りたくった血は動物のだったから動物愛護管理法違反か。女子高生の証言もあって女は逮捕された。まあ頭がおかしいと思われてるくさい、つーか実際オツムがカワイソウではあったが」
わからないことだらけでごたついたが、事件はあっさり片付いた。
まずあの時いた女は中嶋たちのターゲットの妹だった。姉妹そろって陰湿な性格だったようで、姉は嫌いな女への嫌がらせ、妹はオカルトにはまって儀式を試そうとしていた。女子高生は通りすがりだったらしい。
中嶋たちは悲鳴を聞きつけ駆けつけたという事にし、なんとか怪しまれず済んだ。ピッキングツールなど怪しいものは車に置いて窓を叩き割って侵入した偽装工作をしたのが功を奏した。まさか裏口を勝手に開けて入りましたなど言えるはずもない。
姉は警察が来てゴタゴタしている時に帰宅し、パニックになった妹を利用して家宅捜索をさせ姉の嫌がらせの証拠も上がった。中嶋の機転により、姉が妹にオカルトをそそのかしたのではないかという証言でっちあげたところ、警察が「怪しいものは全部調べよう」という事になったのだ。すると別の部屋からは数匹の犬猫の死体が転がっており、部屋を血まみれにするのに使ったものだった。
結局法的措置を取る必要もなく自動的に逮捕となり、依頼人からはとても感謝された。後は弁護士に相談して今後損害賠償を要求するのか考えるとの事だ。
「魔方陣はどうしたんです」
「音もしなくなってただのアートになってた。あの馬鹿姉妹が家に帰ったら床ドンされる毎日になるかと期待したんだけどな」
どうやらノックをしていた当人は絶対に開かない魔方陣を前に諦めてしまったようだ。まあ当然といえば当然なのだが、根性がないというか情けないというか。怖い悪魔のイメージからは程遠いように思える。
「何にせよ仕事はこれで解決、俺今月調子いいからたぶんボーナス出るぞ」
「あ、ご馳走様です」
「誰がおごるっつった」
ちゃっかりしている小杉を睨みながら立ち上がり、「コンビニ行って来る」と言って部屋を出た。