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幽霊と探偵  作者: aqri
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悪魔召喚4 探偵業とは犯罪ぎりぎりである

 目立つ、騒ぐ、脅すは基本NG。そういう方法をした方がいい場合もなくはないが、それでもやらないのがこの業界のルールだ。


「まあいいや、予定通りこっそり忍び込んで写真撮ってトンズラだな」


 目的地に到着し、車のヘッドライトを消す。人目につきにくい空き地に停め、念のためナンバープレートに劣化したカバーをつけた。ナンバープレートが見づらくなるカバーをつけるのは違法なので走行中はつけないが、こうやって車を置くときはつけるようにしている。ナンバーがばれては後々面倒だ。


「まあどうせレプリカの番号上からかぶせてるけど」

『本当に探偵って犯罪者に足突っ込んでるよねー』

「当たり前だ、正義の味方じゃねえんだぞ。そういうのは警察と検事と弁護士で十分だ。まああいつらも好き放題の犯罪者予備軍だけどな」


 ふんぞり返っていう事でもないが、こういう職業だとそういう人たちと衝突することも多いのだろう。佐藤探偵事務所も顧問や専属弁護士がいるくらいだ。

 中嶋が偽装しているうちに一華はあたりを見回す。暗いが幽霊である一華には周囲がはっきりと見える。人通りはなく、店などもないので監視カメラの類はなさそうだ。


『大丈夫、何もなさそう』

「んじゃ行くか」


 素早く駆け抜け目的の家に近づく。門扉はあるがカギも防犯もない。音を立てないように入り、裏へまわる。塀や植木もあるので外から見づらいのは好都合だ。


(こういう家ってつくずく空き巣に好都合な構図してるよな)


 張り込みや尾行をしていると建物にも詳しくなってくる。家を一周まわって窓など見れば、間取りもなんとなくわかるものだ。周囲の人に家の中を見られたくないからと植木を置いたりカーテンを閉めたりするが、それを喜ぶのは家主だけではない。言うなれば、家の中で何が起きていようとわからないということだ。空き巣などにとってはゆっくり落ち着いて仕事ができる絶好の環境となる。今回の場合なら、家主にとって好都合な作りなのだが問題は家主がイカレているという点だ。


 裏口に手をかけると鍵がかかっている。ふむ、と少し考えると一華が首だけドアをすり抜け鍵を確認する。頭だけドアの向こうにあるという図がなんともシュールで一昔前のコントを見ている気分になるが、これはこれで便利だったりする。


『古い鍵だね。学校の非常口とかについてそうな』

「ああ、ノブの真ん中にあるつまみを縦横に動かしてかけるやつか」

『お、今の説明で通じるんだ』

「学校の侵入もするから」

『そういう理由?』


 なんでも知ってるなあ、と少し感心しかけたのだが言われてみれば詳しい理由なんて仕事で使うからだ。それにしても学校に侵入する依頼って一体、と気になる。

 ピッキングツールを取り出すと、一華が中嶋に憑依する。暗いのでライトを使って照らすより、一華に憑依してもらって「目」を借りたほうがリスクが少ない。

 憑依の使い方は様々だ。通常は一華がとりついた人間の能力をつかえたりするのだが、霊感のある人間はコツを掴めば逆に一華の能力を使う事ができる。一華の記憶を見せてもらったりできるのもその使い方の一例だ。

 幽霊は夜目が利くと分かったときも真っ先に思い浮かんだのは「ピッキングに使える」という点だった。


『ろくでもないことを直ぐに思いつくねー』


 頭の中に一華のツッコミが響いた。うるせ、と内心で返す。憑依している間はお互いの思考が読めたりする。そうさせない方法もあるが、今は読まれて困ることもないのでそのままだ。

 一分もたたずあっという間に鍵が開いた。そっと開けば、普段はあまり使っていないらしく荷物が置いてあり足の踏み場がない。一華の目を借りているのではっきり見えるが、気をつけないと蹴倒して物音を立ててしまいそうだ。

 家の中に人の気配はない。しかし廊下の奥にある部屋からはわずかに光が漏れており、微かに何かの音が聞こえてくる。

 あの部屋だ、と一華が言おうとしたときだった。


「やめてええええええ!」


 明らかに悲鳴と思われる叫び声が聞こえてきた。


「……」

『……』


 思わず二人とも沈黙する。憑依している一華は確かに、中嶋の「あ、帰ろうかな」という思考を読み取った。


『はよ行け』

「はいはい」


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