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幽霊と探偵  作者: aqri
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恋占い1 一華の元恋人

 なんとなくだった。


 なんとなく、ふと家族の顔が見たくなった。しかしいざ家の前まで来ると家に入るのを何故か躊躇ってしまう。一体何が見たいのか。自分だけが置き去りにされて進んでいる家族の時間だろうか。

 結局、家族の顔を見ることはなくそのままトボトボと歩き慣れた近所を歩く。目的もなく歩いていたはずなのに、結局辿り着いた先は空家だった。人が住まなくなって結構年数が経っているが取り壊されず残っている。ここが自分の最後の場所だ。後で聞いたが、ここで自分は殺された。全く覚えていないが。

 何故死んでしまったのだろう。何故成仏できずこの世にとどまっているのだろう。いきなり死んだのだから未練は確かにあるが、そこまで頑なに執着しているわけではない。もし生まれ変わりというものがあるのなら、次の人生へと旅立ちたいのに。

 じゃり、という足音に振り返ると目を見開いた。そこにはかつての恋人が歩いてきていたのだ。こちらに彼の家はない。ここを通るのは、自分を家まで送ってくれた時だけだ。


「……て……」


 声をかけようとして言葉を止める。聞こえるわけがないのだ。彼は空き家をチラリと一瞥したが、そのまま止まらずに歩いていってしまう。スルリと自分をすり抜けて……。

 まだ、自分の事を引きずってしまっているのだろうか。付き合って一年近く、一番幸せな時だった。いきなり死んで……それも殺人で犯人も捕まっていない。彼にとってそれが未練となってしまっていないだろうか。

 次の恋を探して欲しいと伝えたい。どう頑張っても自分が生き返ることなど、彼とまた話すことなどない。だったら彼には幸せになって欲しい。彼の事がまだ好きだという複雑な気持ちはあったが、幸せになってほしいというのも紛れもない本音だった。彼はかっこいいし、女子にも人気がある。きっとすぐに可愛い彼女ができるに違いない。自分よりもイイ子だといいな、などと目に涙を溜めて思う。

 しかしその思いは一瞬で打ち砕かれる。後ろから走ってきた同じ制服の女子生徒が、彼の名を呼びながら腕に飛びつきそのまま一緒に帰っていった。後ろ姿の彼の表情は見えない、幸せそうな顔をしているかどうかわからないが確認したくもなかった。走ってきた女の顔と声にはまぎれもなく覚えがあったからだ。

 その光景を見た遠藤一華は呟いた。


『……ガッデム……』



 朝九時。出社した小杉綾乃は事務所に入るなりぎょっとした。いつもなら朝いるメンバーがおはようと声をかけてくるのだが、その日は中嶋と一華しかいない。中嶋は夜中動いていたらしくソファで仮眠中、そして一華は天井で体育座りをしてじっと小杉を見つめてくる。その目は完全に死んだ魚の目だった。死んでいても一華の霊体は非常にイキイキしていたので、今の一華は悪霊のようでものすごく怖い。


「おはようございます……あの、一華ちゃんどうかした?」

『……世の中の幸せな連中が全員トイレ(大)を我慢してトイレに駆け込む時タンスの角に小指ぶつけて漏らしちゃえばいいのに……』

「いや、それ地味だけど凄く大変なことになっちゃうからね? どうしたの一体」

『Holy shit……』

「何で英語!?」

「……うるせえ……」


 かすれた声でむくっと起き上がる中嶋の顔にはくっきりと疲れがにじみ出ている。


「あ、すみませんサトさん。でも一華ちゃんが……」

「不貞腐れてるだけだ気にすんな」


 機嫌悪そうに立ち上がり、朝飯買ってくると言い残して事務所を出て行った。それを見た一華がふわりと天井から降りてくる。


『さすがにちょっとウザかったかなあ……』

「気にしない、徹夜明けは辛いものでしょ。で、何があったの?」


 優しく問われ、一華はションボリと昨日見た事を話した。


「恋人に新しい彼女ができててショックだったんだ」

『ちょっと違う。恋人できるのはいいよ別に。そうしてくれた方が私も未練なくなるし……そうじゃなくて、恋人になった奴が問題! 何であいつなの!』

「知り合いなんだ?」

『……ずっとテル君……彼に片思いしてた奴なんだけど、私とテル君付き合い始めたらめっちゃ私の悪口とかネットに晒すようになってさ。他にも地味~な嫌がらせとか結構あったんだ。くっそー、私がいなくなった途端ここぞとばかりに……!』


 地団駄を踏んで悔しがる一華を、小杉は少々じっと見つめる。その顔は少し驚いているように見えた。

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