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幽霊と探偵  作者: aqri
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霊感者のスルースキル1 霊感者は干渉しない

 世の中に浸透している霊能者という類のものは、自分の力で霊を祓ったり霊に対して特殊なことができたり、大変便利のものだと認識されている。本当にそんなものがあるのかどうか霊()者である中嶋たちは知ったことではないが、霊能者と霊感者は大きく異なる。

 霊感者は幽霊などを見たり聞いたり感じ取る能力のことで、自分でどうにかする力などないのだ。そのため霊から一方的に干渉され続けるが、自分で対処できない大変厄介なものなのである。


 物心ついた時から霊感がある人間は自然と身に付けることがある。それは霊に対して徹底的にリアクションをしない、見えていない人間のふりをするということだ。うっかりばれてしまったら付きまとわれるどころではない。取り付かれていずれ命を落としてしまう。

 周りの人間に信じてもらうという努力はあっという間に挫折する、当然だ。それならば普通の人間として過ごす演技力の方を磨くほうが理にかなっている。


 この能力は幼い頃こそ自分は何をやっているんだろうと虚しくなるが、社会人なると大変ありがたいものだと痛感することができる。社会人に必要なスルースキルが格段にレベルアップしているからだ。

 どんなことが起きても動揺せず、咄嗟のことも冷静に対応できる。心臓を吐き出すんじゃないかという緊張の現場で目の前のおっさんのヅラが突風で吹き飛ばされても、笑って隠しカメラのシャッターを押す手がブレたりはしない。尾行していたはずのターゲットが突然踵を返して奇声をあげながらこちらに走ってこようが通行人のふりができる。


 ちなみに中嶋と小杉ではスルーの仕方にかなり違いがある。小杉はどんなことが目の前で起きてもニコニコと笑顔で本当に何も見えていないかのように全く無視、ガン無視だ。中嶋は基本は無視なのだが、仕事をしながらの時はさりげなくトラブルに対しても対応する。幽霊に見えることを気づかれていない範囲で、ごく自然に幽霊を遠ざける手段を使うのは手品としか言いようがない。


 佐藤が事務所を構えているだけあって佐藤探偵事務所の立地は完璧だ。たまに浮遊霊が通り過ぎたりはするが霊道から外れており、事務所の中を霊が居座ることはない。動物霊はたまに中嶋にくっついてくるが。

 しかも小杉が入社したことによってよろしくない霊が近くにいるときは気配を察知し、佐藤から魔除けなどの効果があるアイテムを使うことでなおさら事務所は固い守りに入っている。一華が事務所に現れてしまうまでは、この守りは完璧に作用していた。逆に何故一華はこの守りを無視できたのかいまだに謎だ。


 一華が現れる半年ほど前のこと。かなり久しぶりに佐藤探偵事務所内に霊が現れた。浮遊霊だったら本当にスルーするのだが、運の悪いことに今回は悪霊の類だったりする。

 何故出現してしまったのか、理由は簡単。外回りに行っていた探偵の一人が取り憑かれてきてしまったのだ。それとなく聞いてみると、尾行をしているとき近道の為に墓地の横を突っ切ったのだという。たったそれだけでついてきたのだからこの悪霊とよほど相性が良かったようだ、運が悪いとしか言いようがない。同僚のせいではないし本人も特に体調不良等は起こしていないようなので、放っておこうということになった。


 一応幽霊を寄せ付けないお守りなどがあって入ってきたのだからそれなりに強力な悪霊なのだろう。悪霊を火傷や刺激のように感じてしまう小杉は平静を装っているが時折眉のあたりがピクリと動く。かなり体調が悪いようだ。

 他のメンバーから見えないようにパソコンのチャットツールを使って早退すれば、と送ったが彼女なりに思うところがあるようでもう少し仕事をすると返事が来た。とんでもないものがいるのに中嶋を残して帰るのは気が引けるということなのだろう。中嶋は悪霊がいても別に体調不良にならないのだから気にすることないと思うのだが。


 この悪霊、一体どんな死に方をしたのか知らないがまあまあ酷い見た目をしている。頭は右半分がぐっしゃりと潰れていて全身血まみれ。手足はおかしな方向にねじ曲がっている。そのくせ真っ白い服を着ているものだからそれはそれは凄惨な姿だ、赤い服なのか白い服なのかとつっこみたくなる。しかしながらそんなものは幼稚園生の頃から見慣れている二人としては至って普通の光景である。

 十五分おきぐらいに金切り声を上げるが、そんなものは朝起きて目覚ましの音をきくのと同じくらい身近に聞いてきた声なので二人にとっては全く気にする要素ではない。悪霊には中嶋達に霊感があり自分の姿を認識されているとばれていないらしい。事務所の人間一人一人、じっくりとりついて様子を伺っている。


(学校の怪談話であったな。夜に学校に来た生徒が幽霊に追いかけられてトイレに隠れて。幽霊が一つ一つ扉ノックしながらここにはいないここにはいないで探してくるみたいな。自分の番になったらノックをしないからほっとしたら上から覗き込んでる的なやつな)


 何故自分から逃げ道のないところに入り込むのか全く理解ができない、そんなことを現実逃避しながら考える。どう考えても自分や小杉の番が来るのは時間の問題だ。

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