ストーカー12 小杉のばあさんとは一体……
「業鬼」が浮遊霊を使って行う簡単な式神のような存在で霊能者がインチキで使っていたであろうもの。今回のアルパカもコレに入る。鬼門に鏡を置いただけで跳ね返され、魔除けにも負けて部屋に入る事ができない、本当に簡単に対処できる存在だ。
そしてもう一つの「轟忌」、こちらが今回問題だった方。一華や小杉には伝えず、佐藤や小杉の祖母が関わるなと忠告をし小杉が悪寒に震えたとてつもない存在の方だ。依頼人の部屋がやけに寒かったのもこちらの影響だと思われる。
おそらく今回中根香織のストーカーは二人いた。会社でゴウキのやり方を聞き渡辺徹以外にも実施した者がいたのだ、それも轟忌の方を。そんなものを使うのが本当にストーカーと言っていいのかは疑問だが。
轟忌が一体何の目的のために存在するのかは知らない。少なくともストーカー行為に使うような中途半端なものではないはずだ。もっと恐ろしいもの、例えば呪術的なことや字の通りなら災厄を招くものなのかもしれない。これは完全にただの勘だが、依頼人が体調不良になっていたのもこちらの轟忌の影響のような気がする。
だから、そちらは佐藤に任せた。一華と一緒に渡辺の部屋に侵入した帰りにかかってきた佐藤の電話は、轟忌には絶対関わるなという念押しだった。そちらは自分の方でなんとかするから、そっちの依頼を完遂させるようにと指示があった。
実際中根の様子を見ると幸せそうでストーカー行為がピタリと止んだようなので佐藤の方もカタがついたようである。顔色もよく、体調も治ったのだろう。
もしかしたら依頼人にメールを送っていたのは渡辺ではなくもう一人の方なのかもしれない。あの渡辺の性格を考えるに自分の思いに気づいてほしくてやったようには思えなかった。根が真面目で心から相手を想っている誠実な人間だ、下着がどうのという内容を送るとは思えない。メールを詳しく調べていないのでわからないが。
もう一人のストーカーが誰なのか、何がしたくて轟忌を呼んだのかは知らないがこれ以上は本当に関わる気はない。佐藤もプロだ、もう一人の犯人の対処もしただろう。
悪魔騒ぎの時も感じたが、あまりにもセキュリティのないネット情報という宝の山は本当にやっかいだ。ほとんどがガセや冗談の類だが、極稀に本当にとんでもない結果を生むものが混じっている。そしてそれを見たものは何も知らないからこそ何も考えずになんとなく踏み込んでしまう。便利が故に、非常にやっかい。
佐藤にはすべて終わった事を報告しておこうとメールを開き文章を打ち始めたが。ふと気配を感じ一華かと思い振り返ると、涙目でじっと自分を見つめるアルパカと目が合った。
「……」
無言で固まる中嶋に、何かリアクションが欲しいらしくアルパカは続けてグリグリと背中に頭を押し付けてくる。
『ただいま、って、ええええ!? 何!? まさか例のアルパカ!?』
「え? えええ?」
買い物から帰った小杉と一華は中嶋に必死にじゃれつくアルパカに驚き駆け寄る。
『うわ、涙目だし。どうしたの』
「あー、自分を呼んだ主人が幸せになって、ほっとかれたんですかね。それとも契約終了させる事に失敗したとか? いずれにしても寂しくてサトさんについてきちゃったんですね」
よしよしと一華がアルパカを撫でると大人しく撫でられている。どこかしょんぼりしているように見えて、完全に捨てアルパカとなっていた。
「なんで俺なんだよ」
「サトさんって本当に動物から好かれますねー」
言いながら中嶋を覗きこんだ小杉はヤバイと思った。完全に目が据わっている。そしてこめかみには青筋が立っている。
「サトさんって本当に動物嫌いですよね」
「当たり前だ。クセェしうるせえし鬱陶しい。小杉、塩もってこい」
『可哀想じゃん飼おうよ、役に立つかもよ』
「却下」
ウルウルとした目で見つめてくるアルパカに中嶋は舌打ちをした。確かに特殊な呪術か降霊で現れたのだから塩程度では除霊できないだろう。中嶋が何を考えているのかわかったらしくアルパカはさらにショボンと落ち込んでしまう。
「小杉、ばあさんに飼ってもらえないか聞いておけ」
「あ、そうですね。おばあちゃんなら引き取ってくれるかも」
しっしっと手でアルパカを追い払い、中嶋は再びパソコンへと向かう。一華は落ち込んだアルパカを撫でながら励まし、小杉は早速祖母の家に電話をして要件を伝えた。
「うん、そう。じゃあよろしくね。え? うーん、それは味噌汁の具には向いてないんじゃないかな? だめだめ、殺さないでちゃんと逃がしてあげてね。たぶんそれアレだよ、クマモン」
「『だから何の話!?』」
業務など手につかなくなるような気になるキーワードの数々を並べる小杉を振り返りながら二人の叫び声が見事にハモったのだった。
「……味噌汁の具にされなきゃいいな、アルパカ」
『ゴウキですってば。でもまあ、確かに」
・ストーカー・ END




